乳がんは乳房に発生するがんで、日本人女性の9人に1人が一生のうちにかかるとされている病気です。乳がん治療の基本は手術や薬物療法、放射線療法などを用いてがんを体内から完全に取り除くことですが、治療が成功したように思えていても別の場所にがんが転移することもあります。これは画像検査で発見できないがん細胞が徐々に増殖し、周りの組織にあるリンパ管や血管を通じて離れた臓器に広がっていく性質をもっているためです。
では、乳がんが転移した場合、どのような場所に転移するのでしょうか。また、転移に伴う症状や治療にはどのような特徴があるのでしょうか。
乳がんは母乳が通る乳管内で発生し、時間の経過とともに乳管外の組織に広がっていきます。乳がんの約8割はこの浸潤がんの状態で発見され、転移する可能性があります。
乳がんがまず転移しやすいのは、がんが発生した乳房と同じ側の腋の下のリンパ節です。がんの進行度を表す病期(ステージ)は、がんの大きさや転移の状況によって分類されます。わきのリンパ節に転移がある場合はステージII期以降に分類されます。更に離れた臓器や首や肺の近くなどのリンパ節(遠隔リンパ節)に転移することを遠隔転移といい、ステージIV期に分類されます。転移先として多い臓器は、骨や肺、肝臓などです。
乳がんが転移した患者さんの生存率は、転移した部位や乳がんの性質によって変わってくるため一概にはいえません。ただし、国立がん研究センターの報告では、進行がんであるステージIII期と遠隔転移を認めるIV期の5年生存率(診断から5年後に生存している割合)は、それぞれ80.6%、35.4%となっています。
乳がんが転移していても症状がまったく現れないことも多く、治療を受けながら仕事を続け、通常の生活を送ることが可能です。転移した場所によって症状が異なりますが、薬物療法や放射線療法、手術療法などを用いて、症状を改善したり予防したりすることが大切になります。
リンパ節に転移している場合、その部分にしこりができることがあります。たとえば、腋の下や首の周りのリンパ節に転移しているとしこりが触れることもあります。また、腋の下のリンパ節に転移していると、リンパ液の流れが滞るために腕がむくんだり、腕につながる神経を圧迫するために腕がしびれたりすることがあります。
骨に転移がある場合は腰や背中、肩など転移している骨のあたりに痛みが続くことがあります。また、脊椎(背骨)に転移している場合も背中に痛みが出ることがあります。さらに、負荷がかかる部位の骨に転移すると骨折を起こすリスクも高まり、これを病的骨折と呼びます。脊椎の病的骨折や腫瘍の圧迫によって脊髄麻痺を起こす可能性があるため、その予防が重要になります。病的骨折や痛みを抑えるために、薬物治療(ビスフォスフォネート、 RANKL阻害剤)や放射線療法の効果があることが明らかとなっています。
臓器に転移している場合はそれぞれ症状が異なり、その臓器のはたらきが損なわれることがあります。たとえば、肺に転移していると咳が出たり、息苦しくなったりすることがあります。また、肝臓に転移している場合、肝臓が大きくなっておなかが張る、食欲不振、痛み、黄疸などの症状が出ることもあります。ただし、肺や肝臓に転移しても症状は現れにくく、咳、痛み、黄疸などの症状が出るのはがんがかなり進行してからであることが多いです。
乳がんの治療には手術と薬物療法、放射線療法があり、ステージとがんの性質に応じて選択されます。近年は現在まで行われてきた研究結果をもとに、もっとも効果が期待でき、なるべく副作用の少ない治療法が確立されてきました。
まずIII期の進行乳がんに対しては治癒を目指して薬物療法、手術、放射線治療を用いた集学的な治療を行います。しかし、発見時にすでに遠隔転移している場合(ステージIV期)は、画像検査などでは分からない血液中などにもがん細胞が潜んでおり、手術や放射線治療が生存率の改善に寄与しないと考えられています。そのため、原則手術をせず、体全体のがん細胞にはたらきかける薬物療法によって、がんの進行を抑えることが治療の目的となります。
ただし、転移なのか別のがんなのか区別がつかない場合は、診断のために手術を行うこともあります。また、転移による痛みなどの症状を和らげるために放射線治療などを行うこともあります。
転移による症状や心理的不安を緩和する緩和治療を早期から行うことによって、生活の質や生存率が改善することも明らかになっています。また、自分の将来の治療やケアのゴールや価値観を患者・家族(大切な人)や医療者と一緒に議論し、共有するアドバンスケアプランニング(人生会議)の重要性も高まってきています。
乳がん発見時に転移が見つかる場合は2割以下と報告されているものの、進行して転移が起こったり、がん治療が終わってしばらく時間が経過した後でも転移や再発が起こったりすることがあります。不安を感じたり、気になることがあったりする場合は、担当医や看護師に相談するとよいでしょう。また、乳がん治療後は、定期的な経過観察のための来院を指示されることが一般的です。そのため、医師の指示どおりに通院することも大切です。
社会医療法人博愛会 相良病院 院長
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