前立腺がんは日本人男性がかかるがんのトップとなりました。治療には手術療法や放射線療法などいくつかの種類がありますが、前立腺内に限局した早期であれば選択肢も広がります。九州大学病院大学院泌尿器科学分野教授の江藤正俊先生に前立腺がんについてお話をうかがいました。
昨年、国立がん研究所が発表した統計によると、男性がかかるがんは、それまでトップだった胃がんを抜いて、前立腺がんが第一位となりました。これまでも、2020年頃には前立腺がんが首位になると想定されていましたが、予想よりも早いペースで前立腺がんにかかる患者さんが増加しています。
前立腺がんがこのように増加した背景には、さまざまな要因が考えられます。まずひとつに高齢化があげられるでしょう。前立腺がんは比較的高齢者に多く発症するがんです。そのため、高齢化の進んだ日本においては罹患者の増加につながっているものと考えられます。また、生活習慣や食生活の欧米化も要因としてあげられます。そのほかにも、早期の前立腺がんを発見できるPSA(前立腺特異抗原)検査の普及も大きな契機になったと考えられます。
前立腺がんも他のがんと同様に、早期発見・早期治療がとても重要となります。前立腺がんの早期発見に大きな役割を果たしているのが、先ほどお話ししたPSA検査です。
前立腺がんの治療においては、がんの進行度や悪性度、年齢や全身状態などを考慮して治療法を選択します。がんが前立腺内に限局している、いわゆる限局性前立腺がんであれば、根治させることが可能です。この場合に行われる根治療法には、手術療法と放射線療法があります。
手術療法は、従来から行われてきたおなかを開いて行う開腹術と、内視鏡という細い管をおなかに挿入して行う腹腔鏡手術のふたつがあります。今回のテーマであるダヴィンチ手術は、腹腔鏡手術の中に含まれています。
一方、放射線療法には、従来から行われている体の外から放射線をあてる「外照射」と、ヨウ素125という放射性同位元素が詰め込まれたカプセル状の線源を前立腺の中に埋め込む「密封小線源封入療法」があります。この放射線治療は、「小線源」と呼ばれる放射線が充填されたカプセルを50~100個ほど前立腺の中に永久的に埋め込む治療法です。埋め込まれたカプセルからは弱い放射線が放出されるため、内部から前立腺全体に放射線をあてることができ、小線源を埋め込んだ後も一定期間効果的に前立腺がんを攻撃することができるのです。
これらはいずれも早期がんに対する治療法ですが、前立腺がん治療は病期によって異なります。例えば、がんが前立腺内に限局している限局がん(T1~T2でN0、M0)の場合であれば、手術療法や放射線療法、待機療法などが行われます。がんが前立腺の外に進展している局所浸潤がん(T3、N0、M0)、の場合には、手術療法や放射線療法、内分泌療法などが行われます。また、がんが前立腺周囲の臓器やリンパ節へ浸潤・転移をしている患者さんでは、手術療法や放射線療法を単独で行うより、内分泌療法などと複数の組み合わせで治療を行うことが多くなります。
九州大学大学院 医学研究院 泌尿器科学分野 教授
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・指導医日本癌学会 会員日本癌治療学会 会員日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 会員日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(泌尿器腹腔鏡)日本ロボット外科学会 会員日本がん免疫学会 会員日本臨床腫瘍学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
九州大学病院泌尿器・前立腺・腎臓・副腎外科にて泌尿器腫瘍を中心とした診療にあたっている。移植免疫の経験を生かして、現在は泌尿器がんに対する免疫細胞療法やホルモン抵抗性前立腺がんに関する研究を行っている。臨床面ではダヴィンチを含めた腹腔鏡外科に力を入れ、からだにやさしい低侵襲治療であるロボット支援手術ダヴィンチのさらなる普及に向けた活動を行っている。
江藤 正俊 先生の所属医療機関
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