手術により根治(完治)を目指すことができる早期肺がんのなかには、レントゲンやCT検査でははっきりと描出されないがんもあります。また、既に進行しており抗がん剤治療を選択する必要のある肺がんでも、直径が2cm以下の小型肺がんの場合、画像検査で確定診断をつけることは困難です。しかし、肺にある淡い影の正体を突き止めないことには、適切な治療選択をすることはできません。早期肺がんと小型肺がんの疑いがある場合に行われる気管支鏡的診断とはどのような診断法なのか、三田病院の岩崎賢太郎先生にお伺いしました。
肺がんは、発症部位により末梢型肺がんと中心型肺がんの二つに大別されます。一般の方にもイメージしやすい肺がんは、レントゲン検査などを行なうと肺に影がうつる末梢型肺がんです。一方、気管支の内腔に腫れのように生じる中心型肺がんは、レントゲンやCT検査では発見されづらいがんです。
本記事のテーマである「気管支鏡的診断」(気管支鏡を用いた診断)は、前者の末梢型肺がんのうち、早期のがんと小型のがんをターゲットとして行われています。
早期がんとは手術により根治を目指せるがんを指し、小型のがんとは直径2cm以下のがんを指します。原発巣の腫瘍の直径が小さくとも、胸膜播種*などを伴うステージ4のがんであることもあるため、小型がんと早期がんは異なります。
胸膜播種とは:がん細胞が、肺の表面を覆う胸膜に種をまくように転移すること。
たとえ病変が小型であっても病状が進行している肺がんは、手術により根治を目指すことはできないため、抗がん剤治療などを選択します。しかし、治療方針を決定する際には必ず「がんであることの確定診断」が必要であり、画像には描出されないような小さな小型がんでも組織や細胞を採取しなければなりません。気管支鏡は、このようなごく小さな腫瘍の組織採取にも有用です。
さて、気管支鏡的診断の対象は末梢型肺がんと述べましたが、私が医師となった当時は、気管支鏡的診断は中心型肺がんをターゲットに行われていました。
口から近い気管支に生じる中心型肺がんは、早期がんでなければ喀痰細胞診により診断することができます。しかし、レントゲンやCT検査を行っても、正常な気管支とがんのある気管支は同じように写ってしまうため、病変部を特定することはできません。
そのため、過去には喀痰細胞診により異常がみられた場合は、自家蛍光気管支鏡で正常部と病変部の色の違いをみる「光診断」を行っていました。私が医師となって、最初に興味を持った分野も、自家蛍光気管支鏡による中心型早期肺がんの診断です。
まずは過去に遡り、外科医である自身が気管支鏡的診断を専門に決めた理由と、肺がん治療における診断の位置付けについてお話しします。
私の出身母体である東京医科大学外科学第一講座は、古くから「外科医は手術をするだけではいけない」という理念を掲げてきました。診断から患者さんを送り出すところ、あるいはお看取りするところまで、外科医が責任を持って行なうことが医局のポリシーだったのです。
そのため、医局員のなかには手術を専門するために腕を磨く医師だけでなく、より正確な診断を極めようとする医師も存在しました。私は後者に該当します。
このような背景があるため、私は手術を選択しないで根治を目指せる道がある場合は、患者さんの心身に負担をかける手術は回避することが望ましいという信条を持っています。
また、医師の家系に生まれたわけではなく、患者家族の立場になった経験も持っていたことから、私はもともと「手術」のイメージを患者側の目線で捉えていました。仮にレントゲンやCT検査によって、明らかにがんだとわかる所見が認められた場合は、患者さんも手術を受けることに納得がいくでしょう。
しかし、がんなのか否か疑わしい所見がみられた場合はどうでしょうか。このとき、患者さんには「できれば切りたくない(あるいは切ることに対し納得できる理由が欲しい)」という心理が芽生えることが多く、積極的に手術を選択する主治医とは精神的な方向性が真逆を向いてしまうことがあります。
ですから私は、手術を決定するならば患者さんに納得してもらうだけの材料がなければいけないという考えを持っています。診断とは治療方針を決定づけるものであり、同時に治療を受ける患者さんの納得材料にもなるものだと考えています。
このような思いから、レントゲンやCT検査ではほとんど描出されない早期肺がんや、確定診断が難しい小型肺がんに対する気管支鏡的診断に注力しています。
冒頭で中心型肺がんと末梢型肺がんの違いについて解説しました。現在、喫煙を主な原因とする中心型肺がんは喫煙率の低下とともに減少しており、末梢型肺がんは検査精度の向上と共に増えています。つまり、過去には発見できなかったがんもみつかるようになったということです。私の入り口は中心型肺がんであったものの、時代の転換期に医師となったため、現在では末梢型肺がんを対象としているのです。
