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インタビュー

前立腺がんの原因と症状とは? ステージごとの治療法と早期発見の重要性

前立腺がんの原因と症状とは? ステージごとの治療法と早期発見の重要性
松原 昭郎 先生

広島大学大学院医歯薬保健学研究科 腎泌尿器科学 教授

松原 昭郎 先生

50歳を境に顕著に増える前立腺がんは、早期に発見することができれば根治を目指せる男性特有の疾患です。しかし、早期前立腺がんには、血尿や排尿痛といった自覚症状はありません。また、年齢や人種、男性ホルモンが前立腺がんの発症に関与していることは明らかになっていても、これらのリスク因子は努力で防ぐことができる性質のものではありません。

したがって、あらかじめ前立腺がんの基礎知識や早期発見のために必要な検査を知っておくこと、一定の年齢になったら検査を受けることが極めて重要になります。広島大学病院泌尿器科診療科長の松原昭郎先生に、前立腺がんのステージごとの症状の有無や治療法、検査を受ける年齢についてお伺いしました。

前立腺

男性のみにあるクルミ大の器官「前立腺」は、尿道を取り囲むように膀胱の出口に位置しています。前立腺の主な役割は、以下の2つです。

前立腺は、膀胱とともにスムーズな排尿を助けています。そのため、加齢とともに前立腺が肥大化すると、頻尿や残尿感などの排尿障害が生じます。

前立腺のもうひとつの重要な機能は、精子の活動を助けるための前立腺液を産生・分泌することです。

精液中に含まれる前立腺液は、精子の運動や保護に関与している可能性があると考えられています。

前立腺がんの多くは、前立腺の辺縁域に生じます。前立腺を果物に喩えるならば、「皮」の部分に発生するとイメージしていただけるとわかりやすいでしょう。

前立腺がんの自覚症状には、残尿感や排尿時の痛み、血尿などが挙げられます。しかし、このような自覚症状が現れるのは、がんが進行し、前立腺の被膜外へと浸潤してからです。

前立腺がんのステージは、以下4つにわけられます。

前立腺

・ステージA・B:がんが前立腺の被膜内に留まっているため、「早期がん」あるいは「限局がん」と呼ばれます。ステージAは臨床的に前立腺がんと診断されず、良性前立腺手術において、たまたま組織学的に診断されるものです。したがって、検査により発見される早期の限局がんとは、基本的にステージBということになります。限局がんであれば、手術治療や放射線治療により根治(完治すること)を目指せます。

・ステージC:がんが前立腺の被膜外へと浸潤しており、排尿時の違和感や血尿などの症状が現れます。「局所浸潤がん」とも呼ばれます。

・ステージD:がんが被膜外へと浸潤しているだけでなく、他の臓器などにも転移しています。前立腺がんの場合は、特に骨に転移することが多く、疼痛(激しい痛み)が生じることがあります。

ステージC、Dの場合、手術によってがんをすべて切除することは難しく、放射線治療やホルモン療法、抗がん剤治療が選択されます。

根治を目指せるステージA、Bの段階で前立腺がんをみつけるためには、PSA検査と呼ばれるスクリーニング検査を受けることが有用です。

繰り返しになりますが、早期の限局がんには自覚できる症状はありません。詳しくは後述しますが、前立腺がんのリスク因子は年齢や人種、また、「男性であること」といった抗えない質のものです。読者の皆様には、一定の年齢になったらPSA検査を受けていただきたいとお伝えしたいです。

前立腺がんには「なりやすい家系」が存在するため、何らかの遺伝子異常が原因となっていると考えられていますが、乳がんのように「持っていると発症する」といった決定的な遺伝子異常の特定はされていません。

たとえば、前立腺がんになりやすい家系の方が共通して持っている遺伝子異常は、いくつか報告されています。しかしながら、前立腺がんを引き起こす遺伝子異常はひとつではなく多種多様なため、現時点では部分的な解明に留まっているといわざるを得ません。

現在明らかになっている前立腺がんのリスク因子は、(1)年齢、(2)人種、(3) 家族歴、(4)男性ホルモン(アンドロゲン)の4つです。

前立腺がんの罹患率は50歳を境に著しく上昇し、60歳、70歳と年をとるに従い増えていきます。ただし、近年では40歳代の前立腺がんも増えていると、自身の臨床経験からも感じています。

