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前立腺がんの放射線治療――種類や注意すべき副作用は?

前立腺がんの放射線治療――種類や注意すべき副作用は?
メディカルノート編集部 [医師監修]

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目次
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前立腺がんには記事3『前立腺がんの手術治療−手術の種類とメリット・デメリット』で解説した手術治療と同等の治療効果を持つ治療として放射線治療が用いられます。放射線治療は手術治療と比較すると少ない侵襲(体への負担)で治療を行うことができるため、患者さんの容体が悪くても治療が可能な場合もあり、ご希望に合わせて治療方針を選択することができます。

本記事では前立腺がんの放射線治療の概要、メリット・デメリット、副作用について解説します。

前立腺がんは放射線治療が極めて有効ながんとして知られています。放射線治療とは、病巣に放射線を照射することで細胞分裂に必要な遺伝子情報を傷付けることにより、がん細胞の増殖を抑えがん細胞を死滅させる治療方法です。

前立腺がんにおける放射線治療にはさまざまな手段があり、患者さんが治療を選ぶ際にも多くの選択肢があります。放射線治療の方法は、まず腫瘍(しゅよう)に対して放射線をどこから照射するかで二分化されます。

<放射線の照射方法>

  • 体外照射
  • 組織内照射

体外照射とは放射線を体の外側から腫瘍に向けて照射するもっとも一般的な照射方法です。体外照射は用いられる放射線の種類によってさらに細分化することができます。

<放射線の種類>

  • X腺
  • γ(ガンマ)腺
  • 電子線
  • 陽子線
  • 重粒子線 など

前立腺がんに対する体外照射でもっとも一般的に使用されるのはX線です。陽子線や重粒子線を用いた放射線治療も一部の施設で実施されています。

最近の体外照射の技術革新には目覚ましいものがあります。放射線はがん以外の正常な組織に当たると、その組織に副作用などの悪影響を及ぼす危険性があるため、放射線治療分野ではいかに正常組織への照射を避け、腫瘍に高い線量を与えるかが非常に重要です。従来の放射線治療装置では、腫瘍と隣接する正常臓器への線量を急激に低減することは技術的に困難でしたが、コンピュータによる複雑な計算を経て多数の方向から照射されるX線の強度を細かく調整し、急激な線量勾配を実現するIMRT(強度変調放射線治療)やVMAT(回転型IMRT)による照射が可能な施設も一般的になりつつあります。また、体外照射においては理想的な線量分布の実現とともに、いかにずれなく正確な場所に放射線を照射するかが重要ですが、近年の放射線治療装置のほとんどにはIGRT(image guided radiotherapy)と呼ばれる、より高精度な照射を実現する機能が搭載されています。IGRTとは体外照射時の位置精度をさまざまな画像技術を用いて担保する照射の総称で、患者さんが治療台の上で照射時の体位を保持している状態でX線やCTを撮影することで毎回の照射時の細かな位置の修正を行ったり、治療開始前にあらかじめ体内に埋め込んだ金属マーカーを目印に毎回の照射を実施したりすることによって、より高精度な体外照射を実施することが可能です。

前立腺がんの放射線治療は前立腺に線源を埋め込んで行う“組織内照射”によって治療されることもあります。組織内照射は入院による治療が必要となりますが、体外照射と比較して周辺の臓器に対する影響が少ないことが魅力といわれています。組織内照射には大きく分けて2つの手段があります。

<組織内照射の種類>

  • LDR(低線量率組織内照射療法)
  • HDR(高線量率組織照射療法)

LDRは小線源治療の埋込型の装置を前立腺内に永久的に50〜100個程度埋めることによる治療方法です。埋め込む際には全身麻酔もしくは腰椎麻酔(ようついますい)を使用しますが、2〜3日の入院で治療できるケースが多いです。一方で、HDRは先端に線源のついた針を前立腺に刺し、治療期間を限定して集中的に照射する方法で、治療終了後は抜針します。HDRの場合には治療後に体外照射も併せて行うことがしばしばあります。LDRの場合も一部の施設では線源刺入後に体外照射を追加し、より治療強度を上げる試みがなされています。

放射線治療
写真:PIXTA

放射線治療の一番のメリットはなんといっても手術と比較して侵襲が少なく、術後の回復が早いことです。組織内照射の場合は麻酔が必要となり一時的な痛みが生じますが、体外照射の場合には副作用を除いて、無痛で治療することができます。また、侵襲が少ないためご高齢の患者さんにも体力的な負担を軽減した治療ができるところがメリットであるといえます。

