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インタビュー

乳がんの治療法とは 治癒のためには転移を防ぐことが必要

乳がんの治療法とは 治癒のためには転移を防ぐことが必要
山下 啓子 先生

北海道大学病院 乳腺外科 教授

山下 啓子 先生

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この記事の最終更新は2017年10月20日です。

乳がんの検査には、マンモグラフィー撮影や問診・視触診、超音波などがあります。そして、治療法としては、手術と組み合わせ、再発予防のための薬の治療(ホルモン療法、化学療法など)や放射線治療が標準治療として行われています。また、乳がんを予防するための研究や、より簡単に乳がん検診を受けられる検診装置の開発も進められています。

今回は記事1『日本人女性の約12人に1人は乳がんを発症する 症状やステージと生存率の関係について』に引き続き北海道大学乳腺外科教授の山下啓子先生に、乳がんの検査方法や治療の種類、予防研究についてお話をうかがいました。

乳房に何の症状も持っていない方が乳がんの検診を受ける場合は、一般的にマンモグラフィ撮影という、乳房のレントゲン撮影を行います。撮影台の上に乳房を置き、板で挟み薄く伸ばした状態でレントゲンを撮影します。2017年現在は、2年に1度のマンモグラフィ検診が推奨されています。

マンモグラフィー
マンモグラフィー装置 画像提供:山下啓子先生

乳がん検診で異常があった、または、ご自身で乳房に異変を感じて病院を受診した方は、乳がんの検査を受けます。検査では、問診・視触診、マンモグラフィ撮影、超音波(エコー)を行います。そして、検査の結果から、やはり異常があり乳がんが疑われる場合は、乳房造影MRIや造影超音波検査、針生検(組織診断)などを行います。

組織診断とは、腫瘍の一部分を採取し、顕微鏡で観察する検査です。乳がんの場合、以前までは細い針でしこりの一部の細胞を採取するという細胞診が実施されていました。しかし、細い針ではわずかな細胞しか取れず、必ずしも乳がんを診断できるとは限らないことや、乳がんのタイプ(乳がんのタイプについての詳しい説明は、記事1『日本人女性の約12人に1人は乳がんを発症する 症状やステージと生存率の関係について』をご参照ください)までわからず治療方針が決定できないという問題がありました。

そのようなことが考慮され、現在は、局所麻酔を行い太い針で確実にしこりの一部を採取する針生検(またはマンモトーム生検)を行って確実な診断と治療方針の決定を行っています。

乳がんの手術療法としては基本的に、乳房切除術と乳房温存療法が行われています。乳房切除術は腫瘍部分を含めた乳房全体を切除する手術です。一方、乳房温存療法は腫瘍部分だけを切除し、乳房のかたちを残すという手術です。乳房全体に腫瘍が広がっている患者さんは乳房切除術、腫瘍の広がりが小さな方は乳房温存療法が推奨されています。

乳がんの治療には、手術療法以外にも、手術の術前・術後の薬物治療や放射線治療があります。

乳がん患者さんのなかには、乳房切除術(乳房全摘)で乳房をとってしまえば、今後再発しないと考えている方もいらっしゃると思います。しかし、乳房切除術と乳房温存療法を受けた患者さんの生存率を調査したという研究が欧米で行われました。その結果、乳房切除術と乳房温存療法を受けた患者さんの生存率は変わりませんでした。つまり、乳房をすべて切除したとしても再発を防ぐことにはならないのです。

記事1『日本人女性の約12人に1人は乳がんを発症する 症状やステージと生存率の関係について』でも説明した通り、乳がん患者さんの生存率を左右するものは、病期のどの段階で治療を開始できるかです。病期Ⅰなどの早い段階で治療をした患者さんの生存率は非常に高くなります。しかし、病期がⅠ・Ⅱ・Ⅲの患者さんでも、検査で発見できないような小さながん細胞が、骨や内臓に転移している場合もあります。そういった微小転移があると、小さながん細胞がゆっくりと時間をかけて成長し、がんの再発へとつながるのです。

