富山大学附属病院 形成再建外科・美容外科 診療科長の佐武 利彦特命教授は、自家組織による乳房再建術に取り組まれています。今回は乳房再建術のもうひとつの柱である「インプラントによる乳房再建」ついてお話を伺いました。
インプラントは改良を重ねて従来に比べて安全性が高くなり、バリエーションも増えています。今では単なる代用品ではなく、現実的な選択肢のひとつとなっています。
インプラントによる乳房再建では、一般的に乳房の形に合わせてシリコンで作られたインプラントを大胸筋(胸の筋肉)の下に入れるという方法を取ります。切除後の乳房の皮膚の下には薄い脂肪の層しかなく、そこに直接インプラントを入れることができないためです。
大胸筋の下にインプラントを入れるためには、スペースを作る必要があります。そこで用いられるのが「ティッシュ・エキスパンダー」です。大胸筋の下にティッシュ・エキスパンダーを挿入し、生理食塩水を少しずつ注入すると徐々に膨らみます。こうして時間をかけてゆっくりと筋肉や皮膚を伸ばし、インプラントを挿入するスペースができたら、ティッシュ・エキスパンダーとインプラントを入れ替えます。
※画像は Dr. Nancy Van Laekenサイト 掲載画像をもとに作成
インプラントによる乳房再建術では患者さん自身の組織を使わないので、胸以外に新たな傷ができない点が最大のメリットであると考えます。
また、ドナー部から組織をとることによって起こる合併症の心配もありません。手術時間も短くて済み、患者さんの体の負担が少ない再建術であるといえます。
しかし、自然な乳房は年齢や体型の変化で形や大きさが変化しますので、時間が経つにつれてインプラントで再建した乳房とアンバランスになることも考えられます。また、製品の耐用年数にも限界がありますので、数十年後には交換が必要になるといったことも考えておかなくてはなりません。
なお、2014年1月より、アナトミカル型(しずく型)インプラントは保険適応となりました。
術後、インプラントの周りには生体反応としてカプセル状に被膜ができます。被膜のでき方は患者さんによって異なりますが、被膜に厚みがあり固く縮んでしまうと、インプラントに外から力が加わり変形することがあります。また、患者さん自身も違和感や痛みを覚えることがあります。このような状態を被膜拘縮といいます。
最近のインプラントは材質や形状が工夫され、より柔軟性のある被膜を形成するようになってきていますが、患者さんの体の状態などにも左右されます。被膜拘縮の状況・程度により、ケアや治療法が異なります。
まれに、被膜拘縮の症状が強いなど、どうしても体に合わないという方もいらっしゃいます。そのような場合は、後から穿通枝皮弁による乳房再建を行うことも可能です。
富山大学附属病院 形成再建外科・美容外科 診療科長/特命教授
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