アメリカと日本

前立腺がんは、特にアメリカ人に多く、その罹患率(※)の差は日本人の約10倍となっています。※年齢調整罹患率

また、同じアメリカで暮らす黒人の方と白人の方では、前者のほうが罹患率は高く、このことからも人種と前立腺がんの関係性は明らかといえます。

日本人であっても、ハワイに10年ほど住んでいる方々の罹患率は、日本在住の日本人よりも高くなります。

さらに、黒人、白人、日本人、ハワイ在住の日本人で潜在がんの頻度を比較すると、4者の間に顕著な差はみられません。潜在がんとは、胃がん肺がんなど、前立腺がんとは異なる疾患により亡くなった方の解剖を行った際に、偶然発見された前立腺がんのことを指します。前立腺がんのもととなる潜在がんの頻度には、人種差はみられないにもかかわらず、罹患率に差が生じている事実から、前立腺がんの発症には何らかの環境因子が関わっていると考えられます。

罹患率の差から考えられる環境因子とは、「食事」です。アメリカ人と日本人の食生活を比較すると、前者は肉や牛乳などの動物性脂肪を多く摂取する傾向があり、後者は緑茶や豆類を摂る機会が豊富にあります。

過去には日本人の食生活に着目した研究者により、抽出した緑茶ポリフェノールや大豆イソフラボンを前立腺がん細胞に投与するという研究も行われています。この研究では、がん細胞の増殖が抑制されたと報告されていますが、相関関係はないと述べる研究者も多く、現時点で確固たるエビデンスは得られていません。

前立腺がんの罹患者が家系に1人いる場合、発症リスクは2倍になります。また、罹患者が2人いる場合の発症リスクは、5倍にまで高まります。

そのため、前立腺がんに罹患された方が家系にいる(いた)場合は、後述するPSAスクリーニング検査を、規定の年齢より5~10年早く受けることが推奨されています。

前立腺は、精巣で作られる男性ホルモンのひとつ、アンドロゲンを受けて発生し、成長していく器官です。したがって、胎児のときにもしも精巣が作られなければ、前立腺も発生、成長することはありません。このような前立腺の性質を、アンドロゲン依存性といいます。

前立腺がんも同様にアンドロゲン依存性があるため、アンドロゲンを浴びれば浴びるほど増殖していきます。

これとは逆に、中国史などで有名な宦官(去勢を施している官吏)は、前立腺がんを発症することがなかったという興味深い報告もあります。

ただし、どのようなメカニズムで前立腺がんが発症するのか、また、なぜ前立腺がんはアンドロゲン分泌量の低下する年齢で好発するのか、このような疑問に対する答えは出ていません。

上述した年齢や家族歴、人種などは、変えることのできないものです。ただし、前立腺肥大症の治療薬であるアボルブ(5α-還元酵素阻害薬)を用いて、精巣から分泌されたアンドロゲンが、前立腺で活性型アンドロゲンに変換されるのに必要な酵素をブロックする科学的な予防法は存在します。

海外では、アボルブを長期間用いていた群と偽薬群を比較する臨床試験も行われています。この研究では、アボルブ群のほうが前立腺がんの罹患率は有意に低くなったというデータが得られています。

ただし、これはあくまで臨床試験のデータのひとつであり、実際の医療現場でアボルブを前立腺がん予防薬として使用することはできません。

採血

ここまでに述べてきたように、前立腺がんに確実な予防法といったものはありません。ですから、根治可能な段階で前立腺がんをみつけるためには、PSA検査と呼ばれるスクリーニング検査を受けることが大切です。

PSA(前立腺特異抗原)とは、前立腺上皮細胞で作られる酵素のひとつで、射精後の精液をサラサラにする作用を持っています。

PSAの大半は精液中に含まれていますが、そのごく一部は血液中に漏れ出しています。前立腺がんではない健康な方の血中にもPSAは漏出していますが、数値は前立腺がん罹患者のほうが高くなるため、その差を利用して罹患している可能性が高い人と低い人をふるい分けることができるのです。

健康意識が高い方は一定の年齢になるとPSA検査を受けていますが、日本ではまだまだ検診システムが普及しているとはいえず、自覚症状が現れてはじめて受診される方もおられます。予防法のない前立腺がんで亡くなる方を減らすためには、検診システムの整備が不可欠であると考えます。

 

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    松原 昭郎 先生

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