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新規手術支援ロボット“Hugo RAS システム”による前立腺がんの手術

新規手術支援ロボット“Hugo RAS システム”による前立腺がんの手術
田畑 健一 先生

北里大学北里研究所病院 泌尿器科 部長(北里大学医学部 准教授)

田畑 健一 先生

目次
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前立腺がんの治療は、手術支援ロボットの登場により大きく進歩しました。従来広く使われていたものに加えて新たなモデルが誕生したことで、さらに多くの患者さんに高度な手術を提供することが可能になっています。今回は、北里大学北里研究所病院 泌尿器科部長の田畑 健一(たばた けんいち)先生に、新たな手術支援ロボット“Hugo RAS システム”を用いた前立腺がんの手術や治療に対する思いを伺いました。

前立腺がんの治療の選択肢は、リスクにより異なります。がんが局所にとどまっていてリスクが低い場合は、監視療法を選択することがあります。監視療法とは、即時に根治療法(手術や放射線治療)を行わずに、前立腺がんのマーカーであるPSA(前立腺特異抗原)の数値などを定期的に測定しながら、再生検なども行い、根治療法による過剰治療を避けることを目的としています。

監視療法の対象とならない場合は、手術や放射線治療で根治を目指します。手術ができるかどうかは、患者さんの年齢や転移の有無などによって判断します。年齢は、これから先の余命の見通し(期待余命)が10年以上あるかが手術の基準となります。70歳代後半の患者さんについては、本人の希望やほかに患っている病気なども考慮しながら、手術をするかどうかを決めています。

年齢のほかに、転移がないことも手術を決定するうえで大切な条件です。転移がある場合は基本的に手術の適応にはなりませんが、“オリゴ転移”と呼ばれる少数の転移しかない方は、手術や放射線治療などを行う場合があります。がんが局所にとどまっていても直腸や膀胱まで進行している場合は、放射線治療をより推奨しています。ただ、前立腺がんはがん検診のPSA検査において早期の段階で発見されることが多いので、ほとんどの場合は手術が可能です。

そのほか、手術や放射線治療が適応とならない場合や、放射線治療の前後などに薬物療法を行うケースもあります。薬物療法では、男性ホルモンのはたらきを抑える薬や、がん細胞にダメージを与える薬などを用います。

前立腺がんの手術の種類は、大きく分けて開腹手術、腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)、ロボット支援下手術の3種類があります。開腹手術は、首都圏では行われる機会が少なくなっています。

当院では2023年1月に手術支援ロボットを導入しました。手術支援ロボットは、人間の手や腕の関節よりも細やかに動くため、今までよりも繊細な操作が可能となりました。これまでは難易度が高かった手術も比較的容易にできるようになってきています。また、これまで日本では “ダヴィンチ”という手術支援ロボットが主に使用されてきましたが、当院では“Hugo RAS システム(以下、Hugo)”という手術支援ロボットを導入しています。ダヴィンチとの大きな違いは、コンソールとアームにあります。

コンソールとは、術者がロボットの操作を行う場所のことです。従来の手術支援ロボットであるダヴィンチのコンソールは、分厚い覆いがされた部分に術者が顔を入れて、モニタを覗き込みながら手術を行います。一方でHugoのコンソールはオープンコンソールと呼ばれ、パソコンのようなモニタを見ながらロボットを操作します。術者が手術室全体を見渡せるため、手術室内のちょっとした変化にも気付きやすく、安全面で優れていると感じます。

先方提供
Hugoのコンソール

もう1つの違いであるアームは、モニタや手術器具がつながっていて、術者が手の代わりに操作する部分のことです。ダヴィンチは4本のアームが1か所にまとまっているのに対し、Hugoは各アームが独立しています。アームの設置位置を自由に変えられることも、ダヴィンチにはないメリットです。

ロボット支援下手術を行う際は、下腹部に6か所の穴を開けます(5か所で行うこともあります)。ロボットのアームを入れる穴が4か所、助手が操作するための穴が1~2か所です。どのようにがんまで到達するかは、がんや患者さんの状態によって変えています。通常は頭を高度に下げた状態で手術を行いますが、頭に血がのぼって眼圧が上がるため、一部の緑内障の患者さんには実施できません。そのような場合は、腹膜外(後腹膜)アプローチといって、腹膜の外側で手術操作を行う方法を選択することで、頭を下げる角度を緩やかにできるため、多くの緑内障の方で手術が可能になります。

当院での平均的な手術時間は3~4時間で、入院期間は8~9日程度です。術後は1〜2日ほど痛みがありますが、ほとんどは痛み止めを飲めば治まります。大きな合併症はあまりありませんが、術後の尿失禁は大きな課題になります。尿を止める筋肉などの構造をできる限り温存しつつ、がんをしっかりと取り除けるよう、切除する部位は患者さんごとに慎重に検討しています。

先方提供

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手術中の様子

尿失禁は生活の質(QOL)を著しく低下させてしまうため、術後の尿失禁への不安から放射線治療を希望する方も少なくありません。そのため、私たちはできる限り尿失禁のリスクを減らせるよう、条件を満たしている患者さんには、“神経温存手術”や“レチウス腔温存ロボット支援前立腺全摘除術”という方法で手術を行っています。通常は膀胱の前側から器具を挿入して腫瘍(しゅよう)を取り除きますが、レチウス腔温存ロボット支援前立腺全摘除術では膀胱の後ろ側から前立腺にアプローチします。膀胱前面を傷つけることがないため尿失禁のリスクを下げられる一方で、がん細胞が残ってしまうリスクが少し上がることや、手術の難易度が高くなることがデメリットです。そのため、レチウス腔温存ロボット支援前立腺全摘除術は、がんの場所や性質、患者さんの希望などを考慮して提案しています。

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写真左、田畑健一先生

前立腺がんの治療では、がんの根治を目指しながらも、なるべく機能温存ができる治療を心がけています。転移のない前立腺がんは命に関わることが少ないがんでもあるので、最初から体に負担がかかる侵襲(しんしゅう)の高い治療をするのではなく、段階を踏みながら少しずつ治療を進めていきたいと考えています。

また、私たちは患者さん自身が納得したうえで治療を受けてほしいと思っています。当院でできる治療については全て分かりやすく説明し、患者さんやご家族が納得いくまで治療法を検討してもらっています。セカンドオピニオンも含めて選択肢は全て提示しているので、ぜひお気軽に相談してください。

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