気胸の治療法は、肺がどのくらい虚脱しているかによって異なります。肺から胸腔内へ漏れた空気は徐々に体内へ吸収され、破れた部分も自然と閉じるので、軽度の気胸であれば自宅安静が第一です。しかし、気胸の程度によっては人工的に空気を排出する胸腔ドレナージや嚢胞を切除する手術が必要となります。今回は記事1に引き続いて、国際医療福祉大学三田病院呼吸器外科部長の林和(はやしあえる)先生に、実際に林先生がされている治療法や、再発予防のために患者さんに指導していることについてお話しを伺いました。
※気胸の種類や原因、検査方法については記事1『気胸とは?肺に穴が開く原因や種類、特徴的な症状について』をご覧ください。
気胸の重症度は虚脱の程度によって大きく「軽度・中等度・高度」の3つに分類され、重症度によって適応になる治療法が異なります。
軽度気胸は、胸部レントゲンで確認した際に肺尖(肺の先端)が鎖骨の真上にあるか、またはそれより頭側にある場合の気胸です。中等度気胸は、軽度と高度の中間程度の状態であり、高度気胸は肺が完全に潰れてしまっている状態を指します。
軽度気胸の場合は安静にしていれば、肺に開いた穴が自然に塞がり、胸腔内に漏れた空気は自然と体内に吸収されて、だんだんと膨らんできます。基本的には入院の必要はなく、自宅で安静を保つように患者さんにはお伝えしています。数日おきに外来受診にきていただく必要はありますが、レントゲン撮影を行うと肺が少しずつ大きくなっていることがわかります。
患者さんによって差はありますが、約1週間程度で元の状態に回復します。
中等度または高度気胸の場合は、入院して胸腔ドレナージを行います。
胸腔ドレナージとは、脇の少し下あたりから胸腔ドレーンを挿入して、持続的にドレーンから空気を体外へ排出する処置法です。
ドレーンは水封(水を貯めてあるもの)につながっており、胸腔内の余分な空気が出ていれば水面がポコポコと動きます。肺が膨らんで、余分な空気が引けなくなったらドレーンを抜去します。
空気が完全に引けるまで約1週間程度ドレーンを挿入しますが、1週間以上経っても空気漏れが止まらない場合には手術を行います。
気胸に対する手術は、胸腔ドレナージで持続吸引しても空気漏れが止まらない場合や、再発性の場合、左右の肺に同時発症の場合、血胸(胸腔内で出血していること)を合併している場合に適応となります。
それ以外に、患者さんの社会的状況から手術を選択することもあります。
記事1『気胸とは?肺に穴が開く原因や種類、特徴的な症状について』で述べましたが、気胸は20歳前後の男性に発症しやすい傾向にあり、受験や就職などの時期に気胸になる方も多くいらっしゃいます。
手術を行うことで確実に気胸の治療ができますし、再発する確率も下げることができます。ですから、このような大切な時期に気胸を発症してしまった方は、タイミングをみて手術を受けられることがあります。
国際医療福祉大学三田病院で行っている気胸の手術は、ほぼ全例が胸腔鏡手術(全身麻酔下で胸に小さな穴を3箇所開けて器具を挿入して行う手術)で、最も一般的な術式は「胸腔鏡下肺嚢胞切除術」です。
胸腔鏡下肺嚢胞切除術とは、胸腔鏡で肺のなかを観察して、気胸を起こしている肺嚢胞とその周辺部の切除を行う方法です。切除には自動縫合機を使用しており、切除をすると同時にステープラーというホッチキスのような器具で縫合を行います。
胸腔鏡を使用した手術は開胸と比べると患者さんの身体的負担が少ないことが特徴です。手術時間は約1時間で、入院期間は約4〜5日間で行うことができます。
また、胸腔鏡肺嚢胞切除術に加えて「カバーリング法」を行うこともあります。
カバーリング法とは、嚢胞を切除した部分にセルロース素材の吸収性シート(約1ヶ月で体内に自然吸収)を被覆することです。カバーリングを行うことで、嚢胞の再発を抑えることができます。
現在、当院では開胸手術はほとんど行われていませんが、肺と胸膜が著しく癒着している場合には開胸手術を行います。
過去に肺に炎症を起こしている、または結核の既往がある方は癒着が強い傾向にあり、開胸手術が適応になる場合があります。
気胸を発症しているときはもちろんのこと、気胸の手術を行った直後は飛行機に乗らないよう、患者さんにご説明しています。
飛行機内の気圧は地上の約7〜8割にまで低下してしまうため、肺に大きな負担がかかります。再発を防ぐためにも手術後およそ1ヶ月程度は飛行機の利用を控えるべきでしょう。
また、過去に気胸を起こしたことのある方がスキューバダイビングを行うことはとても危険です。
海中で突然気胸を再発した場合、水面への浮上が困難になります。最悪の場合、死亡事故にもつながりかねませんので、スキューバダイビングは行わないようにと患者さんにはお伝えしています。
気胸が再発する確率は残念ながら高く、多くの文献では3〜15%であると報告されています。特に20歳以下の方に再発率が高い傾向にあります。
再発の箇所はさまざまで、右側に発症して、右側に再発を起こしてしまう方もいれば、右側に発症したあと、次は左側に気胸を発症する患者さんも多く見受けられます。
気胸の再発を防ぐためには、まずは禁煙を徹底することが大切です。
日常的にタバコを吸う習慣があると、慢性の気道炎症が起こりますし、肺気腫が発症する原因にもなります。慢性気管支炎や肺気腫があると、続発性の気胸を引き起こす可能性があるので、再発予防には禁煙がとても重要です。
また、栄養をしっかり摂ることや規則正しい生活を送ることも大事であると考えます。
私の経験ではありますが、気胸の患者さんには非常に痩せている方が多いです。特に、左右肺に気胸を同時発症している方は、拒食症の若い女性が多い印象があります。
このような経験から、確固たる証拠はありませんが、気胸の発症には栄養バランスも関与しているのではないかと考えています。
診療の際には、気胸の再発を防ぐために、禁煙と規則正しく栄養のある食事を心がけるようにと患者さんにはお伝えしています。
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