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前立腺がんとはー男性ホルモンとの関係性

前立腺がんとはー男性ホルモンとの関係性
上島 成也 先生

独立行政法人 国立病院機構 大阪南医療センター

上島 成也 先生

荻野 亮 先生

独立行政法人 国立病院機構 大阪南医療センター

荻野 亮 先生

目次
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前立腺がんとは、男性特有の臓器である前立腺に生じるがんのことです。初期症状が出にくく、早期発見が難しいことでも知られています。また前立腺がんの罹患者は近年増加しており、問題視されています。

今回は前立腺がんの原因、症状、転移、治療について国立病院機構大阪南医療センター中央診療科総括部長、緩和ケア推進室長の上島成也先生と、同じく国立病院機構大阪南医療センターの放射線治療科の荻野亮先生にお話を伺いました。

前立腺がんとは

男性特有のがん

前立腺がんとは、男性特有の臓器である前立腺にできる悪性腫瘍(がん)のことです。前立腺は膀胱の下、直腸の前に位置する臓器で、前立腺がんに罹患すると前立腺の細胞が無秩序な増殖を引き起こします。

前立腺とは

前立腺とは、主に精液の一部である前立腺液を分泌する役割を持つ臓器です。この部位に発症するがんを前立腺がんといいます。前立腺はもともと生態の維持に直接関与する機能を持っていない臓器であるため、前立腺がんの発見が遅れがちであるという特徴がありました。しかし近年ではより早期に治療を行うことで予後がよいことが示唆されてきており、早期発見することの重要性が言われています。

前立腺がん、なりやすい人の特徴は?

高齢の男性

65歳以上の高齢の男性に増加

前立腺がんは男性のがん罹患予測(2016年)で第一位となるなど、近年罹患率が急上昇しているがんといわれています。また、罹患する方は65歳以上の高齢の方が多く、それ以降は高齢になればなるほど罹患率が高くなることが特徴です。

国立がん研究センターがん情報サービス 2016年のがん統計予測より

前立腺がんの原因は?

前立腺がんの原因としては主に4つのことが考えられています。

<前立腺がんの原因となりうるもの>

  • 加齢
  • 遺伝
  • 食生活の欧米化
  • 男性ホルモン

これら4つのうち最も大きな原因となるのが、加齢です。加齢によって男性ホルモンへの被爆期間が長くなると、それだけ前立腺がんのリスクが上昇します。また遺伝で前立腺がんに罹患する方は割合としては少ないのですが一定数おり、40代など比較的若年の患者さんもいらっしゃることが特徴です。

また近年の前立腺がんの罹患率の増加には食生活の欧米化が大きく関わっているとみられています。

男性ホルモンと前立腺がんの関係性

前立腺

それでは次に男性ホルモンと前立腺がんの関係についてご説明します。男性ホルモンは精巣・副腎から作られ、血中に放出されます。血中に放出された男性ホルモンは還元酵素によって分解され、ジヒドロテストステロン(DHT)という男性ホルモンに分解されます。

ジヒドロテストステロンは、母親の胎内で赤ちゃんが成長する際の男性器発達などにおいて重要な役割を果たすホルモンです。しかしその一方で薄毛や体毛の増加、前立腺肥大の原因となってしまうものでもあります。

そしてジヒドロテストステロンは前立腺がんの発症にも深く関わっていると考えられています。ジヒドロテストステロンが前立腺のアンドロゲン受容体と結合することによって、遺伝子の発現調整を行うタンパク質の活性化を引き起こし、それがDNAの転写の調整などに影響をおよぼすことによってがん化が起こっているのではないかと考えられています。

実際に古代中国より広まった去勢された男性官吏「宦官」では、去勢により男性ホルモンの分泌がないため、前立腺がんに罹患しなかったともいわれていますので、男性ホルモンと前立腺がんには大きな関連があることは確かでしょう。

前立腺がんの症状

初期症状はなく、進行すると症状があらわれる

前立腺がんには特有の症状がありません。そのため自覚症状がなく、ほとんどの場合は気づかないうちにがんが進行しています。しかし、すこし進行してくると尿が出にくい、排尿の頻度が増えるなどの排尿障害が生じることもあります。

