女性の罹患率が高いがんの1つである乳がん。早期発見が大切といわれていますが、どのような原因によって発症すると考えられているのでしょうか。また、乳房にできるしこり以外に、現れる可能性のある症状はあるのでしょうか。
今回は、乳がんの治療に携わっていらっしゃる埼玉県立がんセンター 乳腺外科の松本 広志先生と乳腺腫瘍内科の永井 成勲先生に、乳がんの原因や症状についてお話を伺いました。
乳がんとは、乳房にある乳腺組織に発生する悪性腫瘍です。乳腺は乳管と乳腺小葉から構成されています。乳がんは乳管から発生することが多いですが、乳腺小葉から発生することもあります。乳管の外に浸潤したがんはリンパ管や血管に入り込み、腋の下のリンパ節や、骨や肺・肝臓などの臓器に転移することがあります。
乳がんは、内臓ではなく体表に発生します。そのため、内臓に発生するがんと異なり、触って発見できる点が大きな特徴です。
乳がんの進行度は病期(ステージ)として0~IV期に分類され、数字が大きくなるほど病気が進行していることを意味します。
さらに、がん細胞の特徴によるサブタイプ分類もあり、主に薬物療法を行う場合に適した薬を選択するための参考となります。サブタイプは、主にがんの増殖に関わる女性ホルモンに反応するタンパク質(ホルモン受容体)と、がん細胞の増殖を促進するタンパク質であるHER2の有無によって、ルミナルタイプ(ホルモン受容体陽性・HER2陰性、AとBに細分類される)、ルミナルHER2タイプ(ホルモン受容体陽性・HER2陽性)、HER2タイプ(ホルモン受容体陰性・HER2陽性)およびトリプルネガティブタイプ(ホルモン受容体陰性・HER2陰性)の4つに分類されます。
日本では、40歳代後半から50歳代前半の罹患率が高いといわれています(2021年3月時点)。欧米などと比べるとやや若い患者さんが多く、中には小さいお子さんをもつ患者さんもいらっしゃいます。仕事や子育てをしながら治療を受けている方が比較的多い点も日本の乳がん患者さんの特徴の1つであると考えています。
乳がんの発症に関わるリスク因子として、以下に示すようにエストロゲンという女性ホルモンに関連する因子などが考えられています。
ほかにも閉経後肥満や高脂肪食、飲酒や喫煙などもリスク因子と考えられています。また、乳がんの中には遺伝的な素因によって発生するものがあるため、家族内に乳がんを発症した方がいる場合も乳がんを発症しやすい体質をもっている可能性があります。
乳がんの主な症状は、乳房にできる腫瘤(しこり)です。また、乳房だけでなく腋の下にしこりが現れることがあります。さらに、乳房にえくぼができたり、左右の乳房の形が非対称になったりすることがあります。乳頭から血液が混ざった分泌物が出たり、乳頭が陥没したりすることもあります。
乳がんのしこりは触って確認することができるため、セルフチェックは乳がん発見の1つのきっかけになります。普段から乳房や腋の下を触り、しこりがないか確認し自分の乳房をよく知っておくことが大切です。
ただし、触っても分からないケースもあるので、基本的には定期的な検診が重要になります。40歳以上の女性であれば2年に1回乳がん検診を受けることが推奨されています。多くの市町村では検診費用の一部を負担しており、一部の自己負担で受診できることが多いです。このような補助を上手に利用しながら定期的に受診するようにしてください。
乳がんの画像検査には、主にマンモグラフィ、超音波(エコー)検査、磁気共鳴画像(MRI)検査などがあります。
マンモグラフィは、乳がん検診や病院での診断目的で行われる乳房専用のX線検査です。2枚の板で乳房を挟み、薄く伸ばして撮影を行います。マンモグラフィでは、腫瘤のほかに超音波検査では発見することが難しい細かい石灰化(乳房内の分泌物、壊死物に部分的に石灰が沈着したもので乳がんでみられることがある)を発見しやすいという特徴がありますが、乳腺の密度が高い場合には病変を発見しづらいことがあります。
超音波検査では、乳房の表面に超音波を発生させる機械を当て、その反射の様子を画像で確認していきます。乳腺が高濃度でマンモグラフィでの病変発見が難しい場合には、超音波検査が乳がんの発見につながることがあるでしょう。
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