
「がん」は、進行状態によっては、生活の質よりも生命を守る治療を最優先しなければならない場合があります。そのため、治療を受けるにあたっては、身体的な負担や治療後の日常生活の負担が大きくなることが珍しくありません。しかしながら、医学の進歩によって、様々ながんに対して治療後の負担が軽減できる治療法が開発されています。前立腺がんにおける高線量率組織内照射治療もその例です。この記事では、前立腺がんの高線量率組織内照射治療について、川崎医科大学放射線腫瘍学教室教授の平塚純一先生に解説していただきます。
前立腺とは、膀胱の下に位置する器官です。男性だけに存在し、主として前立腺液を分泌し、睾丸で作られた精子と前立腺液を混ぜ合わせて精液を作っています。加齢による前立腺肥大症により尿道を圧迫して排尿障害を起こしますが、前立腺がんにおいても同様の症状が起こることがあります。また、がんである以上転移が起こり、他の器官の機能を損ねたり、果ては生命の危機に至ることもありえます。
限局性前立腺癌に対する根治的治療として、これまで「前立腺全摘除術」と「根治的外照射治療」が挙げられてきました。しかし実際には、前者が根治的治療として唯一のGolden standard(信頼できる基準)と考えられていました。日本においてその傾向は顕著でした。
たしかに、限局性前立腺癌に対するこれまでの外照射を中心とした放射線治療成績は、長期効果の点で決して満足のいく結果ではありませんでした。その原因として、周辺正常組織の耐用線量の低さのために、十分な線量を前立腺に配分できなかったことが挙げられます。しかし、最近の放射線治療支援機器の進歩により、周辺正常組織への線量を減らし、前立腺病巣に比較的大線量を照射することが可能になってきました。そのため、治療成績の上昇と治療後の QOL(生活の質)向上がもたらされるようになりました。
そのひとつが小線源を用いた「組織内照射治療」です。組織内照射の最大の特徴は、標的に合わせた線量分布が得られ、臓器固有の動きに対応できることです。この点で究極の高精度放射線治療といえます。本記事では、イリジウム192(Ir-192)を用いた高線量率組織内照射治療について説明します。
高線量率組織内照射治療とは、あらかじめ病変部にアプリケ-タ針(イリジウム線源を通すための管状針)を留置して、その後、本線源を挿入し照射を行う治療法です。本治療装置は,内蔵する高強度のイリジウム線源を遠隔操作であらかじめ配置したアプリケータ内をコンピュータ制御で走査させ腫瘍部に限局した照射を可能とする高精度治療装置です。前立腺癌高線量率組織内照射はこの高精度治療装置を用いてイリジウム線源を一時的に前立腺内へ挿入する治療法です。投与線量やその均等性の調節に優れており、高い精度での治療を可能にしています。
遠隔転移がなく、膀胱・直腸にまで広がっていない前立腺がんであれば適応となります。
ただし、重度の前立腺肥大が合併していると前立腺の一部が骨盤(恥骨)に隠れてしまうため、その部位にアプリケータ針を刺入できない場合があります。このような場合は、まず3ヶ月程度のホルモン治療を行って前立腺を小さくしてから行います。また、何らかの事情(腹部の手術既往、重度の心疾患、脳血管障害、高齢など)で外科手術ができない場合でもこの治療は可能です。
腰椎麻酔を行ったあと直腸に挿入した超音波装置を使って、肛門と陰嚢の間の「会陰部」から、放射線源であるアプリケータを安全かつ正確に前立腺内に刺入します。刺入本数は、12~18 本(平均 15 本)ですが、 20~30 分で刺入できます。
その後、イリジウム線源が治療計画に従ってアプリケータ内を移動しその人の前立腺の形に合った線量分布を作ります。この約 10~15分の治療を 1 回として、 1 日2 回(午前と夕方)の治療を行います。
治療中は、アプリケータを入れた状態でベッド上安静が必要です。2回目の照射が終了する夕方には、アプリケータ針をすべて抜去します。翌朝尿道カテーテルを抜去し、問題なく排尿ができることを確認したら退院していただくこととなります(実施施設により治療スケジュ-ルに多少の違いがありますので確認ください)。
