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前立腺がんにおける重粒子線治療、適応されるケースや特徴は?

前立腺がんにおける重粒子線治療、適応されるケースや特徴は?
加藤 弘之 先生

神奈川県立がんセンター 重粒子線治療科 部長

加藤 弘之 先生

目次
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前立腺がんの治療にはさまざまな選択肢があることを、記事2『前立腺がんの治療の選択肢―手術、放射線、ホルモン療法、監視療法』で岸田健先生にご解説いただきました。神奈川県立がんセンターは、2018年4月より前立腺がんの治療に保険適用となった重粒子線治療にも、積極的に取り組んでいます。重粒子線治療とはどのような治療法なのでしょうか。神奈川県立がんセンター放射線治療科部長の加藤弘之先生にお話しいただきました。

がんに対する放射線治療の種類

重粒子線治療の仕組みをお話しする前に、まずは放射線治療の種類について簡単にご説明します。

外部照射の種類
外部照射の種類

放射線治療は、体の外から放射線を照射する「外部照射」と、放射性同位元素(アイソトープ:RI)を病変部に出し入れしたり、放射性同位元素を含む薬剤を服用したり注射したりして、体の中から照射する「内部照射」に大きく分類されます。一般的に「放射線治療」というと、外部照射のことを指すことが多いです。

外部照射には、X線やガンマ線を用いる光子線治療と、重粒子線や陽子線などを用いる粒子線治療があります。一方、内部照射には、密封小線源療法とRI内用療法があります。密封小線源療法とは、放射性同位元素が密封された金属製のカプセルを直接病巣の中に入れ、病巣組織の内側から放射線を照射する治療法です。この金属製のカプセルは一時的な挿入になることが多いですが、入れたままになる永久挿入療法もあります。RI内用療法は、がん病巣に集まる性質のある薬剤に放射性同位元素を組み込み、注射か経口で体内に取り込み、がん病巣を直接破壊する治療法です。

粒子線(重粒子線)と光子線(X線)の特徴・違いは?

外部照射には、光子線を用いる方法と粒子線を用いる方法があります。それでは、光子線と粒子線にはどのような違いがあるでしょうか。

光子線は、体内を通過する性質を持つ高エネルギーの電磁波です。代表的なものに、X線やガンマ線があります。これに対して粒子線治療では、原子核を構成する陽子や中性子、またその集合体である原子核を加速した粒子線を用います。粒子線は体内のある一定の深さで止まる性質を持っています。重粒子線治療は、粒子線治療のなかでも比較的重い粒子を使った治療のことをいいます。現在、粒子線治療は、陽子を使う陽子治療と、炭素の原子核(炭素イオン)を用いる炭素イオン線治療の2つが主に行われており、重粒子線治療というと、通常は、この炭素イオン線治療を意味します。

X線と重粒子線の比較
X線と重粒子線の比較

X線による放射線治療の特徴

通常の放射線治療で多く用いられるX線は、病巣、さらには体の反対側まで突き抜けます。また、そのX線の作用は、入射側が強く、体内に深くなるに従って弱まる傾向があります。

このため、病巣のみにX線の作用を集中させることが容易ではありません。

ただし、近年のテクノロジーの発展と共にさまざまな工夫が生み出され、病巣のみに、放射線治療の効果をより集中させる方法が行われるようになっています(IMRTや定位放射線治療など)。

重粒子線治療の特徴

重粒子線治療の最大の特徴は、線量集中性(放射線でダメージを与える部分を特定箇所に集める性質)に優れていることです。

重粒子線治療では、炭素イオンを光の速さの約70%まで加速した炭素イオン線を、病巣の位置や形状に合わせて照射します。炭素イオン線は狙った深さ以上に突き抜けないため、病巣の奥側の正常組織への影響を少なくすることができます。

体の深部にある正常な組織に囲まれた病巣に対しても、重粒子線治療であれば、病巣に対して効果的に照射できます。

重粒子線治療に適したがんの特徴とは

狙った病巣に集中的にエネルギーを与えられる重粒子線治療は、病巣が1か所に限局していることが明らかで、病巣の場所がはっきりと特定できる固形のがんに適しています。広い範囲に浸潤していることが疑われるがんや、他の臓器に転移がみられるがんは、治療部位を特定することが困難です。また、白血病など血流にのって広範囲に存在する血液のがんは、治療する範囲を限定することができず、重粒子線治療に適しているとはいえません。

2018年4月より、前立腺がんにおける重粒子線治療が保険適用となりました(2019年3月現在は、このほかに骨軟部腫瘍と一部の頭頸部がんが保険適用になっています)。当センターでは、前立腺がんの患者さんに対しても、重粒子線治療を積極的に行っており、現在、当施設で行われる重粒子線治療症例の半数以上は前立腺がんです。

