2018年10月現在、全国で17の施設が陽子線治療を実施しており、大阪陽子線クリニックはそのうちの1施設です。陽子線治療は、X線を使う従来の放射線治療に比べて、がん病巣に集中的に照射できるというメリットがあります。
2018年4月より、前立腺がん(限局性および局所進行性)に対する陽子線治療が保険適用となりました。陽子線治療の具体的な流れについて、大阪陽子線クリニックの山本道法院長と、医学物理士の櫻井勇介さんにお話を伺います。
前立腺がんのうち、限局性および局所進行性のもので、転移を有さないものについては、陽子線治療の適応となります。(2018年9月時点)
一般的に、前立腺がんに対する治療には、手術、放射線治療、薬物療法などがあります。血液検査、画像検査、病理検査などを行い、がんの悪性度や広がりを予測したうえで、治療法を検討します。
当院は放射線治療を専門とする施設ですが、治療法を選択する際には、近隣の総合病院と共にキャンサーボード注1)を開きます。キャンサーボードでは、複数の診療科による見解を集め、適切な治療を検討します。さらに患者さんの希望や全身状態などを考慮し、最終的にどのような治療を行うかを決定します。その結果、ご本人様が陽子線治療をご希望であったとしても、ほかによりよい治療選択が考えられる場合、それが望ましいことを理由と共にご説明致します。
当院は、陽子線治療にかかわる全症例でこのような手順を踏み、適切な治療選択をご提案できるよう努めています。
次項より、前立腺がんに対する陽子線治療の具体的な流れについてご説明します。
注1)手術、放射線療法および化学療法に携わる専門的な知識および技能を有する医師や、そのほかの専門医師および医療スタッフ等が参集し、がん患者さんの症状、状態及び治療方針等を意見交換・共有・検討・確認などを行うためのカンファレンス
当院では、医師による事前説明に限らず担当する全ての医療従事者(看護師・技師・事務など)が、患者さんに対して行う全ての行動についてご納得いただけるまで説明をさせていただいております。検査の目的や注意点、日常の生活で気を付けることなどを画像や文章などでご説明するだけでなく、過度に不安に思う必要が無いことなどもご説明し、その内容の記された資料をお持ち帰りいただけるように準備しています。
まずは、陽子線治療のための準備として、照射中に体の動きを抑える固定具を作成します。患者さん一人ひとりの体に合った固定具を作製します。
固定具の作製に続き、MRI検査とCT検査を行います。どちらの検査とも数日間実施し、体の状態を詳細に確認します。これらの検査で得られた画像をもとに、医師や放射線技師、医学物理士など多職種で治療計画を立てます。
どちらの検査とも、実際に照射するときと同じように固定具に横たわっていただき、検査を実施します。CT画像は、精密に身体を描出できますが組織のコントラストが現れにくいという特性があるため、MRI画像を利用することで、この欠点を補います。
放射線(X線や陽子線、炭素線)の治療計画を立案するための検査で重要な点は、正確に身体の密度と臓器の位置関係を把握することと、その再現性を検証することです。放射線を体内の目的の位置に毎日正確に照射しなければなりません。
CT画像で正確な地図を描き、MRIと照合することで臓器を正しく描出します。この治療計画を元に日々の治療が行われるため、一度きりの検査ではなく複数日に渡って体の状態を観察します。
これは、記事1でもお話ししたように、放射線治療は「いかに正常な組織へのダメージを抑え、がん病巣に集中させるか」という点が重要だからです。
上記の視点から、CT検査に加えて、基本的には全例MRI検査を行っております。前立腺は容易に動く臓器です。そのため当院ではより正確な治療のために、小さな金のマーカーを前立腺内の3か所に埋め込む方法を採用しています。このマーカーを用いることでCT/MRI照合の精度が上がるだけでなく、治療の照射位置の精度も向上します。マーカーを埋め込む際には、連携病院の泌尿器科をご紹介しています。
画像検査を経て、専用のコンピュータで照射範囲や線量を計算し仮想の分布を作成します(シミュレーション)。このシミュレーションは患者さんのご要望にかかわらず、IMRT(トモセラピー)と陽子線治療の両方で立案し互いに比較します。これは、新しい治療である陽子線治療が必ずしも従来法(IMRT)に勝るものではなく、従来法が優れている場合もあるためです。当院ではこの両方の治療計画を元に患者さんに内容を説明し、適切な放射線治療をご案内致します。治療装置の選択の後、計算検証のための測定で品質に問題がなければ実際の治療を開始します。
