ふくあつせいにょうしっきん

腹圧性尿失禁

最終更新日:
2021年05月20日
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2021/05/20
更新しました
2017/04/25
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概要

膀胱はお腹の下、骨盤の中にある臓器です。腹圧がかかると膀胱が圧迫されますが、“骨盤底筋群”と呼ばれる筋肉が骨盤の底部で膀胱と尿道を支え、尿道を締めることで尿漏れ(失禁)を防いでいます。腹圧性尿失禁は、この骨盤底筋群が緩んだり傷んだりして膀胱の出口が下りやすくなったり、日頃から腹圧をかけて排尿することを繰り返しているうちに膀胱の出口が開きやすくなったりすることで起こります。腹圧性尿失禁になると、くしゃみや咳をした時、走ったり跳んだりした時、重いものを持った時などに尿が漏れやすくなります。

60歳代までの女性の尿失禁の中でもっとも多いのが腹圧性尿失禁です。特に出産後や閉経前後の時期に症状が悪化することが多く、50〜60歳代の女性の約11%が週1回以上、約5%が毎日1回以上の腹圧性尿失禁を保有しています。腹圧のかかるときに尿が漏れやすくなる機転には多くのものがあり、妊娠中や子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)などで増大した子宮による膀胱圧迫、出産による骨盤底筋や骨盤底の線維組織の弱体化、周産期管理に用いられる硬膜外麻酔、閉経に伴うエストロゲン欠乏、加齢などに伴う膀胱・尿道の機能低下、呼吸器疾患や便秘に関連した骨盤底筋や骨盤底の線維組織への過剰な負荷、歪んだ排尿習慣(頻尿や腹圧をかけての排出)などが関与しています。

出産後の骨盤底筋トレーニング(骨盤底筋群を鍛える体操)は妊娠出産によってたわんだ骨盤底筋の力を取り戻し尿もれを軽減する効果があるため、出産後半年ほどまでは骨盤底筋トレーニングが推奨されます。呼吸器疾患や便秘、肥満などを治療すると尿漏れが減る人は珍しくありません。排尿習慣など生活指導が効果的なこともあります。そのほかの治療法のうち、もっとも尿もれを解消する効果があるのは中部尿道スリング手術などの尿失禁手術です。薬物療法はもともと手術治療に匹敵する治療効果がなく、ここ何年にわたり新しい研究が行われていませんが、簡便なため現在も広く行われています。

原因

出産を経験していない若い女性や女児の場合、排尿するときには尿道がゆるみ膀胱が収縮するという排尿反射の仕組みが機能しますが、強い腹圧がかかるときには排尿時とは異なり骨盤底筋をすぼめる力も加わるため、尿道は弛緩せず膀胱の収縮は抑制されます*。加わる腹圧は、たとえ大きくとも膀胱と尿道に対して同等の圧力を及ぼすため尿は流出しません。

分娩直後に多くの女性で膀胱は麻痺していて尿意や収縮力を失っていますが、それでも骨盤底の弱まった状態であれば、腹圧をかけて膀胱出口を開き腹圧で尿を排出することができます。時間が経つと、膀胱麻痺は解消し尿道弛緩と膀胱収縮による排尿に戻っていきますが、一部の女性では骨盤底の支持力が不足したり膀胱麻痺がなかなかよくならなかったりして、腹圧で排尿する習慣が続きます。こうして長く腹圧による排尿を繰り返していると腹圧排尿の仕組みが強化されていき、やがては腹圧をかけると尿が漏れるようになります。これが腹圧性尿失禁です。

出産に関連して、子宮口が開いてから長い時間がかかった分娩(分娩第2期の遷延)や、鉗子(かんし)や吸引による分娩など骨盤底や膀胱・尿道に負担の大きい出産では、腹圧性尿失禁のリスクが高まります。硬膜外麻酔の併用について、直接の影響は明らかになっていませんが、結果的に鉗子や吸引が必要になる見込みが高くなることなどにより、腹圧性尿失禁のリスクが高まるとみられます。出産回数につれて腹圧性尿失禁の保有者が増えることが示されています。出産年齢の影響についてはクリアな統計結果は示されていませんが、高年初産では分娩第2期の遷延や鉗子や吸引による分娩が増えるため一定の影響があるとみられます。

閉経前後には膀胱収縮力が弱くなり排尿するとき腹圧をかけるくせがつきやすくなります。また、子宮筋腫で子宮がひどく大きくなると、子宮を膀胱に押しつけて腹圧で尿を排出をする傾向になります。このように、腹圧性尿失禁は膀胱・尿道が排尿反射によって尿を排出する能力の低下と骨盤底筋群や周辺の線維組織の弱体化、腹圧による尿排出の強化を背景として、腹圧による排尿の強化されることで成立します。腹圧性尿失禁は、女性の体に備わっている腹圧排尿の潜在能力が暴走した状態です。

*骨盤底筋をすぼめる動作は、排尿を我慢しようとして行う動作に相当します。この動作は排尿中枢を介する反射によって膀胱の収縮を抑制します。

症状

腹圧性尿失禁では、お腹に強い力が入ったり体を強く揺さぶったりしたときに尿が漏れます。尿漏れを誘発する動作の実例として、縄跳びや跳躍、咳やくしゃみ、走る、階段を駆け降りる、重いものを持ち上げる、歩くなどがあります(漏れを誘発する力が強い順に配置)。腹圧性尿失禁には再現性があり、ある程度尿がたまっている状態で、どのレベルの動作をすると尿漏れするかという明確な(しきい)があります。

高度な腹圧性尿失禁では、ベッドからおりる、椅子から立ち上がるなど弱い力でも都度尿が漏れるようになります。高度の腹圧性尿失禁では、意図的に膀胱の出口を骨盤底筋でサポートしているとき以外は尿が流出するようになるためです。