一方で放射線治療のデメリットは、治療に要する期間が手術よりも長期にわたる可能性が高いことです。一般的に前立腺がんにおける放射線治療はIMRTを用いた体外照射の場合でも3か月ほどかかります。この3か月の間、基本的には土日祝日を除いて毎日照射を行うことになります。

近年、治療期間をより短くするために、低リスク、中等度リスクの前立腺がん患者さんに対しては“定位放射線治療”を行うことがあります。定位放射線治療は1回に照射される放射線の線量を高くし、照射の回数を少なくすることができます。しかし、1回に照射される線量が高くなればなるほど、他臓器に与える影響や副作用の危険性が高くなる恐れもあるため、より注意が必要です。標準的な照射回数は定まっていませんが、従来の体外照射と比較して1週間~数週間での治療完了が可能です。

初めて罹患した前立腺がんに対して放射線治療を行った場合、万一再発してしまった際の治療方法が限られてくる可能性があります。放射線治療後の再発では、過去の照射によって前立腺と周囲の臓器同士が癒着している可能性が高く、手術による前立腺の摘出が困難となります。最近では前立腺がんに対する体外照射後の局所再発に対して小線源治療を実施したり、再度の体外照射を実施したりするケースもありますが、まだまだ一般的ではありません。

放射線治療の副作用を考える際、下記の2つに大きく分けて考えなければなりません。

<放射線治療の副作用>

  • 治療中に起きる急性期の有害事象
  • 治療後に起きる可能性がある晩期*の有害事象

*晩期とは……放射線治療終了後、数か月~半年以上経過すると晩期の扱いとなります

ここでは、もっとも一般的な照射方法である体外照射におけるそれぞれの副作用について解説します。

まず前立腺がんに限らず放射線の治療中には、食欲の低下、倦怠感などの全身症状といえる副作用があります。さらにこのほかの副作用は、放射線が当たっている部位に現れるものとなります。

前立腺がんの放射線治療を体外照射で行う場合、その進行程度や腫瘍の悪性度によって照射される範囲が異なってきます。がんが前立腺局所にとどまっており病理学的に比較的悪性度の低い場合、前立腺のみへの照射(場合によっては精嚢も)で十分です。しかし、がんが前立腺の被膜を超えて広がっている可能性や、骨盤内のリンパ節へ転移している可能性がある場合、また病理学的な悪性度が高い場合は、前立腺に加えて骨盤内のリンパ節領域へも照射が必要となるケースも出てきます。前立腺局所のみへの照射であれば、予想される副作用としては膀胱に照射されることによる頻尿や前立腺や尿道に照射されることによる排尿症状(勢いが弱まったり、排尿に困難を感じる)、直腸に照射されることによる排便時の痛みや頻便などが一般的な急性期の副作用です。骨盤内への照射の際はこれに加えて小腸に照射されることによる下痢が生じる可能性が高くなります。

いずれの副作用も大抵治療終了後1か月以内に症状が落ち着いてきます。これらの副作用のうちもっとも起こる割合が高いものは頻尿であり、その割合は照射された患者さんの80〜90%ともいわれています。

放射線治療による晩期の有害事象は、治療から数年後に発症することが多く、前立腺がんの場合には下記のような症状が現れることがあります。

<前立腺がんの放射線治療、晩期の有害事象>

  • 直腸からの出血
  • 膀胱からの出血 など

晩期の有害事象は発生する確率が低く、もっとも多いものでも直腸からの出血で全体の10%前後です。医師は晩期の有害事象を減らすために正常な組織への照射を極力避け、可能な限り理想的な線量分布が実現できるよう照射していきます。

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医療法人インテグレス 新橋消化器内科・泌尿器科クリニック 理事長

いせろ てつや

胃・大腸カメラを“眠ったまま”で、消化器と泌尿器の症状を幅広く診療

新橋消化器内科・泌尿器科クリニック(東京都港区新橋1丁目11-5 コルティーレ銀座ビル 7F 8F:JR・東京メトロ・都営線・ゆりかもめ「新橋」駅 徒歩1分)の病院ページ。

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日本大学医学部 泌尿器科学系 泌尿器科学分野 主任教授、日本大学医学部附属板橋病院 病院長

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