また、局所でがんが浸潤してくると膀胱や尿道に浸潤し、血尿や残尿感に結びつくことがあります。

前立腺がんと似た症状をもたらす「前立腺肥大症」

どちらも排尿障害をもたらす

前立腺がんと類似した症状があらわれるものとして、前立腺肥大症という疾患があります。前立腺がんと症状が似ているために前立腺肥大症との鑑別が非常に重要です。どちらも前立腺が腫れることによって排尿障害をもたらしますが、厳密には腫れる部位が異なるため、自覚症状があらわれるまでの時間に差が出ます。

まず前立腺がんは前立腺の外腺部分に腫瘍ができるため、直接尿道を刺激するまでに少し時間がかかります。その一方で前立腺肥大症は前立腺の尿道付近である内腺部分が腫れてくるため、比較的早期に排尿障害を自覚することができます。

前立腺がん

前立腺がんと前立腺肥大症の鑑別には、泌尿器科専門医による触診やPSAの検査が非常に大切です。症状だけで安易に前立腺肥大症と決めつけてしまうと、前立腺がんが見落とされてしまうこともあります。

PSAについては記事2『図で解説 前立腺がんの検査とPSA−検査の流れと方法』でも述べておりますので、ご覧ください。

前立腺がんの転移について

骨、肺、肝臓に転移する可能性もある

がんの転移にはリンパにがん細胞が流れたうえでのリンパ節転移と、血液にがん細胞が流れた場合の血行性転移があります。前立腺がんではリンパ節転移と血行性転移のどちらも起こる可能性があります。

特に血行性転移に関して、前立腺がんは骨に転移をしやすいといわれており、転移した場合90%は骨であるともいわれています。これは骨盤と脊椎の間にある静脈には弁がなく、前立腺からくる血流が脊椎、骨にもそのまま行き渡ってしまうからだと考えられています。

また、更に進行してくると肺や肝臓に転移してしまうこともあります。

転移を起こすと痛みが生じることも

前立腺がんそのものにはほとんど痛みがない

前述の通り、前立腺がんそのものにはほとんどの場合、排尿障害以外の自覚症状がありません。ごくまれにがんが前立腺炎を引き起こし、排尿に痛みが伴うケースもありますが、基本的には痛みがなく、静かに進行するケースが多いといえます。しかし転移を起こすと転移が生じた部位から痛みが感じられることもあります。

転移によって起こる痛みとしては、主に下記のようなものが挙げられます。

<転移によって起こる痛み>

  • 水腎症による腰痛
  • 骨の転移による体性痛
  • 骨の転移が脊椎を圧迫することによる神経障害性疼痛
  • 転移によってリンパ腺が腫れることによる内臓痛

水腎症……尿路が阻害されることにより腎盂に尿がたまり、腎機能が阻害されること

前立腺がんの治療を定めるTNM分類

前立腺がんの治療方針は一般的な他の臓器のがん同様、臨床病期診断にて決められます。がんの病期を判断する分類として用いられるのがTNM分類です。

TNM分類とは?

TNM分類とは、がんの病期を把握するために用いられる分類の基準です。TNM分類では3つの観点からがんの病態を把握します。

<TNM分類>

  • T(tumor)=腫瘍の大きさ、浸潤の有無
  • N(nodes)=リンパ節転移があるか
  • M(metastasis)=離れた部位に転移があるか

前立腺がんではこれら3つの観点からがんを病態分類し、治療計画に役立てています。

前立腺がん

前立腺がんの治療方法

上島先生

医師は上記のTNM分類などをもとに前立腺がんの治療計画を立てます。前立腺がんには大きく分けて3つの治療方法があります。

<前立腺がんの治療方法>

  • 手術治療
  • 放射線治療
  • ホルモン治療

これら3つは前立腺がんの進行の度合いによって治療方針がガイドライン上定められています。基本的にはがんが比較的早期であり、他の臓器などに転移がなければ手術治療、放射線治療のいずれかを選択することが可能です。しかし進行が見受けられ、他の臓器への転移などが生じている場合や、年齢、身体的な問題で手術など侵襲の大きい治療が受けられない場合にはホルモン療法が行われます。

前立腺がん、手術治療・放射線治療の選択

手術治療と放射線治療は、それぞれ適応となる臨床病期が異なります。これらをTNM分類で示すと下記のようになります。

<TNM分類で示す手術治療・放射線治療の適応>

  • 手術治療の場合:T1b〜T2 (限局がん)
  • 放射線治療の場合:T1b〜T3 (限局がん〜局所浸潤がん)