年齢層にもよりますが、長く続いた腹圧性尿失禁の多くは腟内への尿の流出による腟の劣化を伴うようになり、いずれは過活動膀胱を併発し混合性尿失禁に姿を変えます。この状態では腹圧がかかるときに尿が漏れるだけでなく尿意切迫や頻尿も加わるため、生活の質は著しく低下します。

検査・診断

腹圧性尿失禁の問診評価は、どの程度のインパクトで漏れるかという閾の判定と、実際にその女性の生活の中でどのくらいの量の尿漏れがあるか、生活の質への影響はどの程度あるかということです。妊娠・出産歴、手術歴、便秘の有無なども参考のために聞き取っておきます。

問診に加えて婦人科の診察と超音波検査を行えば、ほぼ診断は確定します。

多くの施設が、腹圧性尿失禁の評価に排尿日誌を使用しています。排尿日誌は、24時間もしくは48時間と時間を区切って、排尿した時刻と尿の排出量などを記録するもので、膀胱にためられる量や飲水の習慣など多くの情報が得られます。夜間3回以上トイレに起きているなど、腹圧性尿失禁以外に重要な問題がみつかることもあります。

パッドテストも、現にまとまった尿漏れを日々経験しているのであれば行いたい検査です。パッドテストには、24時間、48時間など実生活の一定の時間内に何gの尿漏れがあるのかをみるものと、受診時に一定量の水分を摂取させ所定の運動を負荷して尿漏れを計るものがあります。いずれも、あてていたパッドの重さを計って尿漏れを数量化します。

ただし、パッドテストでほとんど漏れていなかった場合でも、それだけで治療の不要な状態とみなすことはできません。漏れないのは本人が日常動作に制限を加えているためで、その制限こそが生活の質の低下する原因であるというケースがよくあります。

慢性的な膀胱炎の問題がないかどうか、尿検査は必須です。手術治療を検討する場合、尿流波形検査と残尿の評価を行い、尿の排出に遜色のない状態であることを確認する必要があります。

手術に進む場合、可能であればUDSを行います。この検査は尿流動態検査とも呼ばれ、専用の機材を用いて膀胱と尿道の生理的なはたらきを評価する生理検査です。UDSにより、排尿の基盤となる膀胱や尿道の基礎的な性能や、尿排出に際しての膀胱平滑筋や骨盤底筋の関与をチェックすることができます。

治療

念のためにパッドをあてている程度の軽い腹圧性尿失禁では、骨盤底筋トレーニングで骨盤底筋の収縮能や迅速性を高めると尿漏れが軽減することがあります。また、肥満している人(BMI≧28kg/m2が目安)では、しばしば減量により尿漏れが少なくなります。咳やくしゃみの出ている人、気管支喘息(きかんしぜんそく)のある人は、それぞれ治療や予防の薬を適切に使うことで尿漏れが軽減します。これらの方法で十分に症状が改善しない場合、腹圧性尿失禁であれば確実に尿もれを軽減する治療は手術療法であり、薬物による治療も人によっては一定の効果を期待できます。

薬物による治療では、βアドレナリン受容体作動薬が腹圧性尿失禁に対して保険適用を持っています。そのほか、漢方薬の一部は保険で使用することができます。

手術療法の中でもっとも一般的なものは、ポリプロピレンでできたメッシュ状のテープを膀胱から離れたところで尿道の下側に回すように通し、尿道の動きを小さくすることで尿もれを解消する“中部尿道スリング手術”です。中部尿道スリング手術には“TVT手術”と“TOT手術”と“ミニスリング手術”があり、日本では“TVT手術”と“TOT手術”が行われています。いずれの術式でも手術は15~30分程度で完了し、年齢や持病のために行えないということはほとんどありません。

これらの手術の効果は、腹圧性尿失禁の尿もれを軽減しパッドなしで生活できるようになる見込が85%と報告されており、高い抗失禁効果を誇ります。一方、高齢者に中部尿道スリング手術を行う場合には尿流波形、残尿、UDSなどを駆使して手術治療が適するかどうかを慎重に見極める必要があります。

また、中部尿道スリング手術は、ブラスチック製のループスリングが恒久的に尿道回りに残る手術です。このループスリングは、適切な場所にあるのでなければよい効果を発揮できません。この手術を受けた女性がもし新たに排尿しづらさや頻尿、尿意切迫などの刺激症状を感じるようになることがあれば、手術で入れたループスリングのずれや食い込みが起こっていないかどうかを再評価する必要があります。

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腹圧性尿失禁を得意な領域としている医師

  • 東京都立大久保病院 泌尿器科 非常勤

    • 骨盤臓器脱
      • 経腟メッシュ手術(TVM手術)・ロボット支援下仙骨腟固定術などを骨盤臓器脱の部位・重症度・患者背景によって、症例にあった術式を決める。

      骨盤臓器脱には、膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤、膣断端脱などがある。

    • 腹圧性尿失禁
      • 骨盤底筋訓練・薬物療法に加え、中部尿道スリング手術であるTVT手術やTOT手術でスポーツができるようになることを目指す。
    • 過活動膀胱
      • 抗コリン薬やβ₃作動薬による薬物療法を行う。内服薬で効果不十分や副作用で継続できない難治性過活動膀胱には、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を外来にて行う。
    • 間質性膀胱炎
      • 原因不明の頻尿・膀胱痛を排尿日誌や膀胱鏡で診断をつけ、経尿道的に膀胱水圧拡張術やハンナ病変を焼灼するハンナ型間質性膀胱炎手術を行う。食事療法やDMSO膀胱内注入療法も併用する。