概要
起立性調節障害とは、自律神経の異常によって血圧や心拍数の調節が上手くはたらかず、立ちくらみやめまい、動悸、失神などを引き起こす病気です。
立ち上がったり、長時間立った状態を続けたりする際、人体は重力に逆らって脳に十分な血流を送ろうとするため血圧や心拍数が上昇します。これは人体に生まれつき備わっている仕組みで、交感神経・副交感神経からなる自律神経によって司られています。しかし、この仕組みが上手くいかなくなると、立ち上がったり長時間立っているときなどに脳への血流が低下して立ちくらみなどの症状を引き起こします。
起立性調節障害の多くは、自律神経のはたらきが未熟な学童期から思春期にかけて一時的に発症し、成長とともに徐々に改善します。しかし、重症の場合は朝起きられず不登校につながるなど、日常生活や社会生活にも重大な支障をきたすことがあります。
起立性調節障害は身体的な原因がある一方で、心理、社会的なストレスも発症に関与しているとされており、特に症状が重い場合は症状の改善のために薬物治療などと並行して患者を取り巻く環境を整えることも大切と考えられています。
原因
起立性調節障害は自律神経のはたらきに異常が生じることによって引き起こされます。
自律神経は、交感神経・副交感神経の2種類の神経系によって構成されています。交感神経と副交感神経は互いに相反するはたらきを担い、一般的には活発さを司るのは交感神経、落ち着きを司るのは副交感神経とされています。
たとえば血圧や心拍数は常に一定ではなく、運動や緊張感などさまざまな要因によって変化します。立ち上がったときや長時間立っているときなどは、重力に従って足へ流れていきやすい血液を脳へ送り届けるため、交感神経のはたらきによって血圧は上昇し、心拍数も増加します。この仕組みが上手く発動しないと、脳への血流が低下してさまざまな症状が引き起こされます。
発症の原因は、自律神経のはたらきの未熟さで、学童期から思春期にかけて発症し、ほとんどが成長とともに自然とよくなります。しかし、ストレスやホルモンバランスの乱れ、水分や栄養の不足も発症の引き金となるため、成人で発症するケースもあります。
症状
起立性調節障害の主な症状は、立ちくらみ、めまい、動悸です。症状は立ち上がったときや長時間立っているとき、入浴時、精神的なストレスを感じたときなどに起こりやすく、重症の場合は失神することもあります。
症状の現れ方によって以下の4つのタイプに区別されます。
- 起立直後性低血圧……起立直後の急激な血圧低下によって発症します。
- 体位性頻脈症候群……血圧の変化に異常はないものの心拍数が上昇し続けます。
- 神経調節性失神……起立中に突然急激に血圧が低下します。
- 遷延性起立性低血圧……起立中に徐々に血圧が低下します。
これらの症状は一時的なものですが、血圧が低い状態が続くと寝起きが極端に悪くなったり、食欲不振や顔色不良、倦怠感、頭痛などの症状が続いたりすることによって、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすこともあります。
検査・診断
起立性調節障害のような症状は、不整脈などの心疾患やもやもや病などの脳疾患でも生じる場合があります。そのため、起立性調節障害と診断するためには、検査を行って客観的に評価を行い、これらの病気を除外することが重要です。
具体的には次のような検査が行われます。
新起立試験
起立性調節障害の診断を下すために必須となる検査です。
検査では、10分間横になった後すぐに10分間起立し、血圧と心拍数を測定して変化を観察します。
心電図検査
失神がみられる場合は、失神を引き起こす不整脈の有無を調べるために心電図検査を行います。正確な診断のためには、24時間心電図を連続で計測するホルター心電図検査が必要となることもあります。
画像検査
同じく失神がみられる場合には、もやもや病など脳疾患の可能性を調べるため、CTやMRIなどの画像検査が行われることもあります。
血液検査
ホルモンバランスの異常や低栄養などが原因と考えられる場合は、血液検査を行い、それぞれの数値が正常かどうかを確認します。
治療
起立性調節障害の多くは、生活リズムを整えるほか、水分や塩分を積極的に摂取する、下肢の筋肉を鍛えるなどの日常生活の改善を行うことによって、症状は徐々に改善することが多いとされています。
しかし、よく失神を起こすなど日常生活が困難なほど重症な場合には、血圧を上昇させる作用を持つミドドリン塩酸塩などによる薬物療法が行われる場合があります。
合わせて、子どもが抱える心理的なストレスに目を向け、その影響を少なくするなどの配慮も大切です。
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