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インタビュー

ダヴィンチ®による肺がん最新手術。肺がん治療のこれから

ダヴィンチ®による肺がん最新手術。肺がん治療のこれから
池田 徳彦 先生

東京医科大学 呼吸器・甲状腺外科 主任教授/東京医科大学 副学長(医学科長)

池田 徳彦 先生

この記事の最終更新は2016年01月05日です。

東京医科大学呼吸器・甲状腺外科主任教授の池田徳彦先生は、2010年に日本で初期に内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ®」を呼吸器外科に導入し、ダヴィンチ手術をスタートさせたパイオニアとして知られています。また、富士フイルムメディカル株式会社と共同で3D画像による手術ナビゲーションシステム「シナプス・ヴィンセント」を開発されました。この記事では、肺がん治療の最先端技術についてお話しいただきました。

ダヴィンチ®は、内視鏡を使ったこれまでの胸腔鏡下手術とは異なり、カメラとロボットアームを術者が患者さんとは離れたコンソールの中で操作して手術を行います。内視鏡カメラとアームを患者さんの体内に挿入し、術者が3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かすと、アームやその先の手術器具(鉗子)が連動して正確に手術を行うことができます。

東京医科大学呼吸器外科では、2010年から縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)の手術をダヴィンチ®で行っています。左右の肺の間にある縦隔と呼ばれる部位に発生する縦隔腫瘍は、できる位置やがんの種類もさまざまです。代表的なものには胸腺腫(きょうせんしゅ)や神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)などがありますが、ダヴィンチ®は難しい位置にある病巣に対して、思い通りの角度から適切に安全な手術を施すことができます。

縦隔腫瘍の手術は、ダヴィンチの持つポテンシャルを十分に発揮できる領域であると同時に、患者さんの安全性を十分に確保でき、確実にメリットをもたらすことができます。そこで、東京医科大学の呼吸器外科では、まず縦隔腫瘍の手術においてダヴィンチ®の使用実績を積み重ねてきました。

医師にとってのメリット
・  3Dカメラによる立体画像と最大15倍の拡大視野(スーパーアイ)
・  従来の目視下や胸腔鏡では視野がとりずらい部位でも視野を確保
・  3本のアームを用い、人の手では困難な狭い場所での精密な操作が可能に
・  術者の手ぶれを自動で制御し、ロボットアームは繊細で細かい動きに

患者さんにとって従来の胸腔鏡手術を凌ぐ大きなメリットがあるかは調査中ですが、下記の利点は認められています。
・   傷口が小さい(8~12mm×最大6カ所)
・   術後の痛みが少ない(皮膚・筋肉の大きな切開をともなわないため)
・   回復が早い(入院期間の短縮)
術者が手術がやりやすいことが、患者さんの安全に反映されることも十分考えられます。

縦隔腫瘍の手術ではダヴィンチ®のメリットと安全性が認められており、今後は肺がんへのダヴィンチ手術の適応が期待されています。しかしながら、手術の基礎となる開胸手術、そして内視鏡を用いた胸腔鏡手術の十分な知識・技術・経験が必要であることは、ダヴィンチ®を導入しても変わることはありません。東京医科大学呼吸器外科では、まず完全胸腔鏡下手術をしっかりと確立するという方針を共有してきました。

現在では、肺がんに対してダヴィンチ手術と完全胸腔鏡下手術を比較できる十分な体制ができあがっていると考えています。ただし、ダヴィンチ手術は保険適応でなく、費用に関して検討しなければならないという制約があります。

また、肺動脈のような非常にデリケートな血管を扱う場合、これまでの内視鏡下手術であれば、鉗子で触れたときに指先に感覚が伝わるのですが、ダヴィンチ®ではその感覚がなく、視覚に頼って手術を行うことになります。このような点はダヴィンチ手術を多数経験していく中で解決していく部分もあるでしょうし、ダヴィンチ®自体もまだ完成形ではなく、おそらくもう一段階も二段階も進歩していくのではないでしょうか。

「SYNAPSE VINCENT(シナプス・ヴィンセント)」は、CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)の2次元画像を元に、3D画像を構築することができます。

 

肺3DVR 
気管支の自動抽出で高精細な画像を提供。


  

肺切除解析
血管・気管支の支配領域を計算し、離断面から腫瘍との距離を自動計算する機能を搭載。

(引用:富士フイルムメディカル株式会社 3次元画像解析システムボリュームアナライザー SYNAPSE VINCENT イメージギャラリー

※下記のWEBサイトにて、術前シミュレーションの動画を見ることができます。

東京医科大学病院 『手術支援ロボット「ダヴィンチ」徹底解剖』

例えば、肺の手術をする場合、切除する部分に流入する血管を処理する必要がありますが、SYNAPSE VINCENTでは通常のCT画像データから、ほぼすべての血管を3次元画像で描出できます。手術で処理するすべての血管を手術前に正確に描出できるということは、非常に良いシミュレーションになると同時に術中のナビゲーションにもなります。

 

もうひとつ大きな利点として、血管の走行が解剖の教科書とは異なる患者さんの手術の場合が挙げられます。通常とは異なる部分から重要な血管が出ている方は、手術中の所見で約10%ありましたが、SYNAPSE VINCENTではそのすべてを手術前に把握できました。通常のCT画像も私たちは精密に読んでいますが、2Dの一般的なCTではその半分しかわかりませんでした。SYNAPSE VINCENTでしっかりとリハーサルをやっていくことが綿密な手術準備になり、結果的に安全性を高め、手術をよりスムーズに行うことに大きく貢献することは間違いありません。


 

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