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HPVワクチンと接種後の多様な症状-科学的な因果関係の検証が必須
日本では2013年6月から現在まで、すでに3年近くにわたり、HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の接種勧奨の中止が継続しています。その間、厚生労働省による検討部会が繰り返し開催され、ワクチン...
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HPVワクチンと接種後の多様な症状-科学的な因果関係の検証が必須

公開日 2016 年 05 月 26 日 | 更新日 2017 年 12 月 22 日

HPVワクチンと接種後の多様な症状-科学的な因果関係の検証が必須
井箟 一彦 先生

和歌山県立医科大学産科婦人科 教授

井箟 一彦 先生

日本では2013年6月から現在まで、すでに3年近くにわたり、HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の接種勧奨の中止が継続しています。その間、厚生労働省による検討部会が繰り返し開催され、ワクチン接種後に報告された様々な症状に関して、専門家たちによる調査と議論がなされてきました。本記事では、最新の検討部会のデータと見解について、和歌山県立医科大学産科婦人科教授の井箟一彦先生にご解説いただきました。

2014年1月の第7回副反応検討部会の見解

接種後の症状は「機能性」のものである

厚生労働省は2015年9月までに15回にわたる副反応検討部会を開催し、その中でHPVワクチン接種後の症状に関して、多くの追跡調査データの解析とその対応を検討してきました。

2014年1月20日に開催された第7回の副反応検討部会では、HPVワクチン接種後に副反応として報告された“広範な疼痛”や“運動障害”などの症例について論点整理が行われました。

その結果、「症状のメカニズムとして(1)神経学的疾患、(2)中毒、(3)免疫反応、(4)心身の反応、が考えられるものの、神経学的疾患と免疫反応では説明ができず、中毒も否定的であり、心身の反応によるものと考えられる」という見解を発表しました。

心身の反応とは、すなわち“機能性”の症状であり、器質的な疾患ではないということです。ここでいう『機能性身体症状』とは、決して「詐病」・「仮病」や「気のせい」などという意味ではありません。明らかな器質的な異常を示すような検査所見等は得られないが、何らかのきっかけやストレス等が引き金となり(原因が不明のこともある)、心理的・社会的な要因も影響して起こる疾患や体の不調のことを指します。

また検討部会では、これらの症状は、発症時期・症状・経過などに統一性がなく、単一の疾患が起きているものとは考えにくいことや、2種類(2つの製薬会社が若干異なる添加成分を含むワクチンを発売している)のワクチンで症状の発症頻度に差が無いことから、アジュバンドといわれるワクチン成分の添加物との関連も否定的であることが確認されました。

2015年9月 第15回副反応検討部会

接種後問題となる症状が持続する人の頻度は低い

2015年9月17日に行われた第15回副反応検討部会の結果が、2016年5月現在厚生労働省から公表されているもののなかで、最も新しいデータです。(2016年5月1日時点)

国内では、これまでに約338万人がワクチンを接種しており(のべ接種回数は約890万回接種※)、副作用の報告があった人は2584人(被接種者の0.08%、のべ接種回数の0.03%)です。そのうちの発症日や症状の経過が把握できた1739人を解析したところ、1550人(89%)は、回復・軽快または通院不要となっています。未回復の方は186人(被接種者の約0.005%、のべ接種回数の約0.002%、10万人あたり約5人の頻度)であり、症状があっても未報告の人や経過が追跡できなかった人がいることを考慮しても、ワクチン接種した人全体に対する症状が回復しない人の頻度は低いことが示されました。

※HPVワクチンとは通常3回打つものですが、中には2回でやめてしまった方もいらっしゃるため、述べ接種回数は338万×3回にはならず、約890万回と報告されています。

HPVワクチン接種後の症状についての見解

器質性の病態という仮説は科学的でない

上述した「持続的な症状」は、頭痛、倦怠感、関節痛、筋肉痛、筋力低下、運動障害、認知機能の低下、めまい、月経不整、不随意運動、立ちくらみ等の起立性調節障害、失神・意識レベル低下、感覚鈍麻、けいれんなど、非常に多岐にわたりました。

第15回副反応検討部会では、ワクチン接種から一定期間以内に発症した多様な症状は、注射による接種後の局所疼痛が引き金となった機能性の身体症状と解釈するのが適切である、との見解が述べられています。また、一部の臨床医が述べている「(接種後の症状は)HPVワクチンが引き起こした器質性の病態ではないか」という「仮説」に対しては、仮説だけでは科学的ではなく、科学的知見の裏付けがなければならないとしています。

すなわち、これらの諸症状とワクチン接種との科学的あるいは疫学的な因果関係を証明したデータは、これまで、国内外で存在しないのです。しかし、検討部会では、ワクチンの接種行為(針刺しの痛みや局所痛に対する不安など)が何らかの引き金になったことは否定していません。また、機能性身体症状は、医学的メカニズムの詳細は不明ですが、「心因性」という理解は誤りであり、適切な診療が実施されるよう努めるべきとの見解も示されました。

※機能性と器質性の疾患の違い:体の器官や組織が物理的に損傷されているなど、疾患の病変部位を物理的に特定できるものを器質性の疾患といいます。一方機能性疾患とは、解剖学や病理学的な異常は特定できないものの心身の機能低下などが生じている疾患のことを指します。

因果関係の有無を科学的に証明するためには、疫学的な研究が必須である

第15回副反応検討部会では、ワクチンを接種していない方々における類似した症状の発生状況なども検討するために、疫学的な観点からの研究を実施する必要性があるという重要な指摘がなされました。

