ロボット支援手術ダヴィンチの導入によって、前立腺がん手術の精度は大きく向上しました。患者さんだけでなく、手術を行う医師にとっても、ダヴィンチはメリットとなっているそうです。九州大学病院大学院泌尿器科学分野教授の江藤正俊先生にロボット支援手術ダヴィンチについてお話をうかがいました。
前立腺は、膀胱や直腸といった重要な臓器に囲まれたうえ、からだの奥、骨盤の底部に位置しています。そのため、従来の開腹手術においても、臓器が十分に見えないなど、手術をするにあたっては難しい部分が少なくありませんでした。内視鏡と呼ばれる細い管を挿入して行う腹腔鏡手術を行うにしても、器具の先についた鉗子やメスの可動域は狭く、細かい作業が求められる前立腺の手術においては、十分とはいえない場面も少なからずみられました。
これらを改善し、安全性や手術自体の精度を高めることを可能としたのがダヴィンチを用いたロボット支援手術です。ロボット手術といっても、ロボットがメスを握って手術を行うわけではありません。術者はコンソールと呼ばれるダヴィンチ専用の器機に入り、遠隔操作によって手術を行います。通常の手術と同様、執刀医(手術をする医師)をはじめ麻酔医や助手、看護師などのチームで行います。手術は一般的な内視鏡手術と同じく腹部に数か所穴を開けて行います。
ダヴィンチは腹腔鏡の装置のひとつに含まれますが、大きなメリットは何といっても、可動域の広い手首機能を備えているということです。一般的な腹腔鏡手術では、鉗子の先端は「握る」「回転する」といった動きしかできないため、鉗子の動きに制限がかかってしまいます。さらに、テコの原理で術者は動かしたい方向とは逆の動きをしなければならないなど、特殊で高度なテクニックが必要となります。しかし、ダヴィンチの場合は鉗子の先端に関節がついているため、細かい作業が可能となり、術者の手首が患者の体の中に入っているかのような感覚で手術をすることができるのです。
また、二次元画像で行う内視鏡手術と違って、ダヴィンチは三次元の立体画像によって術野をみることができるという点もメリットのひとつです。そのため術者は、鉗子をより正確に狙った箇所に動かすことができるため、外科手術の基本である剥離(周囲の臓器などから適切にはがすこと)や縫合をより正確に、そして安全に行うことができるのです。縫合のときの運針(針の運び方)の数についても、開腹手術では4針から6針程度であるのに対して、ダヴィンチでは軽く10針ほどの針をかけることができるのです。つまり、それだけタイトに縫えるので、吻合の精度も高まるのです。特に、膀胱と尿道を吻合する膀胱尿道吻合のときなどは非常に便利です。
ダヴィンチ手術は、手術時間の短縮や出血量が少ないなど、患者さんのからだへの負担が軽減されるだけでなく、手術を行う術者にとっても、大きな利点があります。前立腺がん手術を行うにあたっての技術的な合格ラインに到達するために必要な症例数、つまりラーニングカーブは、腹腔鏡手術と比べるとダヴィンチでは格段に少なくてすむのです。関節可動域の狭い不自由な腹腔鏡よりも、可動域の広いダヴィンチの方がより早く技術の習得が可能で、習得性という観点からみても優れているのです。
九州大学大学院 医学研究院 泌尿器科学分野 教授
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・指導医日本癌学会 会員日本癌治療学会 会員日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 会員日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(泌尿器腹腔鏡)日本ロボット外科学会 会員日本がん免疫学会 会員日本臨床腫瘍学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
九州大学病院泌尿器・前立腺・腎臓・副腎外科にて泌尿器腫瘍を中心とした診療にあたっている。移植免疫の経験を生かして、現在は泌尿器がんに対する免疫細胞療法やホルモン抵抗性前立腺がんに関する研究を行っている。臨床面ではダヴィンチを含めた腹腔鏡外科に力を入れ、からだにやさしい低侵襲治療であるロボット支援手術ダヴィンチのさらなる普及に向けた活動を行っている。
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