インタビュー

気胸とは?肺に穴が開く原因や種類、特徴的な症状について

気胸とは?肺に穴が開く原因や種類、特徴的な症状について
林 和 先生

林 和 先生

この記事の最終更新は2017年08月18日です。

気胸とは肺から空気が漏れて肺がへこみ、胸痛や呼吸困難などの症状を引き起こす疾患です。気胸が発症する原因は患者さんによって異なり、明らかなきっかけもなく発症したり、肺への直接的な衝撃が加わったりすることで発症する場合もあります。また、何らかの基礎疾患に続発する形で気胸が起こることもあります。本記事では国際医療福祉大学三田病院呼吸器外科部長の林和(はやしあえる)先生に気胸の種類や原因、検査方法についてお話を伺いました。

胸部を抑えている人

気胸とは何らかの原因で肺から空気が漏れることで、肺が潰れてへこんでしまう疾患です。

肺の内部は緻密なスポンジ状になっていて空洞がたくさんあります。肺の周りは風船のゴムのような胸膜で包まれており、さらにその周りの肋骨や筋肉が壁となって肺を守っています。

肺から空気が漏れる原因は患者さんによってさまざまですが、共通した症状として胸の痛みや呼吸困難、咳などが現れます。なかでも、胸の痛みを主症状に訴えて病院に来る患者さんが多いです。

気胸は通常、左右どちらかの肺に発症しますが、まれに左右の肺に同時発症することもあります。この場合、呼吸困難の状態が長く続くと大変危険なので、早急に胸腔ドレナージ(胸腔内の空気をドレーンで体外に排出する治療)や手術が必要となります。

(治療法については記事2『気胸に対する治療、手術方法について 再発予防のためにできることは?』をご覧ください。)

自然気胸は、肺嚢胞(ブラ・ブレブ)という弱く脆い部分が破れて起こる気胸です。

肺嚢胞はお餅がぷっくりと膨らんだ様子とよく似た構造をしています。肺嚢胞内に臓器はなく、膨らんでいる部分が破れると、そこから空気が抜けて肺がしぼみます。

肺嚢胞が破れるきっかけは特になく、どんなときにも起こる可能性があります。たとえば、激しい運動をしたからといって発症するわけではなく、寝ているときにでも発症することがあるのです。

自然気胸は、背の高くて痩せている20歳前後の男性に発症しやすい傾向にあります。なぜこのような方が気胸を起こしやすいのかという理由は明らかにはなっていません。受験や就職などのタイミングで発症することもあり、ストレスも要因のひとつかもしれません。

タバコを吸っている人

肺気腫結核、間質性肺炎肺がんなどの肺疾患に併発して起こる気胸を、続発性自然気胸といいます。なかでも、肺気腫が原因で発症する方が多く、好発年齢は60歳代です。

肺気腫の発症原因には喫煙が大きく関係しているため、日常的に喫煙の習慣がある方は注意が必要です。

肺がんに続発する気胸は、腫瘍のある箇所が破れることで発症すると考えられますが、肺がんで気胸が発症する頻度は非常に少ないと考えます。

月経随伴性気胸とは女性の月経前後に起こる気胸で、子宮内膜症が原因であるといわれています。

子宮内膜症は、本来子宮にあるはずの子宮内膜組織が子宮以外の場所に定着してしまう病気です。月経期になると、子宮内膜が剥がれて出血を起こしますが、子宮以外の場所に定着した子宮内膜も通常の月経と同じように定着した部位で剥離と出血を起こします。

子宮内膜症は子宮近辺の卵巣や膣などに起こることが多いのですが、子宮から離れた横隔膜や肺にも定着することがあります。横隔膜や肺にある子宮内膜が月経のタイミングで剥離することで、剥離した部分にある肺に穴が開き、月経随伴性気胸が起こります。

月経随伴性気胸は、子宮内膜症を発症しやすい30〜40歳の女性に多く、治療では月経を止めるホルモン療法や月経期に合わせた外科手術が行われます。

外傷性気胸とは、交通事故などで肋骨が折れて肺に刺さったり、ナイフのような鋭利なもので刺されたりなどの外傷により発症する気胸です。

また、肺への直接的な外傷ではなくても、胸部に「ドン」と鈍的な衝撃が加わることによって気胸が起こることもあります。

医原性気胸とは、何らかの医療行為に伴い起こる気胸です。

たとえば、気管支鏡検査(口からカメラを挿入して肺の組織を採取する検査)やCTガイド下肺生検(主に肺がんの診断目的で、CT 装置で確認しながら肺に生検針を刺して行う検査)の際に、肺を包んでいる胸膜を損傷してしまうことで気胸が起きることがあります。

また、ペースメーカーや高カロリー輸液を注入するための管(CV)を挿入する際には鎖骨の下にある太い静脈を穿刺して行うのですが、このときにも胸膜を損傷させてしまうことがあります。

ですから、医師は十分に注意をしてこれらの処置を行わなくてはいけませんし、処置を行ったあとは必ず胸部レントゲン撮影をして、気胸を発症していないかどうかを確認します。

また鍼治療の際に、背中から刺した鍼が肺に到達して気胸を発症することもあります。

緊張性気胸とは、肺から空気が絶えず漏れ続けることで、もう一方の正常な肺や上大静脈(全身から右心房に血液を集める静脈)が圧迫されたり偏ったりしている状態をいいます。

緊張性気胸になると、正常な肺も圧迫されてしまうので重度な呼吸困難に陥ります。また、上大静脈が圧迫されることで血管が押しつぶされて血液の流れがせき止められると、全身の血液が心臓に戻ってくることができなくなり、血圧が急低下してショック状態に陥ります。

緊張性気胸は生命の危機的状況となるため、早急に胸腔にドレーンを挿入して、空気を体外に排出することが重要です。

 

肺気胸レントゲン写真
気胸のレントゲン写真 林和先生ご提供

気胸は胸部レントゲン写真で比較的容易に診断することができます。

レントゲンで肺の状態を確認すると、上の写真のように気胸が起きている肺は虚脱して、下方向へ下がっていることがわかります。

さらに詳しく胸の内部を確認したいときには胸部CT検査を行います。CT検査によって、レントゲンでは観察ができないような小さな嚢胞や、嚢胞の数や場所、胸膜癒着の有無、肺気腫等の基礎疾患などを明瞭に確認することができます。

また、打診では鼓音(こおん:太鼓を叩いたときのポンポンという音)を認め、聴診では呼吸音の左右差や減弱、消失を確認することができます。

気胸が発症して嚢胞が破れると、体はそれを自然に治癒させようと働きます。そのときに胸壁の部分に新生血管(新しくできた血管)ができます。この状態で2回目に気胸が発症すると、肺が虚脱して下がったときの衝撃で新生血管が引きちぎれて出血することがあります。この血液が胸腔内に貯留することで血胸となります。

この場合は出血を止めるための緊急手術を行うこともあります。

  • 日本外科学会 外科専門医・外科認定医日本呼吸器内視鏡学会 会員日本呼吸器外科学会 会員日本胸部外科学会 認定医

    林 和 先生

    呼吸器外科を専門とし、肺腫瘍(肺がん)、縦隔腫瘍、気胸など呼吸器疾患の診断・治療を行うエキスパート。外科手術のみならず、化学療法(抗がん剤治療)・放射線治療・緩和治療にも精通している。進行がんに対する緩和ケアの早期開始によって患者さんのQOL向上に努めるとともに、がん診療に携わる医師向けの緩和ケア研修会でも指導的役割を担っている。

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