前立腺がんは前立腺という男性特有の臓器に生じるがんです。前立腺は膀胱の下に位置し、尿道の周りを囲むように位置している臓器で、生殖や排尿に関わっています。
近年、前立腺がんの患者数は増加しており、2018年における男性のがんの罹患数では1位となっています。また、前立腺がんは比較的ゆっくり進行することが多く、早期に発見できれば治癒することが可能です。前立腺がんに限らずがんの進行度は“ステージ(病期)”で表すことができ、ステージを理解することが治療方針を決めるうえで重要となります。
本記事では、前立腺がんのステージ分類をテーマに詳しく解説します。
前立腺がんだけでなく全てのがんにステージ(病期)の概念があり、ステージはがんの進行度を表すほか、患者の治療方針やその後の見通しを予測するために用いられます。ステージには指標がいくつかありますが、よく耳にする“ステージI、II、III”などは“TNM分類”と呼ばれる分類で、前立腺がんでもTNM分類が用いられることが一般的です。
TNM分類とは身体所見や画像診断などによってT因子、N因子、M因子のそれぞれの状態を評価するものです。
T因子はT1a~T4まで細かく分類されています。たとえば、直腸診で異常が見られ、前立腺の左右どちらかの1/2までにとどまるがんであればT2a、膀胱や直腸、骨盤壁など前立腺に隣接する組織までがんが広がっている場合はT4となります。
N因子とM因子は、転移がなければN0、M0、転移があればN1、M1となります。これらを組み合わせて、ステージをI期~IV期に分類します。
前立腺がんのステージは、以下のようにI期~IV期に分類されます。
つまり、ほかの臓器やリンパ節への転移がみられる場合はがんの状態にかかわらずⅣ期と判定されます。また、転移がない場合はNCCNリスク分類を用いて、低リスク群、中間リスク群、高リスク群の3つに分類され、それぞれ治療方針が異なります。
前立腺がんのステージごとの治療方針と5年生存率(診断から5年後の生存率)は以下のとおりです。なお、治療については各ステージの代表的な治療であり、がんや体の状態、年齢、本人の希望なども含めて医師と相談したうえで決定されるため、患者によっては異なる可能性もあります。
I期では監視療法、局所療法、手術、放射線治療などの選択肢があります。
監視療法とは、治療をしなくても余命に影響しないと判断される場合に経過観察を行うことです。3~6か月ごとのPSA検査(血液検査)、MRI検査と1~3年ごとの前立腺生検(細い針で患部の組織を採取して調べる)を行い、病状進行の兆候がみられた場合に治療を開始します。
一方、局所療法は監視療法と手術の中間に位置する治療の概念です。
治療と身体機能の維持の両立を目指すもので、前立腺がんでは高密度焦点超音波療法(HIFU・超音波で患部を熱凝固壊死させる治療法)、凍結療法(組織を凍結する治療法)、小線源療法(放射線治療の一種)などが行われます。そのほか、がん状態によっては手術や放射線治療が行われることもあります。
I期の前立腺がんの5年生存率は100%とされています。
II期の場合は手術や放射線治療が主となります。手術では、前立腺と精のうを摘出した後、膀胱と尿道をつなぐ前立腺全摘除術を行うことが一般的です。
方法としてはロボット手術が中心です。開腹手術、腹腔鏡下手術を行っている施設もあります。
放射線治療は、X線や陽子線、重粒子線を照射することでがん細胞を小さくする目的で行われます。内分泌療法(ホルモン療法)が併用されることもあります。
Ⅱ期の前立腺がんの5年生存率はほぼ100%とされています。
III期の場合は、手術・放射線治療や内分泌療法およびそれらの組み合わせ(集学的治療)が主となります。前立腺がんはアンドロゲンという男性ホルモンの刺激で進行するため、内分泌療法では主にアンドロゲンを抑制する薬を投与します。
III期の前立腺がんの5年生存率はほぼ100%とされています。
IV期の場合は薬物療法が中心となりますが、放射線治療の併用あるいは転移が近くの臓器までであれば手術が選択されることもあります。リンパ節転移や遠隔転移があり、内分泌療法の効果がみられないがんに対しては、化学療法(抗がん剤治療)が行われることもあります。
化学療法は、注射、点滴、内服薬などでがん細胞を小さくする治療方法です。また、Ⅳ期の前立腺がんの5年生存率は60%程度とされています。
前立腺がんのステージ分類はがんの広がりや転移の有無、さまざまなリスク評価を行ったうえで判定されています。また、ステージによって治療法や生存率が異なり、実際の治療はがんや体の状態、年齢、本人の希望なども含めて医師と相談しながら行われます。
そのため、まずは前立腺がんのステージや治療について理解したうえで医師と十分にコミュニケーションを取って、納得した治療を受けられるようにするとよいでしょう。
順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学 教授
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