当院での例をもとに、治療の流れをご説明します。
治療に来られた際の流れは以下のとおりです。
実際に陽子線のビームを照射するのにかかる時間は、1分間ほどです。照射の位置を調整する時間を含めると、全体で10〜20分ほどかかります。
前立腺がんに対する陽子線治療では、通常、74-78Gy(RBE)を37~39回照射しますが、ランダム化比較試験(バイアス[偏り]を避け、客観的に治療効果を比較できるもっとも信頼できる試験)にて60-63Gy(RBE)を20~21回でおこなう方法も同等の効果・安全性が確認されましたので、当院では患者さんの利便性を考え、短期間で終了する方法を採用しています。
陽子線を照射している間は、体を動かさずにベッドに横になっていただきます。照射中、熱や痛みを感じることはありません。
一般的に、正常な細胞は通常6時間以内に修復し、がん細胞はそれよりも修復が遅いといわれています。そのため、基本的には1日1回の照射を数日連続して行います。外来通院が可能で、入院は不要です。
陽子線治療後には、2年までは4か月に1回、3年〜5年までは6か月に1回、6年〜10年までは1年に1回の頻度で定期的に通院していただき、経過観察を行います。
注2)放射線の影響を表す単位。放射線の性質の差を補正し、X線であればどの程度の線量に相当するかを示したもの。被ばくの長期的な影響ではなく、細胞死等の短期的に発生する影響のみを考慮している。
以下のイラストをご覧いただくとわかるように、前立腺は、膀胱の上部、直腸の前面に位置しています。
膀胱は尿を溜め、直腸は便やガスが通過する場所ですから、耐えず形態が変化する環境といえます。そのため、前立腺がんの陽子線治療では、膀胱と直腸の変化による影響をできるだけ受けないよう、決まった時間にお水を飲んでトイレに行っていただく、アルコールやカフェインの摂取を控えるなどの制限を設けています。
前立腺がんに対する陽子線治療の副作用として、性機能障害、排尿障害、さらには直腸出血が起こることがあります。先ほど述べたように、前立腺は直腸の前部にあり、両者は隣接してつながっています。そのため、前立腺に陽子線を照射することで、直腸出血という形で副作用が出る可能性があるのです。
直腸出血への対策として、水溶性の保護ジェルを前立腺と直腸の間に注入・留置する方法があります。このジェルは、3か月ほど前立腺と直腸の間に留まり、約1cm距離を保つことで、陽子線照射による影響を抑えます。その後、ジェルは6か月ほどかけて体内に吸収されます。
当院の陽子線治療装置についてご説明します。1階で陽子線を発生させ、加速器(シンクロトロン)で治療に必要なエネルギーまで加速します。これは、いわばエンジンのような装置です。そして、加速された陽子線は3階の治療室に運ばれ、回転ガントリーという装置によって治療に用いられます。
陽子線治療に使う装置は、ご覧いただいたとおり非常に大きいです。そのため、陽子線治療を受けられる施設は都心から遠い場所が多い傾向にありました。(2018年10月現在)身体への負担が少ない治療であっても、遠方への通院のために患者さんやご家族の方が生活を変えたり仕事を休んだりしなければならないことも多く、日常への負担が大きいこともありました。
当院は大阪駅から電車などを使って30分ほどの場所にあります。通院しやすく、また、人によっては、仕事を休まずに治療を受けられるケースがありますので、陽子線治療を検討されている方はご相談ください。
当院では、若手とベテランのスタッフが約半分ずつの割合で在籍しており、協働で治療に携わります。その背景には、「長年の経験による感覚や知識を現場で活かしながらも、柔軟性を持って道を切り拓いていく」という精神が息づいています。
当院ではこれからも、陽子線治療を必要とする患者さんに、適切に治療を提供し続けていきたいと考えています。
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医療法人伯鳳会 大阪陽子線クリニック 院長
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