長年、男性の前立腺がん検診にはPSA検査が用いられてきました。この検査では、前立腺でつくられるたんぱく質、前立腺特異的抗原(PSA)の量が測定されます。しかし、PSA検査による有益性よりも、検査による害の方が上回る場合があります。以下に、その詳細を述べます。
PSAの数値が高い男性の多くは、前立腺がんではありません。PSAが高値になる理由としては、
というようなことが考えられます。
年齢やPSA値の程度にもよりますが、PSAの数値が高い男性の中で前立腺がんであるのは25%以下です。しかし、これらのがんの多くは問題になるものではありません。高齢の方だと、前立腺にがん細胞が発生していることも稀ではありませんが、このがんの進行速度は一般的に緩やかです。前立腺を越えて進行することはあまりなく、何らかの症状を引き起こしたり、死に至らしめることは通常はありません。
様々な研究により、55歳から69歳の男性1000人に対してPSA 検査を定期的に行っても、前立腺がんによる死亡者は1人しか減らすことができないということが示されています。
さらに、PSA 検査をすることにはリスクもあるのです。
PSA値が異常であれば、生検を受けることになるでしょう。生検では、直腸の壁から前立腺に向けて針を刺し、組織を採取します。このような生検は、痛みや出血につながることがあります。また重度の感染症を引き起こすこともあり、この場合は入院加療が必要になります。
前立腺がんの治療は、手術もしくは放射線治療が一般的ですが、これもまた益より害が上回ることがあります。心臓発作や深部静脈血栓、肺塞栓症といった重度の合併症が起こり得ますし、時には死に至ることもあります。加えて、男性1000人のうち40人ほどは、治療後に勃起不全になったり、尿失禁をするようになってしまうのです。
PSA検査自体の費用は、およそ40ドル(日本円で約5,000円)と比較的安価ですが、異常値が出ると、その後にかかる費用がどんどん増していきます。
生検をするため、主治医は泌尿器の専門医に紹介するでしょう。
この時かかる費用には、以下のようなものが含まれます。
生検によって問題が生じた場合、さらに費用がかさみ、場合によっては入院費も必要になります。
50歳から74歳の場合は、PSA検査をするかどうか、主治医と相談するのがよいでしょう。どんなリスクや利益がありえるかについて尋ねてください。
50歳以下あるいは74歳以上ならば、前立腺がんが強く疑われる場合を除いて、PSA検査が必要になることはほとんどないでしょう。必要となるのは、例えば以下のような場合です。
・家族、特に親や兄弟など近い血縁者に前立腺がんを発症した人がいる場合、前立腺がんの発症リスクは増大します。
・近い血縁者が60歳以前に前立腺がんを発症したか、75歳までに前立腺がんにより亡くなったということがあれば、発症リスクはさらに増します。
・これらのリスクがある場合、50歳以下の方でもPSA検査を受けることを相談するのがよいでしょう。
前立腺がん発症のリスクが低い男性に対する定期的なPSA検査が、余命を延ばすという十分な根拠はありません。米国予防医学作業部会(U.S. Preventive Services Task Force)と同様、コンシューマーレポートは、前立腺がん低リスク層の男性に対して検診を行うことは、有益性よりも害の方が大きいと考えています。
前立腺がんに罹患している患者に対して行うPSA検査は、非常に有用です。手術後、あるいは放射線治療後の方も含みます。
PSA検査は、待機療法を選択した患者の経過観察にも用いられます。(PSA監視療法ともいわれます。)前立腺がんは、低リスクで、一般的に進行が遅く、命に関わることはありません。
がん治療に伴い、強い副作用が出る場合があるので、治療の代わりに待機療法(PSA監視療法)を選択する患者も沢山います。PSA検査の結果に変化が起こった際に、治療の開始を検討します。
※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。
翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 学生メンバー・大阪医科大学 荘子万能
監修:小林裕貴、徳田安春先生
群星沖縄臨床研修センター センター長 、筑波大学 客員教授、琉球大学 客員教授、獨協大学 特任教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of General and Family Medicine 編集長
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