男性のみにあり、生殖機能にかかわる前立腺。前立腺がんの罹患数(一定の期間にあらたにがんと診断された数)は、がん全体で4位(2014年データ)です。2018年には前立腺がんに対する陽子線治療があらたに保険適用となり、注目を集めています。
大阪暁明館病院 名誉院長の平尾佳彦先生は、「中立的な立場で、患者さんが適切に治療選択できるようサポートしたい」と語ります。実際に、前立腺がんの治療選択はどのように行われるのでしょうか。
陽子線治療については、こちらの記事をご覧ください。
前立腺とは、男性のみにある臓器で、膀胱の下に位置し尿道を取り囲んでいます。前立腺は、精液に含まれる前立腺液を生成しており、人の生殖機能に寄与しています。一方で、生命維持には直接かかわりを持たない臓器です。
前立腺に発生した悪性腫瘍を、前立腺がんと呼びます。前立腺がんはゆっくりと進行することが多く、早期に発見できれば、治癒することが可能とされています。
前立腺がんに対して陽子線治療を選択する際の流れを、大阪暁明館病院の例をもとに説明します。
前立腺がんと診断された患者さんに対し、まずは、前立腺が持つ臓器としての役割や、PSA(前立腺特異抗原)と呼ばれる検査、診療ガイドラインに沿った標準的な治療とそれに伴うリスクの話をします。さらに、陽子線治療を希望された際は、妥当であるかを院内のキャンサーボード注1にかけて協議します。そして、患者さんには1週間ほど時間を空けて再び来院していただき、疑問などにお答えしたうえで、最終的な意思確認を行います。
患者さんの年齢や希望によって、選択する治療も変わってくるでしょう。一般的な平均余命は、30歳の男性ならおよそ52年、80歳ならおよそ9年となります(主な年齢の平均余命|厚生労働省:2017年度による)。その間に患者さんができるだけ痛くない・苦しくない生活を送っていただけるように、私たちは患者さんと共に最適な治療法を検討していきます。
注1 キャンサーボード・・・手術、放射線療法および化学療法に携わる専門的な知識・技能を有する医師や、そのほか専門医師、医療スタッフなどが参集し、がん患者の症状、状態、治療方針などを意見交換・共有・検討・確認などを行うカンファレンス
前立腺がんを疑う場合、まず血液検査でPSA値の測定を行います。PSA値から前立腺がんの可能性がある場合、生検を行い、診断を確定します。生検では、がんの有無と、がんがあればその悪性度を評価し、さらに、MRIなどの画像検査を行い、がんの拡がり(進行度)を調べます。
これらの検査を総合して、がんの可能性の有無、悪性度、進行度や広がりを把握したうえで、NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)ガイドラインに基づき「リスク分類」を行います。
前立腺がんのリスク分類はさまざまな要素を組み合わせて決定されており、大まかに、超低リスク、低リスク、中リスク、高リスク、超高リスクにわかれます。
がんの悪性度なども含め総合的にみてリスクが低く、治療を行わなくても余命に影響が少ないと判断される場合、「監視療法」を選択することがあります。監視療法とは、定期的な診察・検査による経過観察を行い、病状悪化の兆しがみられた時点で適切な治療の開始を検討する方法です。監視療法には、過剰治療を防ぐ目的もあります。
前立腺は、PSA(前立腺特異抗原)というタンパクを分泌します。その多くは精液中に分泌され、精液のゲル化にかかわります。ところが、ごく微量のPSAが血液中に取り込まれた結果、PSAの検査値が高くなることがあります。
PSA値が高い場合、いくつかの病気が考えられます。そのうちの1つが前立腺がんです。
一般的に、前立腺がんは、PSA値が高くなるほど、その後に行う生検(病変の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査)で前立腺がんと診断される確率が高くなるといわれています。
しかしながらPSA値は、正常な方でも、ある程度の年齢を過ぎると緩徐に上昇することがあります。そのため、PSA値が少し高いというだけで過度に心配する必要はありません。しかるべき検査を行い、まずはきちんと診断をすることが大切です。
日本において、前立腺がん検診における対象年齢は、明確に定められていません(2018年11月現在)。しかし、がんの発見を目的とする住民検診について、前立腺がんは一般的に50歳からを受診対象としています 。
50歳を過ぎたら、まずは1回検診を受けてみましょう。その際、PSA値が1.0ng/ml以下であれば、次回は3年後に、もし1.1ng/ml以上であれば、次回は1年後に検診を受けることが推奨されています 。
私たちは、時間を惜しまず網羅的に説明を行うことで、治療に関する患者さんの理解を深め、できる限り適切な治療を選択できるよう努めています。最終的に治療を選択されるのは、患者さんご自身です。そのためには、きちんと時間を使って丁寧に説明をすることが必要です。
前立腺がんの治療には、手術、薬物療法、放射線療法、ホルモン療法など、さまざまな方法があります。治療選択の際には、それぞれのメリット・デメリットをきちんとお話ししたうえで、最終的に患者さんの意思を確認します。
患者さんが陽子線治療を選択された場合、陽子線治療を行う医療施設に患者さんを紹介します。また、陽子線治療施設からも委託を受けて、病状の説明を行います。そして、紹介後も連携をとり、患者さんのフォローアップを継続することで、患者さんが安心して治療を続けられるよう心がけています。
陽子線治療については、こちらの記事をご覧ください。
患者さんが陽子線治療を希望されていたとしても、検査などの結果、陽子線治療に適応しないケースもあります。陽子線治療以外にも、より適切な治療法がある場合もあります。私たちは中立的な立場で、エビデンス(科学的根拠)に基づいて客観的に状況を説明し、患者さんが適切に治療選択できるようサポートしたいと考えています。
私は常々、後進の医師たちに「患者さんが少しでも笑顔になる診療をしましょう」と話しています。病気の診断を受けた患者さんは心に大きな不安を抱えています。気持ちが少しでも和らぎ、「よし、治療を受けよう」と前向きな気持ちになってもらえるように、コミュニケーションをとることを心がけています。
私はよく患者さんに、「立派な建物も時間の経過と共に老朽化していくのと同様に、当然、人の体も、少しずつ古くなり支障が出てきます。いつでも100点満点の生活を目指す必要はありません。しかし、少し手入れをして人の世話にならないようがんばりましょう。」といった話をします。すると、患者さんは少し安心して、笑顔をみせてくれることがあります。
このように、私たちはこれからも患者さんが笑顔になる診療を続けていきます。
社会福祉法人大阪暁明館病院 名誉院長、公立大学法人奈良県立医科大学 名誉教授
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