神奈川県立がんセンターにおける前立腺がんとそのほかのがんの治療数の推移
神奈川県立がんセンターにおける前立腺がんとそのほかのがんの治療数の推移

前立腺がんにおいて重粒子線治療がよい適応と判断されるケース

重粒子線治療の対象となる方は、全身状態が良好で、がんが他臓器に転移していない状態の方です。前立腺がんに対する重粒子線治療を行う場合、手術で前立腺を摘出する必要はありません。また、治療自体に痛みなどはなく、外来通院での治療になります。年齢制限はなく、全身状態が良好であれば、ご高齢の患者さんにも受けていただけます。

※精度が重要となる治療のため、一定時間、一定量尿を貯めた状態を保ちつつ、専用装置に寝た状態で安静にしていただける方が対象になります。

前立腺がんにおける重粒子線治療のメリット・デメリット

メリット:体に負担をかけず根治を目指せる

重粒子線治療は、手術と同じく前立腺がんの根治を目標とする治療法です。従来の放射線治療に比べて照射回数が少なく、手術や放射線治療よりも体に負担をかけずに前立腺がんを治せる可能性があります。このため、合併症などの問題で手術が難しい患者さんにも実施できる治療法です。従来の治療法と比較して、特に高リスク群の前立腺がんに対する治療効果が期待されています。

デメリット:放射線治療と同様の副作用が起こることがある

X線などによる放射線治療と比べて副作用が起こる確率は低いものの、重粒子線治療でも、排尿困難感、頻尿などの排尿障害、または血便などの直腸の障害などが起こることがあります。さらに、化学療法やX線による放射線治療と同様、重粒子線治療においても2次がん*をきたす可能性は否定できません。そのため、50~60歳代と若く、高齢の患者さんに比べて治療後の余命が長い患者さんの場合は、2次がん発症のリスクを回避するためにも、まずは手術をおすすめしています。

2次がん:がんの治癒後、そのがんに対する治療が原因で再び別のがんを発症すること

前立腺がんの診断から重粒子線治療までの流れ

基本的には手術と同様に、しっかりと検査を行って、がんのステージや悪性度などの診断をつけることが大事です(前立腺がんの検査については記事1『前立腺がんの検査で重要なPSAや生検の流れと結果のポイント』を参照ください)。

前立腺がんに対する放射線治療が行われる際には、多くの症例でホルモン療法が併用されます。通常、ホルモン療法は放射線治療前の一定期間(4か月程度)と放射線治療中に行われ、高リスク群の前立腺がんの場合には、治療後にも一定期間(1年以上)ホルモン療法を継続します。

当センターで重粒子線治療を開始するには、まず、治療中、体を動かないようにする固定具を作成します。その後に、重粒子線治療の治療計画を行うための治療計画CTを施行し、さらに骨盤MRIなどの検査を行います。検査を終えたら、2週間ほどかけてスタッフによる治療計画と、その治療計画の検証などが行われ、実際に治療が開始されます。

通常の場合、重粒子線治療は1日1回ずつ行い、1週間に4回、合計12回実施されます。約3週間の治療となります。1回の照射時間は長くて5分程度、照射位置の確認時間を含めると15分程度になります*。さらに、前立腺の位置精度を向上させるために、各治療前には、排便、排ガス、排尿を行ったうえで、1時間程度の蓄尿を行う必要があります。

患者さんの容体や病気の状態によって治療期間は異なる場合があります。

重粒子線治療が終了した後の診療について

治療後は、基本的には紹介元の泌尿器科で定期的にPSA検査を行っていただき、がんの再発がないか確認していただきます。当センターでは、副作用、再発の状況などを確認させていただくために、3か月に1度ぐらいの頻度で患者さんの状況をお伺いさせていただきます。副作用が落ち着き、安定的状態となるまでの約1年間は、当センターへの通院診療を行い、そののちは、郵送で問診票とPSA検査結果を送付いただき、状況確認をしていく予定です。

重粒子線治療後に日常生活で注意することは?

重粒子線治療後、最低3か月間(治療開始後4か月間)は、飲酒は厳禁です。アルコールの作用による尿閉が危惧され、それに対する処置によって永久的な副作用を誘発する恐れがあります。また、自転車・バイクなど、サドルにまたがる運動も、前立腺部の尿道に物理的な刺激を与え、尿道の有害事象を悪化させるため、治療後は禁止しております。近年、喫煙も、放射線治療によるがん治療の効果を低減させ、副作用を増強することが判明しております。がん治療の一環として、禁煙を行っていただく必要もあるとお考えください。

前立腺がんの患者さんへのメッセージ

前立腺がんは、心筋梗塞や脳卒中のように一刻を争う病気ではなく、どの治療法を選ぶかじっくりと考えてから治療を開始しても、手遅れになることはほとんどありません。また、しっかり治療を行えば、治る可能性の高い病気です。ですから、患者さん自身が、それぞれの治療のメリットとデメリットをよく理解されたうえで、自分の納得できる治療を選択してほしいと考えます。