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HPVワクチンと子宮頸がん検診の違い-子宮頸がん予防には両者が必要
婦人科の三大がんのひとつ「子宮頸がん」は、若い世代や子育て世代の女性に発症しやすく、子宮摘出や死に至ってしまうこともある疾患です。現在、日本ではHPVワクチンの積極的な接種の推奨を国が中止してい...
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HPVワクチンと子宮頸がん検診の違い-子宮頸がん予防には両者が必要

公開日 2016 年 05 月 24 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

HPVワクチンと子宮頸がん検診の違い-子宮頸がん予防には両者が必要
井箟 一彦 先生

和歌山県立医科大学産科婦人科 教授

井箟 一彦 先生

婦人科の三大がんのひとつ「子宮頸がん」は、若い世代や子育て世代の女性に発症しやすく、子宮摘出や死に至ってしまうこともある疾患です。現在、日本ではHPVワクチンの積極的な接種の推奨を国が中止しているため接種率はゼロに近い状態であり、結果として事実上、予防法は子宮頸がん検診(細胞診)しかないという状況となっています。しかし、以前から定期検診は実施されているにも関わらず、2000年以後日本の子宮頸がん罹患率は増加しています。本記事では、細胞診のみで子宮頸がんを防ぐことが難しい理由を、和歌山県立医科大学産科婦人科教授の井箟一彦先生にお伺いしました。

定期検診(細胞診)のみでは子宮頸がんによる死亡率をこれ以上効果的に減らすことは難しい

子宮頸がんの1次予防は、「HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)」の接種によるHPV感染の予防です。ワクチンにより病原性の強い16型・18型のHPV感染を予防できることは、多くのエビデンスにより確認され、世界的コンセンサスが得られています。

※ワクチン接種はHPV16型・18型を未感染者でほぼ100%予防します。

子宮頸がんの2次予防はキャンサースクリーニングといい、その中でも代表的なものが日本でも子宮頸がんの定期検診時に行われている子宮頸部の「細胞診」、いわゆる「がん検診」です。

歴史的には子宮頸がん検診の導入により、過去30年で子宮頸がんの死亡率は減少し、検診は大きな貢献を果たしてきました。しかしながら、近年では、検診受診率の僅かずつの上昇はみられるにもかかわらず、前述のように子宮頸がんの罹患率・死亡率とも増加に転じています。しばしば、メディアなどを通して「検診が実施されているのであればワクチンは不要ではないか」と疑問を投じる声も挙げられますが、残念ながら従来の検診のみでは子宮頸がんの死亡率を、今後さらに効果的に減らすことは困難な状況です。

その理由のひとつは、細胞診の「感度」がそれほど高くないことです。

細胞診の特徴-病変がある人を陽性と判定する「感度」が十分に高いとはいえない

検査には「感度」と「特異度」があり、感度が高いということは、実際に病気をもっている人の大部分が陽性と判定されるということです。一方、特異度が高いとは罹患していない人の大部分が陰性と判定されることを意味しています。本項では、子宮の入り口の細胞の形態を顕微鏡でみて検査する細胞診の感度と特異度について説明します。

細胞診において、子宮頸がんや前がん病変を有する人が陽性を示す割合(感度)は、研究によって差はありますが50%~70%と、十分に高いとはいえません。つまり、がんや前がん病変がある人でも、一定の割合で、異常なし(陰性)と判定されてしまう可能性があるということです。特に、妊娠中の病変や若年層に多い腺がんは、見逃されることが多いといわれています。また、若年者の子宮頸がんには進行速度が速いタイプもあるため、年に1回の検診だけでは早期発見できず、検診を受けていたにもかかわらず、進行してから発見されるケースもしばしば経験します。

尚、感度がより高いとされる新たなスクリーニングシステムである「細胞診・HPV-DNA検査併用検診」は、子宮の入り口にHPVが感染しているかどうかの検査と細胞診を組み合わせる検診システムですが、日本では一部の自治体で導入が試みられているものの、全国的には臨床研究が実施されている段階であり、方法が確立し国の指針の下で一般の人々に広く普及させるには、まだまだ時間を要します。

