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乳がんは手術して終わりではない――患者さんを長期的にサポートするために

乳がんは手術して終わりではない――患者さんを長期的にサポートするために
河手 敬彦 先生

東京医科大学病院 乳腺科

河手 敬彦 先生

目次
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乳がんは、女性特有のがんの1つです。近年では病気の啓発が進み、検診を受ける方も増えてきたのではないでしょうか。乳がんは、がんの切除をすれば治療が完了するイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、再発するケースがあるため、長く付き合っていく病気であるといいます。

乳がんの患者さんの治療にあたってこられた東京医科大学病院 乳腺科の河手 敬彦先生は、乳がんの治療は患者さんやご家族の精神的なサポートにまで及ぶとおっしゃいます。特に近年は、医師のみならず、病棟スタッフ全員で乳がん患者さんやご家族をサポートすることを目指し、尽力されてこられたそうです。今回は、同病院の河手 敬彦先生に、乳がん患者さんへのサポートに関する取り組みや想いをお話しいただきました。

乳がんは、手術をすれば治療が完了するような病気ではありません。再発するケースもあり、長く付き合っていかなければならない病気であると思います。もちろん手術によりがんを切除することは重要ですが、あくまでそれは局所治療に過ぎません。そのため、手術によりがんをきちんと取り除くことができても、がんが再発する場合もあります。たとえば、片方の乳房ごとがんを切除した場合でも、もう片方の乳房にがんが再発することがあります。また、再発は全身のどこに発生するか分かりません。

検査

そのため、私たちの病院では、手術によりがんを切除した患者さんには、手術を受けたほうの乳房を含め、年に1度のマンモグラフィとエコーを実施するようにしています。また、術後の患者さんには、定期的な人間ドックの受診も有効でしょう。人間ドックで全身の検査をすることで、術後の全身の状態を評価し、体に問題がないことを確認できるからです。このような定期的な検査を含め、乳がんは長く付き合っていく病気であると考えています。

乳がんが進行し、ほかの臓器に転移すると動くことが難しくなり、体力の限界とともに最終的には入院となることもあります。そのため、入院されたときには、残された時間がそれほど多くないことも少なくありません。

そのような人生の最終段階における医療では、精神的なサポートが非常に大きな役割を果たします。感覚的な話になってしまいますが、本当に言いたいことがあるときの患者さんの顔は、何となく違って見えます。その場合、何か言いたいことを言えずにいることが多いのです。たとえば、大きな話し合いが終わったあとに、患者さんに「本当は何か言いたいことがあったのではないですか」と尋ねると、一気に話し出すような方もいらっしゃいます。患者さんは不安を感じていても、それを言えずにいる場合が少なくないのです。それは、ご本人にとって非常につらい心情であると思います。私は、このように言いづらいことであっても、患者さんのどんな話でも聞きますし、受けとめるよう心がけています。

また、乳がんは患者さんご本人だけでなく、患者さんのご家族へのサポートも必要であると考えています。それは、お話ししたように乳がんの闘病は長期間にわたることが多く、患者さんを支えるご家族も、不安や疲労を感じている場合が多くあるからです。そのため、私は患者さんだけでなくご家族とも積極的に話をするよう心がけています。患者さんのみならずご家族とも話をすることで、少しでも不安を軽減していただくことが大切です。

私は、お話ししたような乳がんの患者さんやご家族へのサポートには、多職種の連携が有効であると考えています。もちろん最初に患者さんやご家族と話をするのは外来主治医であるかもしれませんが、それ以降は必ずしも医師でなくてもよいと考えています。たとえば、私たち医師が不在のときであっても、医師と同じように患者さんに関する情報を持つスタッフが病院にそろっていれば、患者さんやご家族は助けを求めやすく、安心につながるのではないでしょうか。

なぜ乳がんの治療では多職種の連携が重要であるのか

素材提供:PIXTA

看護師やソーシャルワーカー、薬剤師など、とにかく病院のスタッフ全員でサポートをするという想いを感じてもらえる体制をつくっていきたいと思っています。そのため、入院された患者さんには、これらの医療スタッフが積極的に介入するようにしています。そうして医師以外にも患者さんがいつでも助けを求めることができる体制を築くようにしています。

なかでも、患者さんにとって看護師は非常に身近で重要な存在であると思います。特に、乳がんの手術を受けるために入院する患者さんが最初に接するのは、看護師なのです。これは不思議なことですが、患者さんは、そのときに受け持った看護師を必ずと言っていいほど覚えていらっしゃいます。たとえば、5年後や10年後、がんが再発し入院した患者さんが、当時の看護師に再会すると喜んでくれることがあります。患者さんは乳がんが再発してつらいはずなのに、非常に嬉しそうにしてくれるのです。

それは、私たちの病院の看護師が、最初の入院の際に、親切に接することができていたからかもしれません。実際に、私たちの病棟の看護師には、患者さんの話を熱心に聞くことができる者が多くいます。治療方針の最終決定権は医師にあるかもしれませんが、患者さんの話を聞くなど患者さんの情報を取り入れることは、看護師をはじめスタッフ全員で行うべきだと考えています。

乳がんの患者さんは受け持った看護師を覚えている

素材提供:PIXTA

お話ししてきたような連携を実現するため、私がもっとも心がけていることは、顔の見える関係づくりです。たとえば、私は病院内のソーシャルワーカーに直接会いに行き、話をします。患者さんの今の状態を共有することもありますし、患者さんに関してお願いがあれば直接話すようにしています。

また、私たちの病院にはがん治療を専門とする薬剤師がいます。抗がん剤治療やさまざまな症状のコントロールなど何でも相談できる体制が整っている点は大きな特徴でしょう。薬剤師とも常に話をし、情報を共有するようにしています。さらに、私たちの病院には乳がん看護を専門に担う乳がん看護認定看護師もおり、お話ししたように熱心に看護にあたる者が非常に多くいます。私たち医師側も看護師などスタッフから治療や患者さんのサポートに関して提案を受けた際には、きちんと聞くようにしています。また、真剣に患者さんのことを思い検討した結果であれば、その意見を取り入れることがほとんどです。

私は、将来的には、多職種による外来のカンファレンスを実現したいと考えています。それは、外来の患者さんは、さまざまな医師が診察にあたるため、情報の共有が非常に難しいという課題があるからです。たとえば、1週間ごとに患者さんを列挙し、主治医が持つ情報を医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどの多職種が集まり、ディスカッションできる場を設けたいと思っています。皆が患者さんに関する同じ情報を持ったうえで治療法を話し合うことができれば、連携がスムーズになります。患者さんにとっても、主治医だけではなくスタッフ全員が状況や治療法を把握している状態をつくることができれば、安心できるのではないでしょうか。

私が医師になったばかりの頃、患者さんを自分の母親だと思い診察するよう教えられました。私はその教えを現在も大切にしています。ちょうどその頃、自分の母親くらいの年齢の患者さんが多かったこともありますが、患者さんが自分の母親だったらどのような治療をしてほしいと思うか、常に考え医師を続けてきました。それくらい患者さんを大切な存在として考えています。

河手先生

また、スタッフには「乳がんの患者さんが病院に来ることは、非常に勇気が必要なことである」と伝えています。それは、検診で異常が見つかり病院に行くこと自体、非常に緊張し不安を伴う行為であると思うからです。スタッフには、そのような心情を理解したうえで、患者さんを迎えてほしいと伝えています。お話ししてきたように、私たちの病院では、医師のみならず皆で患者さんをサポートする体制を心がけていますし、今後さらに強化する予定です。

 

乳癌学会

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