乳がんは、早期発見して適切な治療を行えばほとんどの方が治るといわれています。しかし、日本の女性の乳がん検診受診率は40%程度と低く、受診の遅れによって乳がんが進行してしまうことが懸念されます。今回は、乳がん検診に関わるスタッフは女性が担当するなど、患者さんが受診しやすい環境づくりに取り組まれている菊名記念病院 乳腺外科部長の井手 佳美先生にお話を伺いました。
当院は乳腺外科をセンター化し、2021年10月1日に女性外来・乳腺センターを開設しました。センター化に伴い、特に専門的なスタッフの充実を図っています。本館の4階には超音波(エコー)検査の技師が常駐し、今まで以上に緊密な連携を行ってまいります。超音波検査には腹部超音波検査や乳房超音波検査など複数の種類がありますが、同センターでは特に乳房超音波検査の経験を積んできたスタッフが担当いたします。
そのほか、外来の患者さんに抗がん剤治療を受けていただける外来治療室の設置も計画中です。以前は本館の救急外来の近くにあったのですが、新型コロナウイルス感染症の患者さんに対応するため移譲したスペースの代わりに設置される予定となっています。
当科では、再診の患者さんのオンライン診療に対応しています。近隣にお住まいの患者さんでは直接受診される方も多いですが、より気軽にご相談いただけるようなシステムの整備に力を入れています。
今後は、乳腺外科への受診を迷っている初診の患者さんに向けて、ご相談に応じたり、詳しい検査が必要と考えられる方には受診をご案内したりできるような体制をつくっていくつもりです。遠方からお越しの患者さんも受診のハードルが下がると期待しています。なお、オンラインの診察のみで乳がんの診断をすることはできませんので、「検診を受けてからしばらく経っていて心配だ」といった相談の場や受診のきっかけとしてご利用いただければと思います。
乳がんと診断されたら、性別は問わず信頼できる医師、たとえば実績のある先生や話しやすい先生の下で治療を受けるとよいと思います。しかし、診断がついていない段階で検診を受ける方にとっては、まずは同性のスタッフに対応してもらいたいと思われることが多いのではないでしょうか。
そこで当院は、超音波検査やマンモグラフィを担当する検査技師と、女性専門外来に所属する看護師などは女性スタッフが担当しています。治療が始まってからは病棟の看護師や薬剤師などの中に男性スタッフもいますが、治療の入り口となる検診は女性スタッフが対応することで、受診をためらっている方の心理的なハードルを下げることにつながると考えています。
乳がんの患者さんの中には30歳代後半から40歳代前半の若い方もいらっしゃいます。首都圏では高齢出産の方も多く、ちょうど妊娠や出産の時期と乳がんになる年齢とが重なってしまうこともめずらしくありません。しかし、ホルモン療法を行っている間は胎児に影響する可能性があることから妊娠しないよう注意が必要ですし、抗がん剤治療を行うと卵巣の機能に影響をきたして妊孕性(妊娠しやすさ)が低下する可能性もあります。
抗がん剤治療後に出産を可能とする方法の1つとして、専門の医療機関と連携のうえ、治療開始前に卵巣や受精卵を凍結保存する方法があります。乳がんの治療を控えながら、卵子凍結保存などを行っていくこともスケジュール上大変ですが、それ以前に、そうまでして治療後に出産を希望するかどうか、はたまた、卵子を凍結保存して乳がんの治療終了後に本当に出産できそうなのか、などといったセンシティブな話し合いが必要となります。時間はかかりますが、大事なことですのである程度時間を割いて情報提供を行い、取り組みたいと考えています。妊孕性温存のことは、私が女性の医師だからこそ話してもらいやすいことでもあると思います。
当院の特徴は、大きな病院にはない“小回りのよさ”です。大きな病院では、乳がんを疑うしこりが見つかっても当日中に針生検を受けられなかったり、治療のスケジュールが病院側の都合で決められたりすることも多いのですが、当院はなるべく患者さんの希望や通院のタイミングに合わせて検査や治療を組んでいくよう努めています。
他科の先生方との連携も垣根が低く、当院のバックヤードの状況をご覧いただけたら、さぞかしご安心いただけるのではないかと日々思っております。一例としまして、以前、近隣クリニックに通院していた患者さんが脳転移の疑いで当院に来られた際、複数の診療科やコメディカルスタッフが連携して、その場で治療計画を立てて転院先を紹介した例がありました。患者さんの当時の症状・病状は軽快し、元気に通院を続けていらっしゃると聞いています。客観的に見て、その患者さんは適したタイミングで適切な治療を受けたといえるでしょう。小回りが利く当院ならではのエピソードだと思います。
スタッフも親しみやすい人柄が多くアットホームな雰囲気の中、治療に臨んでいただけると思います。
乳腺外科の診察を行う中で、「病気になったのは何か悪いことをしたせいではないか」とご自分を責める意識のある方が少なくないと感じています。「身近に乳がんの人はいない。飲酒も喫煙もしない。だから自分は乳がんにならない」と強く思っていた方ほど、「甘いものを食べすぎたから」などといった理由をつけてご自分を責める傾向があるように思います。しかし、年を取ったらどのような方でも病気になりやすくなるものです。誰でも病気になりうる、だから検診が必要という理解のもと、「ちょっと検査を受けてみようかな」と、日頃から気軽に検診を受ける習慣を付けておくことが大切だと思います。
乳がん検診に行くタイミングとしては、誕生日月と決めている方もいらっしゃいます。検査日を忘れることなく受診できるのでよいと思いますし、受診日が適度に分散されるので混雑が回避できて病院側にとってもありがたいことです。当院がある横浜市では、乳がん検診の無料クーポン券が送付された直後は混雑することが多いため、それ以前の空いている時期に受診日を調整するのもおすすめです。
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菊名記念病院 乳腺外科 部長
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