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インタビュー

日本におけるダヴィンチ手術の現状-前立腺がん手術全体の半数強に使用

日本におけるダヴィンチ手術の現状-前立腺がん手術全体の半数強に使用
江藤 正俊 先生

九州大学大学院 医学研究院 泌尿器科学分野 教授

江藤 正俊 先生

この記事の最終更新は2016年05月15日です。

国内に200台のダヴィンチを有する日本は、アメリカが有する2000台に次ぐ世界第二位のロボット大国となりました。

九州大学大学院泌尿器科学分野教授の江藤正俊先生にダヴィンチ手術の現状についてお話をうかがいました。

手術支援ロボットとして知られるダヴィンチは、現在、国内におよそ200台強が設置されています。もともとダヴィンチは戦場で兵士が負傷したときのため、遠隔操作を行ってベストな治療を提供することを目的にアメリカで開発されました。

手術ロボットといっても、ロボットが自ら手術をするというわけではありません。ダヴィンチはコンピューター制御された医療器機で、コンソールと呼ばれる装置の中に執刀医が入りコントローラーを動かし、遠隔操作しながら手術を行います。ロボットアームの先についた鉗子は術者の動きに連動して人間の手の関節のように動かすことができます。また、モーションスケール機能といって、術者の手の動きとダヴィンチの動きを一定の倍率で連動させる機能がついているため、より細かい動きが可能となるのです。

ダヴィンチの導入は欧米などと比べると日本では遅く、国内では腹腔鏡が先行して普及しました。腹腔鏡は非常に高度な技術を必要とします。可動域が狭く動きも制限されるため操作が難しく、習得するためにはダヴィンチの倍以上の症例数が必要となり、時間もかかるのです。

前立腺は体の奥にあり、直視下でも見えづらい場合があります。しかし、拡大された立体画像をみながら手術できるダヴィンチは、前立腺がん手術には非常に便利なツールとなり、日本で保険適応の承認がおりると、全国的に普及していったのです。ダヴィンチの普及によって、手術時間が短縮されたほか、出血量の減少や神経温存および膀胱尿道吻合など細かい作業を求められる前立腺がん手術の安全性や手術の精度を向上させました。

とはいっても、高価な器械ですので、どこの施設にでも設置しているというわけではありません。日本はアメリカに次ぐ世界第二位のロボット大国となりました。しかし、アメリカでは前立腺がんの9割をダヴィンチで行うのに対して、日本では前立腺がん手術の半数を超える程度しかダヴィンチで行っていないのが現状なのです。

前立腺がんは高齢者に多く発症する病気です。手術の適応となるのは75歳くらいまでを上限としています。ダヴィンチは、低侵襲で患者さんの体への負担は少ないとはいえ、手術によるリスクはゼロではありません。手術を行うことによるリスクと、行わない場合の利益とを考慮して治療を選択しなければなりません。

例えば、60歳であれば、日本人男性の平均寿命を80歳とすると、期待余命を考えても手術を行うメリットが高いと考えられます。しかし、75歳を超えた方の場合、前立腺がん以外で亡くなる確率も少なくないため、その場合は手術ではなく、ホルモン療法や放射線療法を行う方がより患者さんにとってよい選択であると考えるのです。

ただし、一概に75歳だからといって全ての患者さんで手術をしないというわけではありません。高齢でも身体機能が保たれている方については手術を行う場合もあるのです。実際、私自身も78歳の方の手術を行いました。

つい先日、腎がんの部分切除に対してダヴィンチが保険承認されたところです。腎がんを除いて、ダヴィンチが保険適応されている疾患は、いまのところ前立腺がん以外にありません。欧米では医師の裁量でさまざまな疾患に対してダヴィンチを活用した手術が行われています。体にやさしい低侵襲な手術を可能とするダヴィンチの普及に努めていきたいと思っています。

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