また、乳がんのタイプのなかでも増加傾向にある、ホルモン受容体陽性HER2陰性の乳がんは、たとえ10年後であっても再発する性質を持っています。そのため、手術に加え、微小転移を根絶させるための術前・術後の薬の治療が重要なのです。

乳がんの再発予防治療として術前・術後に行われている薬の治療には以下のものがあります。乳がんのタイプや進行の度合いを考慮し、患者さん一人ひとりに適した治療法を選択します。

  • ホルモン療法(5~10年)
  • トラスツズマブ(1年間)
  • 化学療法(3~6か月)
  • 放射線治療

素材提供:PIXTA

素材提供:PIXTA

乳がん患者さんの治療は乳がん専門の医師だけでは行えません。ガイドラインに記載されているような標準治療を実施するためには、さまざまな診療科の医師や看護師、薬剤師、事務部門といった方々が一丸となったチーム医療が必要です。

また、乳がん患者さんのなかには、遠隔転移が進み、治癒は困難という方もいらっしゃいます。がん診療連携拠点病院などでは、そういった方々にも、なるべくQOL(生活の質)を保ったまま残りの時間を過ごしていただけるように緩和ケアチームと連携をとりながらの治療を行っています。

乳がんの治療では、乳がん診療ガイドラインに基づいた標準治療が実施されています。標準治療とは、多くの臨床試験を重ねてつくられた結論から選ばれた最も安全で効果の高い治療法です。また、標準治療は、新しい臨床試験の結果がわかるごとに新しいものへ更新されています。

日本乳癌学会では、医療従事者向けのガイドラインだけでなく、乳がん患者さんやそのご家族のための診療ガイドラインもつくっています。こちらのWEBサイトからご覧いただくことが可能です。

最近、欧米では、乳がんの発症予防に効果があるとされるいくつかの薬の臨床試験が行われ、結果も報告されています。たとえば、乳がんのホルモン療法に使用する薬剤が、乳がんの発症予防につながるという結果がでています。

欧米には、乳がんを発症しやすい方を選出するモデルがすでにあり、高危険群の方々を選びます。そして、高危険群の方を、ホルモン療法を実施するグループと、何も行わないグループにわけ経過を観察した結果、ホルモン療法を行ったグループの乳がん発生率が、何もしないグループの発生率に比べ、半分以下に低下したのです。

日本では、日本人のなかで乳がんになりやすい方を選別するという研究が進んでいます。授乳歴がないことや閉経後の肥満体形などいくつかの環境要因は見つかっていますが、今後も検証していく必要があります。

北海道大学病院では株式会社日立製作所と共同で、新しい乳がん検診装置である超音波計測技術の開発を進めています。

現在、乳がん検診はマンモグラフィー撮影を行っています。しかし、マンモグラフィー撮影は放射線機器のため、被爆というリスクがあります。また、乳房を挟み撮影をするため、痛みが発生します。しかし、今回開発している検診装置は超音波のため、被爆するなどの侵襲はありません。また、うつ伏せに寝るだけなので痛みもありません。

そして、レントゲンの設備がない場所にも設置することが可能であり、将来的には薬局など比較的身近な場所に置くことも可能です。医療機関へ足を運ばずに検診が受けられることで、検診へのハードルが低くなり、検診率が上昇すると予想されます。そして、検診率が上がることで乳がんの早期発見・治療や予防につながると私たちは考えています。

がんは発生してから検査によって発見されるまで、通常は20年以上の時間がかかります。そのため、乳がんと診断されてもよほど末期の方でない限り急激に進行することはありません。また、乳がんの原因はまだはっきりとはわかっておらず、ご自身のせいで乳がんになったわけではありません。自分を責めず、慌てずに治療を受けてください。

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