加えて、国民へのより適切な情報提供を行うために、HPVワクチン接種の有無によらない機能性身体症状の頻度などに関する疫学的研究と、それにより得られる知見が必要であるとも述べられ、実際に厚生労働省の専門研究班がすでに立ち上がり、現在疫学調査を含む検討が開始されています。

欧米におけるHPVワクチンの安全性に関する大規模なエビデンスは、同じ年齢層の接種者群と非接種者群における各々の症状の発生頻度を解析する疫学研究であり、これがなければ、どのような症状や有害事象であっても、ワクチンとの因果関係を正確に証明することはできません。

日本にはワクチンを接種した人の国全体のレジストリーシステムがなく、また個々の疾患の全国的な登録システムも整っていません。このような日本の事情が、HPVワクチン接種後に報告された諸症状の問題解決を遅らせる大きな原因のひとつになったと考えられます。現在進行している厚生労働省研究班の疫学調査研究の一刻も早い解析結果が待たれます。

接種後に症状が回復しない方に対する「救済」の必要性

また、第15回副反応検討部会では、ワクチン接種後に重篤な症状が継続しており、因果関係が完全に否定できない方の「救済」についても、速やかに審査を進めることが必要であるとしました。現実に苦しんでおられる方を治療するのは最も大切なことであり、国として救済する姿勢を示したことは、非常に重要であるといえます。

ワクチン接種後の症状に対する治療

ワクチン接種後の諸症状が機能性の症状なのか、ワクチンによる副作用であるのかに関する科学的・疫学的な因果関係の有無を証明することは重要ですが、それとは別に、現実に苦しんでおられる方を治療し、学校生活や社会生活への復帰を支援することが最も大切なことであることは言うまでもありません。

これらの症状に対する治療法については、本記事では詳細は触れませんが、厚生労働省副反応検討部会において、身体的アプローチと心理的なアプローチの両者の重要性や、薬物療法にたよるのではなく、リハビリを中心とした認知行動療法の重要性が指摘されており、実際に様々な治療により、回復している方も多くいます。

今すべきことは、諸症状に対応しながら、ワクチン接種勧奨を再開することではないか

現在日本は3年近くという長期間、HPVワクチンの接種勧奨を中止しています。接種後の種々の症状が報告された2013年6月に、HPVワクチンとの因果関係を調査するために一時的に勧奨を中止したことは、私はよい判断であったと考えます。

しかし、2年以上にわたる専門家による検討と議論、さらにはその間の国内外の研究からも、報告された症状とHPVワクチンとの因果関係を科学的に証明するデータはありませんでした。

確かに頻度は少なくとも、また因果関係が必ずしも証明できなくとも、実際に諸症状に苦しんでおられる方がいるのは事実です。この方々の診療や救済に十分対応した上で、子宮頸がんの1次予防として世界のコンセンサスを得られているHPVワクチンを接種できるよう、国は再開宣言を出すべきと考えます。仮に接種を希望する方がいても、国が推奨していない状態では、安心して接種を受けることはできません。このままでは、先進諸国で今後得られていくHPVワクチンによるがん予防の利益を日本の女性だけが受けることができず、接種できなかった世代の女性たちが、予防できたはずのがんが発症してしまうという事態になることを危惧しています。

どんなワクチンでもリスクがゼロのワクチンはありません。科学的に危険と判断されるようなリスク(重篤な有害事象)がどれほどの頻度で起こり得るかどうか、それに比べて接種をうけた人全体のベネフィット(有益性)はどの程度上回るかというような、リスクとベネフィットを比較して科学的に判断することがワクチン行政にとっては非常に重要です。一刻も早い国の判断、10年後・20年後を見据えた国の正しい舵取りが求められています。

日本産科婦人科学会および予防接種・ワクチン関連学術団体の動き

私たちの所属する日本産科婦人科学会においても、学会内のHPVワクチンの専門委員会において、諸問題を検討してきました。そして、HPVワクチンに関する科学的なエビデンスと正しい知識を国民に提供し、また接種後症状に対する医療体制の整備にも努力してきました。

このような国内の現状および世界の動向を踏まえて、子宮頸がんから若い女性を守るためには、日本産科婦人科学会はワクチン接種を推奨すべきと考え、2015年8月にHPVワクチンの接種勧奨再開を求める声明を発表し、学会ホームページに掲載しております。

(外部サイト:日本産科婦人科学会「子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種の勧奨再開を求める声明」

また、2016年4月18日には、日本小児科学会や日本産科婦人科学会を含む予防接種・ワクチンに関連する15学術団体で構成される『予防接種推進専門協議会』が、

●この2年半の間にHPVワクチンの有害事象の実態把握と解析

●ワクチン接種後に生じた症状に対する報告体制と診療・相談体制の確立

●健康被害を受けた接種者に対する救済、などの対策が講じられたこと

これらを受け、HPVワクチンの積極的な接種を推奨しますとする見解を発表しています。

(参考:「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解」 URL: http://vaccine-kyogikai.umin.jp/pdf/20160418_HPV-vaccine-opinion.pdf

 

和歌山県立医科大学では、全ての婦人科がん患者さんに医学的根拠に基づいた説明・診療を徹底しており、患者さんとの強い信頼関係を築いている。また絨毛性疾患の取扱い規約や治療ガイドラインの確立に尽力し、全国の患者さんの相談・診療を行っている。
日本産科婦人科学会「HPVワクチンの効果と安全性に関する調査小委員会」委員長を務め、子宮頸がん予防のためのワクチンと検診に関するエビデンスに基づく医療情報の提供と啓発活動に尽力している。

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