がんが骨盤内にとどまっている状態であれば、手術治療も放射線治療も適応となり、患者さんの希望によって選択することも可能です。手術治療と放射線治療はそれぞれにメリット、デメリットがあり、施設ごとにも治療方針が異なるため、費用や治療にかかる期間、副作用を加味してその患者さんにもっともよい治療を選択することが大切です。

前立腺にとどまっている局所のがんは遠隔転移のリスクを3~5段階の評価で示し、治療方針を定めます。ここではリスクを3段階に分けてご説明いたします。大抵、リスクが低ければ手術治療、放射線治療のいずれかを行う形となりますが、リスクが高くなればなるほど手術、放射線治療に加えホルモン療法なども行うことが標準的です。

転移のリスクが低い場合

転移のリスクが低い場合には最も病態が穏やかであるため、手術治療でも放射線治療でも同等の治療成績が期待できるといわれています。そのため、温存したい機能、費用、治療にかかる期間、副作用などを踏まえ、患者さんに合った治療を選ぶことができます。

転移のリスクが中等度の場合

遠隔転移がないものの、がんが前立腺の被膜に浸潤している場合には、転移のリスクが中等度とみなされます。中等度の患者さんの場合には、浸潤の度合いによって手術治療、放射線治療が選択できる場合と、放射線治療のみが適用になる場合があります。

転移のリスクが高い場合

転移のリスクが高く、精液を貯める役割を持つ精嚢にまで病変が広がってしまっている場合などには、手術治療で取りきることが難しく、放射線治療が選択されることが増えてきます。しかし、リスクが高い場合には手術治療と放射線治療が複合的に行われるケースもあります。

転移のリスクに加え、患者さんの年齢・体力を考慮

上記の適応に加え手術治療は患者さんの年齢・体力を考慮して選択されます。一般的には70〜75歳あたりをボーダーラインとし、それ以上の患者さんに対しては放射線治療・ホルモン療法を検討します。しかし、80歳を超える患者さんでも体力があり、身体的な負担を考慮したうえで手術を行えると判断できる場合には、手術治療を行うこともあります。

手術治療については記事3『前立腺がんの手術治療−手術の種類とメリット・デメリットとは?』にて、放射線治療については記事4『前立腺がんの放射線治療−種類や注意すべき副作用は?』で詳しく説明しておりますので、続けてご覧ください。

ホルモン療法ー前立腺がんの全身療法

上記の手術治療、放射線治療の適応に該当する患者さんも、そうでない患者さんもがんの進行を抑制する目的でホルモン治療を行うことがあります。ホルモン治療は全身治療となり、注射か内服薬によってがんの発生・進行に影響を及ぼしている男性ホルモンの分泌を抑制することで化学的去勢を図り、がんの縮小を試みます。

また、手術治療、放射線治療が行えるかどうかの判断が難しい患者さんに対しては、術前にホルモン治療を行うこともあります。

抗がん剤による治療について

前立腺がんは基本的には抗がん剤による治療が行われません。しかし、転移性の前立腺がんに対し、ホルモン療法が効かなくなってくる状態を「去勢抵抗性前立腺がん」といい、これに該当する患者さんには抗がん剤が適応となります。

放射性医薬品にも注目

荻野先生

また近年、放射性同位元素「ラジオアイソトープ(RI)」を含有する薬を注射で投与し、そのRIから放出される放射線によって治療を行うRI内用療法にも注目が集まっています。

前立腺がんに用いられる可能性のある薬剤は現在日本ではストロンチウム-89とラジウム-223の2種類で、いずれも化学的にカルシウムと似た性質を有することから骨転移の治療に用いられます。特にゾーフィゴは放射線治療用途にα(アルファ)線を使用した初めての製剤で、α線の強い殺細胞効果と短い飛程を利用して治療強度が強くかつ副作用の少ない骨転移の治療が期待されています。

この治療の対象となるのは骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(通常のホルモン療法が効きにくくなった前立腺がん)の患者さんで、4週間ごとに6回の注射を外来で受けていただく治療になります。ストロンチウム-89に関しては前立腺がんに限らず有痛性の骨転移を有する患者さんに幅広く用いられており、注射をすることで骨転移が原因と考えられる疼痛の緩和が期待されます。こちらも外来での投与が基本であり、3か月以上の期間を空ければ複数回の投与が可能です。