前立腺がんは自覚症状がほとんどないため、1980年あたりまで発見が遅れてしまうことが多く、見つかったときにはすでに進行していることもしばしばありました。しかし、1990年代に血液検査による前立腺のPSA(前立腺特異抗原)検査が確立されたことにより、早期発見が可能になってきました。
本記事ではPSA検査や、前立腺がん診断までの流れについて解説します。
PSAとは前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)のことです。PSAは精液内に分泌されているタンパク質の一種であり、その一部は血液にも流れています。前立腺がんのPSA検査は血液採取によって行われ、血液中のPSAの濃度によって前立腺がんの可能性が高いか低いか、あるいは治療の効果がきちんと現れているかどうかを測ることができます。PSA検査が確立してからは、より早期に前立腺がんを発見できるようになりました。治療効果と並行して数値が変動するため、再発・再燃時の診断の基準ともなります。
しかしPSAはがん特有の数値ではなく、炎症や前立腺肥大症の影響、あるいは自転車やバイクに乗るなどの刺激でも変動することがあります。さらにPSAの値がそう高くない場合でも前立腺がんに罹患するケースもあります。ですから、この数値を絶対とせず、1つの指標として取り扱うことが大切です。
PSA検査はその値が高くなればなるほど、前立腺がんの発見される確率も高くなります。その数値は健康な方の場合には2ng/ml程度といわれています。4〜10ng/ml未満がグレーゾーンといわれ25〜30%の確率で前立腺がんに罹患している可能性があり、10ng/ml以上が50〜80%、100ng/ml以上ではがんの進行や転移が大いに疑われるといわれています。
その一方、PSAの値が4ng/mlに満たない方でも、前立腺がんに罹患している方もいらっしゃいますので、PSA数値だけを鵜呑みにせず慎重に診断することが大切です。
PSA検査などで数値が高い場合や自覚症状があり前立腺がんが疑われた場合、まずは精密検査が行われます。前立腺がんの精密検査では下記のようなことが調べられます。
<前立腺がんの精密検査>
前立腺の触診は直腸診といって、医師が肛門に指を挿入して実際に前立腺の腫れ、硬さなどを確かめます。直腸診は患者さんにとってやや抵抗のある検査かもしれませんが、前立腺がん診断のうえで非常に大切な検査です。特に硬さの判別は非常に重要で、人の骨のように硬い場合には前立腺がん、少し弾力のある硬さの場合には前立腺肥大症と診断されます。
上記の精密検査でがんの疑いが高いと判断された場合に行われるのが前立腺針生検法と呼ばれる検査です。この検査は前立腺がんの確定診断をするために行われます。肛門から針生検の器具を挿入して前立腺の組織を採取し、その組織を顕微鏡で拡大して見ることによってがんの有無、悪性度、進行状態を把握します。
前立腺針生検によってがんが確定したら、臨床病期を診断するためにより詳しい検査を行います。まずはCT検査によって臓器・リンパ節への転移がないかどうかを調べます。次に転移の多い骨の状態を調べるために骨のシンチグラムを撮影し、総合的な状態を確認してからがんの病期分類を行います。
記事1『前立腺がんとは――男性ホルモンとの関係性』で述べたように前立腺がんの病態、進行度合いを測るためにはTNM分類という分類方法が用いられます。この分類は元来欧米で発展した分類方法で、特に大きさについての判断は医師の触診によって行われるため、腫瘍のサイズが小さかったり、分かりにくかったりすると正確に判断できないこともあります。
そのため日本では補助診断としてMRIを用いた検査も行います。この検査は当院の場合、前立腺針生検の前に行います。その理由は生検の際に組織を採取することで出血が起き、MRIの画像がうまく撮影できないことがあるからです。治療計画を立てるにあたって、TNM分類による診断とMRIによる診断は、それぞれ行われる意味合いが異なるということに留意しておかなければなりません。
前立腺がんは自覚症状がほとんどなく、たとえ排尿障害が見受けられたとしても自覚するまでに時間がかかることもあり、1980年代辺りまでそのほとんどが進行がんの状態で発見されていました。進行した前立腺がんでは、骨転移などによる骨痛、尿道に浸潤することによる血尿などが現れることがあり、そうした症状がきっかけで発覚することがほとんどでした。
そのため最初から泌尿器科を受診される患者さんは少なく、整形外科や内科など別の診療科から紹介されて泌尿器科を受診される患者さんがほとんどでした。
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