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編集部記事

子宮頸がん治療の最新トピックス~内視鏡手術など低侵襲手術の今後の展望~

子宮頸がん治療の最新トピックス~内視鏡手術など低侵襲手術の今後の展望~
安藤 正明 先生

倉敷成人病センター 院長

安藤 正明 先生

目次
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子宮頸がんとは子宮の入り口となる頸部に生じるがんを指します。日本では年間およそ11,000人もの人が子宮頸がんと診断され、先進国で唯一患者数が増加傾向にあります。

子宮頸がんの治療方法には手術治療・放射線治療・抗がん剤などを用いた薬物療法などがあり、がんの進行度合い(ステージ)によって治療方法が検討されます。

今回は子宮頸がん治療に関する最新トピックス(2020年6月時点)について、倉敷成人病センターの安藤(あんどう) 正明(まさあき)先生にお話を伺いました。

子宮頸がんとは、子宮の腟側の部分である“子宮頸部”に生じるがんです。子宮に生じるがんには、子宮頸がんのほかにも“子宮体がん”がありますが、これらはそれぞれ原因・症状・治療方法などが異なる別の病気です。

子宮頸がんは性行為によってヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した方のうち、一部の方に発症します。初期症状はほとんどなく、進行すると性交時の出血や下腹部の痛みや腰痛などの症状が現れることがあります。なお、子宮頸がんは定期的に検査を行えば見落とす確率は低いがんなので、20歳以上の女性は2年に1回の子宮頸がん検診を受けることが推奨されています。

子宮頸がんの治療方法には、手術治療、放射線治療、抗がん剤などを用いた薬物療法などがあります。がんはI〜IV期のステージ(病期)に分類されますが、子宮頸がんの場合I〜II期の比較的早期のがんであれば、根治を目指し手術治療が選択されることが一般的です。

一方、Ⅲ〜IV期で進行しているがんの場合には、残念ながら治癒率は下がります。がんを小さくするための化学放射線療法(抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせたもの)や抗がん剤などを用いた薬物療法が行われることが一般的です。

I〜II期の子宮頸がんでは手術治療が検討されます。子宮頸がんの手術には、切除・摘出する部位や範囲によってさまざまな術式があります。

以下では、それぞれの手術方法についてお伝えします。

円錐切除術

電気メスやレーザーなどを用いて子宮の入り口部分だけを円錐形に切り取る手術です。この手術には病変を取り除く治療的な側面と、組織を採取し病変の状態(がんか否かあるいはがんの大きさや広がり)を調べる検査的な側面があります。

検査の結果、まだがんになっていない前がん病変だった場合や0期、IA1期*などごく初期のがんだった場合には、円錐切除術だけで治療が完了することもあります。局所麻酔下で腟から器具を入れて治療を行うため、おなかに傷をつけずに治療することができ、回復が早く手術翌日に退院できるのが一般的です。

*0期:がんの前段階(前がん病変)
 I期:がんが子宮頸部に限局するもの
 IA期:組織検査でのみ診断できるがん(肉眼的に病巣が確認できないがん)
 IA1期:がんの広がりが7mmを超えない、がんの深さが3mm以内

子宮を摘出する手術

子宮を摘出する手術は、切除・摘出する範囲によって大きく3つに分類されます。

もっとも切除範囲が狭い術式を“単純子宮全摘術”といい、この手術では子宮だけを切除します。主に0期やIA1期の子宮頸がんで今後妊娠の予定がない方に行われる治療です。

次に切除範囲が狭い術式は“準広汎子宮全摘出術”といいます。子宮とともに子宮周囲の子宮を支える組織である“基靱帯(きじんたい)などの深部子宮支帯”の内側寄りの部分や、腟の上部を切除します。この治療は主にI A2期の患者さんに行われます。

最後にもっとも切除範囲が広い術式は“広汎子宮全摘術”といい、子宮、深部子宮支帯(外側まで)や腟の上部のほか、骨盤内のリンパ節も合わせて切除します。この治療は主にIB1・2期、IIA1・2期、IIB期*などの患者さんに行われます。

なお、子宮を摘出する手術は、おなかを切り開いて行う“開腹手術”と、おなかに小さな穴を開け、そこから専用の医療器具を入れて行う“腹腔鏡手術”があります。一般的に腹腔鏡手術のほうが患者さんの体への負担が小さく、回復までの時間が短くなりますが、設備面・技術面の理由から実施数の多い医療機関は限られているのが現状です。

