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乳がんのリンパ節転移の特徴や治療とは? ~遠隔転移がなければ比較的高い生存率になる〜

乳がんのリンパ節転移の特徴や治療とは? ~遠隔転移がなければ比較的高い生存率になる〜
北川 大 先生

国立国際医療研究センター病院 乳腺内分泌外科 医長・診療科長

北川 大 先生

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乳がんが転移する場合は、乳房周辺のリンパ節に転移することがしばし見られます。リンパ節とは、リンパ液が流れるリンパ管の途中に位置する器官を指し、リンパ液に細菌やがん細胞が含まれていないかを監視して捕らえ排除する役割をしています。ごく初期の段階ではリンパ節へ転移を起こす可能性は低いとされていますが、進行するにつれてがん細胞がリンパ管に入り、リンパ節まで流れていくため、リンパ節転移が生じます。さらに進行すると血管にがん細胞が入り、その結果、乳房以外の遠くの臓器(骨や肺、肝臓など)に転移することもあります。

本記事では乳がんのリンパ節転移をテーマに、転移の特徴や検査、治療法までを詳しく解説します。

乳がんでは主に腋窩(えきか)リンパ節()、内胸リンパ節、鎖骨上リンパ節に転移が生じます。なお、もっとも転移しやすいリンパ節は腋窩リンパ節で、(わき)の下に存在します。

乳がんはがんの進行度によって非浸潤がんと浸潤がんに分けられ、それぞれで転移の確率が異なります。

非浸潤がんとはがんが乳管や乳腺小葉にとどまっている状態を指し、リンパ節に転移する確率は低いとされています。一方、浸潤がんはがんが乳管や乳腺小葉を越えて周囲にも広がっている状態を指します。乳がんの場合、約80%以上は浸潤がんであるとされ、がんが浸潤するとがん細胞がリンパ管や血管にも入ることができるようになるため、浸潤した部分が大きいほど転移を起こす確率も高まります。

がんの進行状況は、がんの広がり方(浸潤がん/非浸潤がん)や大きさ、リンパ節への転移や遠隔転移の有無などによってステージ0期~IV期で表されます。乳がんの場合、ステージ0期は非浸潤がんとされており、ステージ0~I期までは転移はありません。リンパ節転移があるのはステージII期以降となり、ステージIV期では、乳房以外の離れた臓器のリンパ節に転移があります。

国立がん研究センターのデータ*では、乳がんの5年後の相対生存率**をステージ別に、I期で99.8%、II期で95.7%、III期で80.6%、IV期で35.4%と示しており、リンパ節に転移があっても遠隔転移がなければ生存率は比較的高めであるといえます。

*国立がん研究センター ,「がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計」,2010-2011年5年生存率の主な結果

**相対生存率……がん以外の死因を除いた死亡を計算したもの

乳がんの検査は主に、視診、触診、マンモグラフィ(乳房のX線検査)、エコー検査、生検(病変の一部を採取し、細胞を調べる検査)によって行われますが、周囲のリンパ節への転移を確認する検査にはエコーが有用です。

触診やエコーで腋窩リンパ節(腋の下のリンパ節)への転移が明らかではない場合は、手術中にセンチネルリンパ節生検という検査が行われます。センチネルリンパ節とは、乳房内のがんが移動した際に最初にたどり着くリンパ節で、これを摘出して顕微鏡で調べることで転移の有無が分かります。この方法を用いると、リンパ節に転移のない人(全乳がんの約60%以上)への不要なリンパ節の切除を避けることができます。

ただし、この検査を行ってもリンパ節転移の有無を100%診断ができるわけではないことや、検査適応も人によって異なることもあるため、詳しくは担当医に質問するようにしましょう。

検査を行った結果、残りのリンパ節を切除する必要があると判断された場合は“腋窩リンパ節郭清”を行います。腋窩リンパ節郭清とは、取り残しがないよう決められた範囲のリンパ節を切除することをいいます。

切除した箇所や数などにもよりますが、手術でリンパ節を切除した場合は、術後にリンパ浮腫、皮膚の知覚障害、腕や肩の動かしづらさなどを感じることがあります。そのため、気になる症状がある場合は無理せず医師に相談するようにしましょう。

リンパ浮腫

リンパ浮腫とは、リンパ液の流れが悪くなり、手術した側の腕などの皮膚の下にリンパ液がうっ滞してむくむことで、リンパ節郭清のほか、リンパ節への放射線治療が影響する場合、高度ながんのリンパ節転移によっても起こります。リンパ浮腫は最初のうちは軽快しますが、繰り返し生じると次第に症状が悪化し治りづらくなるため、医師の指導の下、適切な対応を行うことが重要です。

また、浮腫を起こしたところは細菌が感染を起こしやすく、時に強い炎症を起こすことがあります。これを蜂窩織炎(ほうかしきえん)といいます。こうなると抗菌薬を用いた治療をしっかり受ける必要があります。

知覚障害

リンパ節郭清後における皮膚の知覚障害とは、術後に傷の部分や腋の下の知覚(感覚)が鈍くなることです。術後しばらくすると多少の改善は見られるものの、低下した知覚が完全に元に戻ることはないとされています。ただし、リンパ節郭清の際に知覚神経を温存し、知覚障害をできる限り少なくするような工夫も試みられているため、心配な場合は術前に手術方法を医師に確認してみるとよいでしょう。

そのほか、切除した範囲が大きいほど、治療した側の腕が動かしにくい、だるい、痛みやしびれがある、皮膚のツッパリ感を感じるといったことがあります。この場合は医師の指導の下、腕や肩の運動を徐々に行うようにしましょう。

以前までは、乳がんはリンパ節に転移することがあるため、診断と治療を目的としてリンパ節郭清をすることが一般的でした。しかし、これによって手術する側の腕に対してリンパ浮腫を生じたり、運動障害を起こしたりする可能性があります。そのため、現在では明らかなリンパ節転移がないと考えられる場合には、センチネルリンパ節生検という、リンパ節を切除をすることなく、転移の有無を確認できる方法を行ったうえで、リンパ節郭清の必要性を判断するようになりました。

このようにリンパ節に転移した場合の治療についてはさまざまな選択肢があるため、自身でも治療方針について理解することが大切です。そのうえで、不安や疑問がある場合は、ためらわずに医師や看護師に質問するようにしましょう。

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