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陽子線治療とは? 放射線治療/陽子線治療のメカニズム

陽子線治療とは? 放射線治療/陽子線治療のメカニズム
山本 道法 先生

医療法人伯鳳会 大阪陽子線クリニック 院長

山本 道法 先生

櫻井 勇介 さん

医療法人伯鳳会 大阪陽子線クリニック 係長

櫻井 勇介 さん

目次
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この記事の最終更新は2018年12月06日です。

2018年10月現在、全国で17の施設が陽子線治療を実施しており、大阪陽子線クリニックはそのうちの1施設です。陽子線治療は、X線を使う従来の放射線治療に比べて、がん病巣に集中的に照射できるというメリットがあります。

放射線治療、陽子線治療のメカニズムについて、大阪陽子線クリニックの山本道法院長と、医学物理士の櫻井勇介さんにお話を伺いました。

私たちの体は、常に放射線にさらされています。たとえば、宇宙から地球に降り注ぐ「宇宙線」も放射線の一種ですし、岩石や土、食べ物や飲み物に含まれている放射性物質からも放射線を受けています。これらを「自然放射線」といいます。

しかし、このような放射性物質は時間の経過と共に減少し、さらに、細胞は新陳代謝するため、体内の放射性物質はほぼ一定の割合に保たれます。

自然放射線のほかに、医療や工業、農業などに利用する用途で人工的につくられる「人工放射線」があります。人工放射線には、レントゲン撮影で使われる「X線」や、ガンマナイフ注1)に使う「γ(ガンマ)線」をはじめとして、さまざまな種類があります。

さらに、近年では「陽子線」を用いた放射線治療の研究が進んでいます。

出典:国立がん研究センターがん情報サービス

注1)脳内の一点(病巣部)に細かいガンマ線ビーム(X線よりもさらに波長の短い電磁波)を集中照射させる放射線治療

放射線治療には、「外部照射」と「内部照射」という2つのアプローチがあります。

外部照射は、がんの病巣に対して、体の外側から皮膚を通して放射線を照射します。使用する放射線や装置、方法などによっていくつかの種類があります。そのうち、現在(2018年時点)はX線が多く用いられています。

内部照射とは、主に「小線源治療」と「内用療法」を指します。

小線源治療は、放射性同位元素(アイソトープ:放射線を発生する物質)を管、針、ワイヤー、粒状の容器などに密封した「小線源」を、がん組織や周辺組織に埋め込む方法です。一方、内用療法は、非密封の放射性同位元素を経口薬や静脈注射によって体内に取り込む方法です。

放射線治療の原理を、簡略化してご説明します。

人の体を含めて、すべての物質は「原子」でできています。放射線が物質を通過するとき、そのエネルギーによって、原子が持つ「電子」がはじき飛ばされます。これを「電離作用」といいます。電離作用は、細胞を壊す力を持っています。

放射線治療とは、放射線の電離作用を使い、がん細胞を壊す治療法を指します。

放射線は、種類によって電離を起こす場所(電離作用の密度)が異なります。

以下のグラフをご覧ください。X線は体表面から近いほど相対線量(細胞へのダメージ)が高く、一方、陽子線はある一定の深さで相対線量がピークを迎えます。

陽子線の相対線量

このように陽子線は、止まる深さで細胞へのダメージが最大になるという性質を持っています。さらに、陽子線のエネルギーによって止まる深さを調整できるため、外部照射にむいている放射線であり、ターゲットとするがん病巣に、集中的に放射線を当てることが可能です。

ただし、陽子線治療であっても、がん細胞だけに放射線を当てられるわけではなく、周囲の正常な細胞も一定のダメージを受けます。

陽子線治療の分野において研究が進み、保険適用も少しずつ増えています。

2016年4月には小児がんのうち限局性の固形悪性腫瘍、さらに2018年4月には、限局性及び局所進行性前立腺がん(転移を有するものを除く)、頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、手術による根治的な治療が困難な骨軟部腫瘍に対する陽子線治療が保険適用となりました。

【保険収載されている陽子線治療(2018年9月時点)】

  • 小児がん(限局性の固形悪性腫瘍)
  • 前立腺がん(限局性および局所進行性。転移を有するものを除く)
  • 頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)
  • 骨軟部腫瘍(手術による根治的な治療が困難な場合で、限局性のもの)

ここからは私見ですが、次回2020年の診療報酬改定では、そのほかのがんについても陽子線治療の保険適応が拡大することを予想しています。

陽子線治療の照射回数や線量は、治療対象の病気ごとに設定されています。

基本的には、正常な細胞が生き残り、修復できるくらいの照射回数と線量を設定します。体の部位により細胞の特色が異なるため、がんの周辺組織がどの程度の照射回数と線量に耐えうるかが変わってきます。

極端にいうと、陽子線をがん細胞に多量に照射すれば、がん細胞を壊すことは簡単です。しかし、がん細胞を壊すことができ、なおかつ周辺の正常細胞が修復できるように治療をすることは難しく、陽子線治療における重要な点ともいえます。

先述のとおり、陽子線は止まる深さで細胞へのダメージが最大になるという性質を持っています。そのため、ターゲットとするがん病巣に集中的に放射線を当てることができ、がんの周囲にある臓器などを傷めるリスクが少ない点がメリットといえます。

陽子線治療の医療機器や専用施設はあらたに建設が必要であり、大きなコストがかかります。そのため、病院が気軽に陽子線を導入できるわけではなく、現状、陽子線治療を実施できる医療施設が少ないことが課題です。

現在(2018年10月時点)、全国17の施設で陽子線治療が実施されていますが、より広く陽子線治療が普及し、必要な患者さんに適切に治療を提供できる環境が整うことを期待しています。

陽子線治療装置(大阪陽子線クリニック)

当院では、陽子線治療と、X線を使う強度変調放射線治療(IMRT)を受けることができます。強度変調放射線治療(IMRT)とは、がん病巣の位置や形状に合わせて複数の方向から照射する放射線を調整することで、がん病巣への線量集中性を高め、周囲正常組織への影響を抑える照射法です。

これまで陽子線治療についてお話ししてきましたが、先述のとおり当院では、陽子線治療と、X線を使う強度変調放射線治療(IMRT)のどちらも行っています。腫瘍の形や位置によって、選択すべき治療は異なりますが、どちらを選んでも当院で治療が可能です。

陽子線治療を受けたいという方やご家族の方は、ぜひ当院へいらしてください。

 

日本では2001年に初めて陽子線治療施設ができ、近年、徐々に保険適用が広がりつつあります。そのような中、私たちは「平等医療」という理念に基づき、2017年に陽子線治療を開始しました。これからも、陽子線治療を必要とする患者さんに治療を適切に提供するだけでなく、正しい情報を発信していくことが、当院の存在意義だと考えています。

必ずしも陽子線治療を受ける必要はありませんし、先述のとおり陽子線治療が適応にならない方もいます。しかし、陽子線を含めて治療をしっかりと検討することは患者さんの納得感や安心感につながりますから、当院でもきちんと時間をかけて行います。

当院で治療法を検討し、結果的に他院で手術を受けた患者さんから、「しっかりと話を聞き、なぜ自分のケースは陽子線が適応にならないのかを理解したうえで、納得して手術を受けることができました。」というお声をいただくこともあります。

気になることがあれば、ぜひご相談ください。

次の記事では、前立腺がんに対する陽子線治療の具体的な流れなどをご説明します。

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