*IB期:IA期を超え、肉眼的に確認できるがん
 IB1期:病変の大きさが4cm以内、IB2期:病変の大きさが4cmを超える
 II期:がんが子宮頸部を超えて広がっているが骨盤壁または腟壁下1/3に達しないもの
 IIA期:腟まで進展しているが、子宮頸部の周囲の組織には広がっていないがん
 IIA1期:病変の大きさが4cm以内、IIA2期:病変の大きさが4cmを超える
 IIB期:子宮頸部の周囲の組織に広がっているがん

妊娠を希望する場合の手術

子宮を摘出する手術を行った場合、その後の妊娠の機能を保つことはできません。そのため、治療後に妊娠を希望する患者さんには、妊娠機能を温存できる手術を行うこともあります。

妊娠機能を温存できる手術には前述の初期ガンに対する円錐切除術のほか、進行期IA2あるいはIB1期(腫瘍径が2cm未満という条件があります)の浸潤がんに対する“広汎子宮頸部摘出術”があります。この手術方法では子宮の体部と卵巣を残したうえで、子宮頸部、基靱帯など深部子宮支帯、頸部よりの腟の一部、骨盤リンパ節などの切除を行います。ただし、がんが進行していると行えない可能性があるほか、不適切な手術では再発のリスクが高まることが懸念されるため、これらの治療を希望する場合は経験のある専門医とよく相談するようにしましょう。

子宮頸がん手術では、切除・摘出する範囲が広くなるほど合併症が生じやすい傾向にあります。もっとも切除範囲が広い広汎子宮全摘術では、以下のような合併症が生じることがあります。

子宮頸がん手術の合併症

  • リンパ浮腫(ふしゅ)……リンパ節を切除することによって抹消から中枢に向かうリンパ液が逆流し、足や下腹部にむくみが生じることがあります。リンパマッサージなどのセルフケアや専用の弾性ストッキングを着用することなどによって、ある程度症状の改善が期待できます。
  • 排尿障害、便秘……基靱帯を切除することによって骨盤神経叢が損なわれ、尿意がない、尿を出しにくい、漏れやすいなどの排尿障害が起きることがあります。

一般的には術後数週間〜数か月である程度は改善しますが、手術前と同じ状態まで回復することは困難です。また、便秘が生じるケースもあります。

ほかのがん同様、子宮頸がんでも低侵襲手術への注目が集まっています。低侵襲手術とは、従来の開腹手術と比較して患者さんの体にかかる負担を少なくした手術方法です。前述の腹腔鏡手術のほか、ロボット支援下手術なども低侵襲手術の1つです。

しかし、子宮頸がんにおける腹腔鏡手術やロボット支援下手術は、外科や泌尿器科に比べ導入が遅れ、その優位性について、いまだ議論されているところでもあります(2020年7月時点)。

2018年3月に米国ASCO(American Society of Clinical Oncology)で、広汎子宮全摘術を開腹手術・腹腔鏡手術・ロボット支援下手術という3つの手術方法で行った場合の予後に関する比較試験の結果が発表されました。この比較試験はLACC trial(ラックトライアル)と呼ばれ、13か国33施設が参加しました。腹腔鏡手術やロボット支援下手術が開腹手術と同等の予後を示すという結果が期待された試験でしたが、実際の結果では開腹手術がもっとも予後がよく、腹腔鏡手術やロボット支援下手術では再発率が高く生存率が下回るという結果となり、関係者のなかでも驚きの声が上がりました。

子宮頸がんに対する手術の問題点

私はこの比較試験の結果を真剣に受け止める一方で、今回の結果は腹腔鏡手術やロボット支援下手術の施設ごとの技術の差や手技の違いも大きく影響していると考えています。

実際、大腸ガンや子宮体がんのランダム化比較試験(RCT)で生存率の差は認められておらず、子宮頸がんのみ差がでるのは何か理由があるはずです。LACC trial は5例の経験があれば参加が可能で、その程度の経験では完全な切除や腫瘍の飛散の予防を完璧にはこなせないと考えています。

また子宮マニピュレーターの使用例や飛散予防をしてない症例も多かったと聞いております。十分な経験と技術を持たない術者が腫瘍の飛散予防をしない状況で行なった場合、当然結果は悪くなると考えられます。

腹腔鏡手術やロボット支援下手術を行う医療機関は限られており、なかには症例数が少なく技術が不十分な医療機関もあることが予想されます。そのため、今後技術が担保されれば、腹腔鏡手術やロボット支援下手術でも開腹手術と同等かそれ以上の予後を示すことができるのではないかと期待しています。