現在、肺がん治療の世界では個別化医療が進んでおり、それぞれの肺がんに応じた治療を行なうために、遺伝子検査が重要な立ち位置を占めています。ここで重要なことは、遺伝子変異の有無は「腫瘍細胞があってはじめて調べられる」ということです。肺がんに関連する遺伝子変異は血液検査でも調べることができますが精度は高くはありません。正確性の高い結果を得るためには、腫瘍自体の組織を採取して遺伝子検査を行なう必要があります。手術適応となる患者さんには腫瘍があるわけですから、がん細胞の採取も容易です。しかし、手術ができない進行がん患者さんで遺伝子検査などを行なう必要がある場合の診断は、口から気管支鏡を挿入し、組織を採取するしかありません。このような場合、気管支鏡的診断を行います。
現時点では、レントゲン検査で500円玉大の影が写るような明らかな肺がんも、気管支鏡的診断によりやっとわかるような1a1期の肺がんも、同じ侵襲の手術を行なう必要があります(※早期がんの場合)。
しかし、今後は末梢型の早期肺がんであれば、手術以外の治療法が選択される時代が来る見込みもあると期待しています。たとえば、既に導入している施設もある定位放射線治療が、ガイドラインで標準治療として示される可能性は高いと考えます。また、臨床段階にある末梢病変に対するPDT(フォトダイナミックセラピー、光を照射することでがん細胞を死滅させる治療)の確立も待たれます。
将来的に早期肺がんの患者さんに「切らない」という選択肢を提示できるようになれば、自身が専門としている気管支鏡的診断により負担を減らすことのできる患者さんも増えるのではないかと感じています。
次の記事では、気管支鏡的診断とは具体的にどのようなものかを解説します。
関連の医療相談が26件あります
ガンマナイフ治療効果について
私の治療に関する質問と言うより、治療効果そのものに対する質問です。 ガンマナイフ治療について、その効果について多数の機関が情報を載せていますが、「80%〜90%の治療効果」的な表現が多いかと思います。 大変、効果のある治療と思いますが、反面、「10%〜20%は効果が出ない。」と言う事もあるのかな?と思ってしまいます。 そこで質問ですが、 ①ガンマナイフ治療後の効果判定は治療後どのくらいで実施されるのでしょうか ②残念なことに、期待した効果が出なかった場合の治療方法はどのようなものが考えられますか? 教えて頂ければ幸いです。
高齢者のがん 治療方法について
父が肺がんで、ステージⅢ、他所への転移は見られないが、同肺内での転移は見られると診断されました。高齢のため、手術及び全身への抗がん剤治療は勧めないと医師に言われ、現在、分子標的薬の検査をしている段階です。検査入院から1か月が経ち、治療するとしても、いつから始まるかわからない状態です。本人は、咳、痰の症状以外は、元気の様子ですが、このペースで治療待ちをしていて良いのか、他の治療方法も検討した方が良いのか、教えてください。
CT検査にて、肺がんと診断されました。今後の選択肢について教えて下さい。泣
東京在住、28歳会社員です。 5日前、私の大好きな大好きな広島に住む祖父が肺癌と診断されてしまいました。毎日、涙が止まりません。遠く離れた場所でコロナの感染リスクを考えると、お見舞いに行くことすら許されず、途方に暮れながらも情報収集をしていたところ、このサービスの存在を知り、この度ご質問させて頂きました。 祖父の現在の状況は下記です。 先週、高熱を出し、病院に行きPCR検査を受けたところ陰性でした。しかし、CT検査を実施したところ肺の1/3程度の影があり、肺がんだと診断されました。 詳しい検査をするため、がんセンターの呼吸器内科に転院する予定です。 これまでの病歴として、私が知ってる限りでは、10年ほど前、肺気腫(喫煙者であったが肺気腫と診断され、そこから禁煙)になり、その後、自律神経失調症と診断され、真夏の布団の中で背中が冷たいと感じるようになり、1日のほとんどをベットで過ごすようになりました。また2.3年前には、肺炎で入退院を2回しています。 まだ不確定要素も多く、判断が難しいかとは思いますが、今回は、本当に診断結果が正しいのか?そして肺がんの場合、祖父にとって最善な治療法は何か?(外科的、内科的治療含めて)など、これからの選択肢について教えて頂きたいという一心でご連絡致しました。 祖父が、今まで通り祖母と仲良く家で暮らせる日々を取り戻してあげたいという一心で、今回ご連絡させて頂いています。どうかどうかよろしくお願いいたします。
肺がんの手術と心臓弁膜症
肺がんステージ1との診断があり、来月手術予定ですが、心電図検査で心臓に異常が見つかりました。心臓弁膜症は5段階の3との診断結果ですが、肺がんの手術には問題ないので、薬や治療等何もうけていません。本当に大丈夫でしょうか?息苦しいなどの自覚症状は昨年秋ごろから続いています。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「肺がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。