このような理由から、子宮頸がん(特に若い世代の)の死亡率を、検診のみでこれ以上減少させることは困難なのです。これは日本に限った話ではなく世界でも同様であり、そのため先進諸国では、検診だけでなく1次予防としてのHPVワクチンの積極的な接種プログラムが実施されているのです。

検診により病変が発見されても、治療により体には負担がかかる

HPVワクチンはHPV(16型・18型)の感染を前もって防ぐものです。これに対し、定期検診で行う細胞診は、既にHPVに感染し、子宮の細胞異型がみられる人や前がん病変のある人を早期にみつけ、その段階で治療することで、子宮頸がん(浸潤がん)への進行を防ぐものです。一定の段階以上の細胞異型(高度病変)がみつかった人には、その時点で病変を取り除くための何らかの治療が行われます。

たとえば、ごく初期の浸潤がんや高度前がん病変が発見された場合、レーザーや電気メスで子宮の入り口部分を切除する「円錐切除術」が行われます。円錐切除で済んだ場合は将来妊娠や出産も可能ですが、早産のリスクが上昇したり、子宮の頸管粘液減少や狭窄など、不妊の原因となりえる問題が生じることもあります。

日本では1年間に9000人を超える若い女性が円錐切除術を受けており、これは深刻に捉えなければならない事態といえます。ワクチンによる予防とは異なり、検診の場合は細胞診でみつけた病変を「治療」したり、外来で定期的に厳重にフォローアップする必要があり、多かれ少なかれ「身体的な侵襲」が出てくるため、単純に『検診で発見すればよいので、ワクチンはいらない』とは、とてもいえないのです。もちろんワクチンにも、16型・18型以外のHPVは予防できないという弱いところもあります。ですから、ワクチンと検診の両者ともが必要であり、それぞれが、お互いの弱いところを補い合って初めて子宮頸がんの予防がかなうと考えるべきです。

日本の検診受診率は非常に低い-20代女性の受診率は20%台

くわえて、日本特有の問題として、若い女性の検診受診率が非常に低いということが挙げられます。検診のシステムが違うので一概には比較できませんが、アメリカでは85%の女性が子宮頸がん検診を受けている一方、日本の受診率は30〜40%台にとどまっています。(OECD Health Date 2013より「20~69歳の子宮頸がん検診受診率」より)

さらに、年代別にみると、日本における20~29歳の検診受診率は22.2%にまで下がります。(図参照)(国民生活基礎調査 平成25年度「日本における年代別子宮がん検診受診率(2010年)」より)

(スライド提供:井箟一彦先生、データは平成25年度国民生活基礎調査より引用)
(スライド提供:井箟一彦先生、データは平成25年度国民生活基礎調査より引用)

 

子宮頸がん検診の無料クーポン配布を行うなど、国と地方自治体がこれまで多くの努力をしてきたにもかかわらず、受診率の上昇が頭打ちとなっていることから、検診受診率という視点からみても、「子宮頸がんを検診だけで予防する」という理想像には限界があるといえます。

また、欧米先進国で70~80%の女性が検診を受けているにも関わらず、ワクチン接種を勧奨していることを鑑みても、子宮頸がんを制圧するにはワクチンによる1次予防と検診による2次予防が揃ってはじめて可能になるといえます。すなわち、子宮頸がん予防はワクチン接種と検診の二本立てで行うことが、エビデンス(科学的根拠)に基づいた世界のコンセンサスである、ということです。そのため、この一方の勧奨を中止し続けている日本の対応はWHOからも批判されています。HPVワクチン接種勧奨中止に関わる問題点については、次の記事以降でお話していきます。

和歌山県立医科大学では、全ての婦人科がん患者さんに医学的根拠に基づいた説明・診療を徹底しており、患者さんとの強い信頼関係を築いている。また絨毛性疾患の取扱い規約や治療ガイドラインの確立に尽力し、全国の患者さんの相談・診療を行っている。
日本産科婦人科学会「HPVワクチンの効果と安全性に関する調査小委員会」委員長を務め、子宮頸がん予防のためのワクチンと検診に関するエビデンスに基づく医療情報の提供と啓発活動に尽力している。

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