
HPVワクチンは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防する効果があるとされるワクチンのことをいいます。日本においては2013年4月に定期接種となりましたが、接種後のさまざまな症状の報告があり、国による接種の積極的勧奨が中断されてからすでに約7年が経過しています。しかし、現在でもその接種の是非についてさまざまな情報が飛び交っている状況です。そこで本記事では、HPVワクチンの有用性などについて現時点で科学的に根拠に基づいた情報をお伝えします。
※本記事は2020年6月26日時点の情報です。
子宮頸がん予防のためには、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診受診の両方が推奨されています。では “HPVワクチンを打ったから検診は受けなくてよい”、“将来子宮頸がん検診を受けるからワクチンは打たなくてよい”という考えはなぜ推奨されないのか、以下で解説します。
性器に感染するHPVは約30タイプが知られ、そのうち子宮頸がんと関連が高いのは約15タイプです。現在日本で接種可能なワクチンで予防できるのは、特に子宮頸がんの発生と関連が深いとされる16、18型の2タイプの感染です。そのため、それ以外の型への感染が原因となる子宮頸がん(全体のおよそ3~4割)は予防できません。
現在日本で行われている検診では、子宮頸部の細胞を採って異常な細胞が存在するかを調べる細胞診という検査です。この細胞診において、子宮頸がんやその前段階である前がん病変を持つ人が正しく陽性と判定される確率は5~7割です。つまり、実際にがんを発症していても“発症していない”と診断される可能性があることになります。
このようにHPVワクチンも子宮頸がん検診も共に完璧な予防策ではありません。そこでこれら二つを組み合わせることで相互に補完し合い、より効果的な予防を目指すという考え方が一般的です。
HPVワクチン接種がもっとも推奨されるのは初回性交渉前の女性に対してであり、現在の日本においてもHPVワクチン接種が公費補助の対象となっているのは小学6年生から高校1年生相当の年齢の女子です。
一部ではこの推奨が誤解されて“初回性交渉後の女性はHPVワクチンを打っても効果はない”と捉えられています。しかし実際、日本産科婦人科学会が医師向けに発行しているガイドラインには、これまでの研究では45歳までの女性に対するHPVワクチン接種の有効性が示されているとの記述があります。これはHPVワクチンには接種時点で“感染しているHPVの型”への治療効果はないが、“まだ感染していない型”への予防効果はあるとされているためです。そのため、日本産科婦人科学会では今後ワクチン接種を見逃した女性に接種機会を与えることが検討されています。
“性活動が活発でない人はワクチンを受けなくてもよい”という考えもしばしば見られますが、これも注意が必要です。HPVは性交渉により感染するため性交渉の回数が多いほど感染する危険性が高いというのは明らかですが、一度の性交渉でも感染する可能性はあります。実際、性交渉経験のある女性の50~80%がHPVに一過性に感染するとされています。このように、身近なウイルスであるHPVに対して、適切にHPVワクチンを活用することが推奨されています。
冒頭でも触れたHPVワクチンの安全性の考え方としては、ワクチンを含むあらゆる医療行為には“ベネフィット(利益)”のみでなく、“ベネフィットとリスク(害)”の両方が存在するという認識を前提に持つことが大切です。リスクのない医療行為は存在しません。たとえばHPVワクチンに限らずワクチンの注射を受けるとその部位に痛みが生じることがあり、これもリスクのひとつです。
そして一般的に医療行為は、社会全体に対するベネフィットがリスクを大きく上回るとされた場合に推奨されます。しかし、これは個人に対するリスクがゼロであるということではありません。ワクチン以外の医療行為、たとえば手術などを考えてみてもこれは同じです。ある病気に対して一般的とされる手術は、その病気を抱える人の多くには利益をもたらします。しかし、中にはその手術を受けることで亡くなるといった害を被る人もいます。HPVワクチン接種を巡る問題に関しても、個人がワクチンの価値を過信することも端から全否定することもなく、このような医療行為に内在するベネフィットとリスクの関係を正しく理解したうえで、現状の科学的根拠に基づいて判断するのがよいでしょう。
子宮頸がんワクチンは、世界で見ると接種がすすめられており、子宮頸がんによる死亡者を減らすことが期待されています。日本は現時点では積極的な接種を推奨していない状況ですが、一人ひとりが接種することで社会全体を守ることにもつながるといわれています。そのため、実際に接種する際にはワクチンの有用性とリスクを正しく理解したうえで判断することが大切です。積極的勧奨は中断されましたが、定期接種である位置付けには変わりません。厚生労働省ではHPVワクチンを含む予防接種についての情報の提供、または相談窓口を設置しているほか、各市町村でも予防接種に関する相談を受け付けています。そのため、ワクチン接種にあたり分からないことや心配なことがある場合は、厚生労働省あるいはお住いの各市町村の相談窓口に相談するとよいでしょう。
【厚生労働省】予防接種情報
【厚生労働省】感染症・予防接種相談窓口
国立がん研究センター中央病院 婦人腫瘍科 科長
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