私たちは1998年から腹腔鏡下広汎子宮全摘術を開始し500例を超える経験をしてきました。また、徹底して完全な切除と郭清を心がけ、腫瘍の飛散を避けように努めています。

なお、倉敷成人病センターのデータでは腹腔鏡ロボット広汎子宮全摘術による5年生存率98%とLACC trialの開腹群レベルの生存率が得られています*

*LACC trial における4.5年無病生存率は腹腔鏡ロボット広汎子宮全摘術群で86%、開腹広汎子宮全摘術群で96.5%であった1。一方で、倉敷成人病センターの腹腔鏡ロボット広汎子宮全摘術を行った172例(IA2-IB1期)の検討では5年無病生存率97.1%(全生存率98.2%)であった(Kaplan-Meier法、期間:2006年1月~2015年12月)2

低侵襲手術の展望

近年はより予後のよい方法で腹腔鏡手術を行うために、同じ腹腔鏡手術を条件ごとに分ける比較試験が行われています。子宮頸がんの腹腔鏡手術では、子宮マニピュレーターと呼ばれる器具を子宮腔に挿し込んで子宮を押し上げて操作する施設がありますが、このマニピュレーターががんの病変を押しつぶして周囲にがんを撒き散らす原因となってしまう可能性があります。

また、がんを切除して取り出すときは病変を回収用のバッグ(切除した組織を回収する袋)に入れ、周囲に触れさせないようにして回収することで再発のリスクを下げることができると考えられています。

そこで、LACC trialの結果を踏まえ、新たにヨーロッパで行われた比較試験(SUCCOR study: 後ろ向き試験、欧州の15カ国、111施設の多施設研究)では腹腔鏡手術をさらに細分化し、子宮マニピュレーターを使用せず回収用バッグを使用した場合、子宮マニピュレーターも回収用バッグも使用しない場合、子宮マニピュレーターを使用し回収用バッグを使用しない場合の3種類に分け、開腹手術との生存率の比較を行いました。

その結果、もっとも生存率の高いデータは内視鏡手術でマニピュレーターを使用せず回収用バッグを使用した場合となり、開腹手術の生存率を上回ることになりました。

つまり、この比較試験により、手術の手技によっては内視鏡手術が開腹手術の予後を上回る可能性があるということが明らかになったわけです。

前述のとおり、腹腔鏡手術は経験数が少なく技術が不十分な医療機関で行えば開腹手術の予後を下回る結果となってしまう可能性があります。しかし、1つひとつの手技を徹底して行い、以下のようなことに留意して治療を行えれば再発率を極力抑え、開腹手術と変わらない予後を持つ治療も可能になると考えます。

がんを撒き散らさない工夫

手術時に切り取ったがんをおなかの中に撒き散らさないことが大切です。

具体的には、腟切開時に腫瘍が腹腔へ露出しないよう腟断端を縫合閉鎖しておき、子宮マニピュレーターを使用せず、がんに触れないで切除を行う“ノータッチ・アイソレーション方式”を用いる、切除した病変を回収するときは病変を回収用バッグに入れ体腔に漏れないようにして取り出すことを徹底するなどの方法が挙げられます。このようにがんに触れない、撒き散らさないようにすることが再発の予防につながります。

切除の完全性を保つ工夫

腹腔鏡手術では内視鏡(カメラ)に映された情報から切除・摘出などを行うため、切除範囲を立体的に把握することができないなど不完全切除につながりかねない作業環境なのです。

そこで完全切除のために切除の到達目標を設定し、どの患者さんに対してもこの到達目標を露出し、不完全切除とならないようにすることが大切です。

出血量を抑える工夫

広汎子宮全摘術は開腹手術で行うと出血が多くなりやすい手術として知られており、時に輸血が必要になることもあります。しかし、がんの治療中に輸血を行うと免疫機能が下がって治療に悪影響が及ぶこともあるため、輸血は極力避けたいものです。

そのため、腹腔鏡手術の症例を多く持つ医療機関では腹腔鏡手術を用いて、できる限り出血の少ない手術を行うようにします。結果、輸血が必要になることはほとんどありません。

文献
  1. Ramirez PT, et al. Minimally Invasive versus Abdominal Radical Hysterectomy for Cervical Cancer. N Engl J Med; 2018; 379:1895-904.                  PMID: 30380365
  2. Kanno K, et al. Long-term oncological outcomes of minimally invasive radical hysterectomy for early-stage cervical cancer: A retrospective, single-institutional study in the wake of the LACC trial. J Obstet Gynaecol Res 2019; 5: 2425-34.                        PMID: 31502349
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