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前立腺がんの手術が検討される条件とは?〜手術内容や術後に現れる合併症〜

前立腺がんの手術が検討される条件とは?〜手術内容や術後に現れる合併症〜
志賀 淑之 先生

NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長、ロボット手術センター センター長

志賀 淑之 先生

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前立腺がんは、前立腺という精液の産生や射精に関わる男性特有の臓器にできるがんです。近年患者数は増加傾向にあり、2017年の男性におけるがんの罹患数は第1位とされています。前立腺がんの治療法には経過観察、手術、ホルモン療法、放射線治療などさまざまな選択肢があり、治療方針はステージ(病気の進行度合い)やがんの状態、患者の希望などによって検討されます。なかでも手術は前立腺と精のうを摘出することで根治が期待できるとされています。

そこで本記事は、前立腺がんの手術をテーマに、手術が検討される条件や手術内容について詳しく解説します。

前立腺がんで行われる手術は、基本的にがんが前立腺の中にとどまっているステージⅡ期に対して検討される治療法で、期待余命(これから先の余命の見通し)が10年以上の場合に推奨されます。

ただし、Ⅰ期がんが臨床的に明らかでない場合、あるいは前立腺に限局し片葉の1/2以内にとどまっている場合やⅢ期がんが前立腺の被膜を超えて広がっている場合や、精嚢腺(せいのうせん)に浸潤している場合でも必要に応じて手術を行うケースもあります。

前立腺がんの手術では主に前立腺全摘除術が行われます。これは前立腺と精のうを全摘出した後で膀胱と尿道をつなぐ方法です。

さらに、転移の確認が必要な場合やリンパ節転移の可能性が高い場合などの選択肢には、がん周辺にあるリンパ節を取り除くリンパ節郭清を併用することがあります。しかし、リンパ節郭清は閉鎖神経損傷による歩行障害のほか、内外腸骨動脈・静脈、尿管や腸管の損傷をきたすリスクがあり、手術時間も通常の1.5〜4倍かかることが想定されます。

前立腺がんの手術の術式には以下の3種類があります。

  • 開腹手術:全身麻酔と硬膜外麻酔(局所麻酔の一種)を行い、下腹部を切り開いて手術を行う方法。下腹部をまっすぐ切り開く場合と、術後の傷が目立たないように横に切開する方法がある。
  • 腹腔鏡手術:数か所の小さな穴から専用のカメラや器具を入れて手術を行う方法。外科医が直接鉗子(かんし)(手術用具の一種)を持って操作する。
  • ロボット手術:腹腔鏡手術同様に小さな穴を下腹部に数か所開けて行う方法。外科医は直接カメラや鉗子を持たずに、ロボットを操作してカメラや器具を持つ専用のロボットを遠隔操作して手術を行う。

腹腔鏡手術やロボット手術は開腹手術に比べて傷が小さく出血も少なくすむため、体への負担が少なく合併症からの回復も早いとされています。出血量は術者の経験や症例数などによっても異なりますが、開腹手術では300〜2,000mlほど出血する一方、ロボット手術では10〜100mlの出血ですむといわれています。

前立腺がんの手術後は、尿失禁(尿漏れ)や性機能障害といった合併症が現れることがあります。また、がんの進行程度や癒着程度によりごくまれに直腸損傷をきたすことがあります。

尿失禁とは、手術の際に尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)(尿の排出を調節する筋肉)が傷ついて尿道の締まりが悪くなり、尿が漏れることを指します。

多くの場合は、咳やくしゃみ、ジョギング、急な立ち上がりなどでおなかに力がかかったときに漏れる“腹圧性尿失禁”ですが、前立腺肥大症を伴うがんの治療後は過活動膀胱が生じているために、尿意を感じてからトイレへ行くまでに間に合わずに漏れてしまう“切迫性尿失禁”を併発する場合もあります。手術の際は、尿失禁を防ぐためにできる限り神経や尿道括約筋に配慮して手術が行われますが、これらを温存して完全に尿失禁を避けることは難しいとされています。

尿失禁は手術後数か月程度続きますが、半年ほどで生活に支障がない程度に回復することが一般的です。また、効果的なリハビリテーションとして骨盤底筋(尿道の周りの筋肉)を鍛える体操を行うこともあるほか、薬剤により過活動を抑えたり、膀胱容量を増やしたりして尿漏れを予防、軽減させることが可能です。

手術直後は通常勃起障害が起こります。回復は年齢、術前の勃起能、手術時に神経がどれだけ温存されたかなどによっても異なりますが、完全に戻ることは難しいとされています。

ただし手術で神経を温存した場合、術後に飲み薬による治療を行うことで勃起障害の改善が見込める場合があるほか、医療機関によっては神経移植を行って機能を回復することがあります。

比較的まれですが、がんが大きく広がっていると手術で取り除く際に直腸が傷ついてしまうことがあります。直腸が傷ついた場合手術中に修復が行われますが、術後一定期間は絶食が必要になる場合があるほか、一時的に人工肛門になる可能性があります。

前立腺がんの治療で手術が選択肢として挙げられるのは、ステージⅠ〜Ⅲ期の場合です。しかし、Ⅰ期であれば経過観察やフォーカルセラピー*、放射線治療などが選択されることもあります。また、Ⅱ期であれば放射線治療、Ⅲ期であれば放射線治療やホルモン療法の選択肢も存在します。そのため、生殖能力を残したい、通院治療がしたいなど、治療について希望がある場合はまず医師に相談するとよいでしょう。

ただし、ステージやがんの状態などによっては希望の治療法を選択できない場合もあります。たとえば、ステージⅢで経過観察やフォーカルセラピーを選択することはありません。また昨今では、動脈硬化生活習慣病から狭心症心筋梗塞脳梗塞など血栓症が問題となる患者さんが非常に増加している傾向にあり、予防治療として、血液をさらさらにする抗凝固療法を受ける患者さんが増加しています。このような場合に放射線治療を選択すると、出血性膀胱炎や出血性直腸炎などの合併症によって大量に出血をする恐れがあるため、放射線治療よりも手術療法のほうが合併症のリスクが小さいと判断されることがあります。

このように治療方針は患者さんによってそれぞれであるため、医師に相談しながらそれぞれの治療法の内容、メリット・デメリットについて理解し、納得して治療が受けられるようにするとよいでしょう。

*フォーカルセラピー:がんを治療しながら正常な組織をできる限り残す治療概念

前立腺がんの手術は前立腺と精のうを摘出することで根治が期待できる治療方法です。実際に手術が選択できるステージⅠ〜Ⅲ期の5年生存率(診断から5年後の生存率)は100%とされています。しかし、手術には合併症のデメリットがあり、特に生殖能力に大きな影響を与える可能性があります。そのため、手術者の経験や施設の症例数は非常に重要で、一般的には年間50例以上の執刀症例数が担保されている施設がよいとされています。

これらのメリットやデメリットを踏まえて納得のいく治療が受けられるよう、明点や不安なことがある場合は医師によく相談するとよいでしょう。

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