・線源位置およびそのアプリケータ内の停留時間を変化させることにより、個人の前立腺サイズ・形にマッチした放射線の照射(線量分布)を作成することができます。
・前立腺は、膀胱(尿量)や直腸(便・ガスの量)の状態によりその位置は変化します。本治療では刺入されたアプリケ-タ針が前立腺と共に動くことで、膀胱、直腸の変化にかかわらず正確かつ確実に照射することが出来ます。
・医療従事者およびご家族に被曝が起きません。
・治療にあたって、隔離病棟ではなく、一般病室での入院のため、ご本人にもご家族にも負担がかかりません。治療期間が短くてすみます。
この治療は、体の外から放射線を照射する外照射と併用することがほとんどです。外照射の回数は施設により異なりますが、川崎医科大学では 13 回の外照射を併用しています(2.5 週間)。組織内照射治療は、前述の通り2 泊 3 日の入院治療となりますので、全治療期間は 3 週間となります。なお、健康保険が適用となります。
フォロ-アップは、 治療1 ヵ月後に外来を受診していただきます。その頃にはほとんどの患者さんで頻尿、排尿時痛などの急性反応がなくなっています。順調に改善していることが確認できれば、以後は 3 ヶ月ごとの受診となります。
検査では、PSA値(再発の有無)、尿潜血・便潜血(放射線障害の有無)の有無をチェックします。
以下に合併症を紹介しますが、これらの合併症は時間とともにほとんどがなくなっていきます。
これらは、処方された薬を使うことで時間の経過とともに改善してきます。ただし症状が重い場合は、前立腺肥大症に準じた治療薬や消炎鎮痛薬を用いて症状を緩和します。
血尿に関しては多くの場合 2~3 日で消失し、長引くことはほとんどありません。
10%前後のケースにおいて、治療後相当の時間が経過してから尿道狭窄を起こすことがあります。これは排尿時痛として現れます。外来診察時の処置で改善することが出来ます。
放射線治療に伴う下痢・肛門痛・痔の症状の悪化などがありますが、時間とともに改善します。症状が重い場合は軟膏や坐剤で治療します。
放射線治療を行いますので、性機能が完全に保たれることはありません。血管系の障害がこの原因といわれています。ただし、年齢が若い(65 歳以下)方ほど障害は少ないようです。80%程度のケースにおいては性機能改善薬が有効です。また、治療後は射精時に数回血精液症(精液に血液が混ざる症状)が生じます。これは針が精嚢まで刺入されていたからで、時間の経過とともに改善します。
これらは放射線治療に伴う症状です。前立腺周囲には多くの血管や神経が密集しており、治療の影響によって前立腺が浮腫を起こします。その後は萎縮してきますが、その際に血管や神経が牽引されるために起こると考えられています。ただし、これらの症状も時間の経過とともに改善していく症状です。
血尿症状がみられる方は、問題がない範囲で水をきちんと飲んでいただきます。血尿は数日で治まります。
血便が出ることがありますが、たいていは自然治癒しますので、経過観察を行います。ただし、長引く場合は主治医に相談してください。また会陰部不快感がある方は、症状が治まるまで自転車・バイク・乗馬などといった会陰部に刺激を与える運動は控えていただくことが無難です
この治療を受けた後は、積極的に性行為を行った方が性機能を保つために有効です。それでも満足な性機能が維持できない場合は薬物療法を行います。
周辺で前立腺がんの実績がある医師
医療法人インテグレス 新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長
胃・大腸カメラを“眠ったまま”で、消化器と泌尿器の症状を幅広く診療
新橋消化器内科・泌尿器科クリニック(東京都港区新橋1丁目11-5 コルティーレ銀座ビル 7F 8F:JR・東京メトロ・都営線・ゆりかもめ「新橋」駅 徒歩1分)の病院ページ。
泌尿器科、消化器内科、内科
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順天堂大学医学部附属練馬病院 泌尿器科 教授・診療科長
順天堂大学医学部附属練馬病院―“ワンチーム”で充実した医療を地域に届ける
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