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子宮頸がん予防ワクチンに関する報道の問題点とWHOからの勧告
子宮頸がんを予防するHPVワクチンの接種勧奨の中止が長期にわたっているひとつの原因に、メディアの報道と、国民がそれによりワクチンに関する正しい知識を得られていないことがあると考えられます。国民の...
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子宮頸がん予防ワクチンに関する報道の問題点とWHOからの勧告

公開日 2016 年 05 月 26 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

子宮頸がん予防ワクチンに関する報道の問題点とWHOからの勧告
井箟 一彦 先生

和歌山県立医科大学産科婦人科 教授

井箟 一彦 先生

子宮頸がんを予防するHPVワクチンの接種勧奨の中止が長期にわたっているひとつの原因に、メディアの報道と、国民がそれによりワクチンに関する正しい知識を得られていないことがあると考えられます。国民の生命と健康に関わる医療情報は、どのように伝えられるべきなのでしょうか。本記事では、HPVワクチン報道の問題点と、2015年末に日本がWHOから受けた指摘について、和歌山県立医科大学産科婦人科教授の井箟一彦先生にお話しいただきました。

メディアは医療に関する正しい報道を-日本のメディアの問題点

「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」(外部サイト:「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」)を作成した日本医師会と日本医学会は、

「HPVワクチンに対するさまざまな情報がメディア等でとり上げられているなか、科学的なエビデンスに基づく議論が重要である」(※診療の手引きより引用)

と判断したことからシンポジウムを開催し、手引きの作成に至ったと述べています。

実際に、厚生労働省の専門部会による詳細な検討とそれに基づく見解が出され、またWHOをはじめ世界的にもHPVワクチンの安全性と有効性が確認されているにも関わらず、接種勧奨を再開できない背景には、科学的事実に基づかない一部のメディア報道と、それに影響される国民の誤った理解があることは否定できません。

日本ではHPVワクチンに関してどのような報道がなされてきたか、その問題点を挙げながらご説明します。

医学(科学)に関しては、客観的で正しいエビデンスを報道すべき

日本のメディアの特徴は、医療情報を伝えるときであっても「科学的に正しいかどうか(エビデンスがあるかどうか)」ということに必ずしも基づかず、物事の一方の側面のみを強調して報道してしまうことがあります。

HPVワクチン接種後に身体症状に苦しむ方が出たことは事実ですから(因果関係があるかどうかは不明だとしても)、それを国民に伝えることはメディアとして正しい行為です。

しかし、一例をとると、第15回副反応検討部会の発表に関する報道では、問題となっている慢性疼痛や運動障害等の接種後の諸症状とHPVワクチンとの間には因果関係は証明されていないにも関わらず、そのことを言わないままで、「HPVワクチン接種後に186人未回復」といった見出しをつけ、国民の恐怖心を煽るような報道がありました。症状が回復していない186人という数が、全体の被接種者338万人の0.005%と非常に低い頻度であることや、それらの症状とワクチン接種との科学的な因果関係は証明されていないことの2つのエビデンスを客観的に報道したメディアは、ほとんどありませんでした。

医学(科学)を政治や芸能情報と同じ天秤で扱ってはならない

政治に関する見解や芸能界のゴシップ騒動などの報道ならば、様々な視点から一事象を捉え、各社の見解を強調することはあってよいかもしれません。もともと政治などの問題は、A論、B論など多用な意見が出され、国民の間で議論されるべきものです。

しかし、医学は科学的根拠に基づき語られなければならないものです。前項の例のように科学的事実を軽視し、国民感情を扇動するような報道をメディアが行っていては、国民の健康に悪影響が及ぶこともあり得ます。また、このような報道がなされていては、繰り返し行われてきた国内外の研究調査結果などを知る前に、国民に「HPVワクチンは怖い、ワクチンには恐ろしい副作用がある」というイメージが根付いてしまいます。現時点での事実を正しく偏りなく伝え、それを受けて国民一人一人が「自分は接種するか否か」を冷静に決められるような情報の伝達が重要です。また、国民自身が一部のネット等の不確かな情報に左右されず、正しい情報を自ら選択する判断力を持つことも必要かもしれません。

歪曲された報道に対し、国はどう対応するべきか

他の先進諸国(イギリスやカナダなど)でも少数のメディアから、HPVワクチンに関する非科学的な偏向報道がなされたことがありました。しかし、欧米豪などでは、このようなときには政府と学術団体が一体となり、即座に根拠に基づく否定声明を出して国民に正しい情報を伝えてきました。日本政府が現在行っているHPVワクチン接種の勧奨一時差し控えの継続と、それに対する厚生労働省や専門部会の見解発表は十分とはいえません。

国民の生命や健康に直結する問題を歪曲させる可能性のあるメディアの報道の在り方も考え直されねばなりませんが、非科学的な報道をすばやく毅然と否定できない政府の現状もまた、変えていかねばならない日本の問題点といえるでしょう。また、私たち医療者や専門学術団体が、国民1人1人に対して正しい知識を継続的に発信することの責任は極めて重いと考えます。

WHOからの勧告の理由-HPVワクチン問題は日本だけの問題で済まされない

2015円12月17日、WHO(世界保健機関)が全世界に向けて出したHPVワクチンの安全性を伝える声明文の中に、”Japan”と国名を明記したうえで、「日本政府の決定は不十分な根拠(原文では”weak evidence”)に基づくものであり、安全で効果的なワクチンが使用されないことにより、結果的に真の害(原文では”real harm”)を及ぼす」という内容を含んだコメントが挿入され、日本の医療界に大きな衝撃が走りました。このように、特定の国を挙げてWHOが声を上げることは異例であり、これ以降、HPVワクチン接種勧奨中止問題は国内のみの問題ではなくなりました。

(外部サイト:” Global Advisory Committee on Vaccine safety Statement on Safety of HPV vaccines 17 December2015”

日本は他国から「医療先進国」と認識されています。そのように影響力のある先進国が、長期間「HPVワクチンの有害性を否定できない」という姿勢をとり、接種勧奨を差し控えていることは、世界、とりわけ発展途上国にも影響を及ぼす可能性があります。

日本政府はWHOからの声明を受け止め、科学的なエビデンスに基づいて、HPVワクチンの接種勧奨を中止し続けている現状に向き合い、早急に適切な判断をくだすべきであると考えます。

和歌山県立医科大学では、全ての婦人科がん患者さんに医学的根拠に基づいた説明・診療を徹底しており、患者さんとの強い信頼関係を築いている。また絨毛性疾患の取扱い規約や治療ガイドラインの確立に尽力し、全国の患者さんの相談・診療を行っている。
日本産科婦人科学会「HPVワクチンの効果と安全性に関する調査小委員会」委員長を務め、子宮頸がん予防のためのワクチンと検診に関するエビデンスに基づく医療情報の提供と啓発活動に尽力している。

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