
乳がんは女性に発症する悪性腫瘍の中でもっとも多い病気ですが、早期に発見して治療を行うことによってもっとも治癒しやすい病気でもあるため、日頃から乳房の状態をチェックすることが大切です。一般的に乳がんの症状の中でも乳房に生じるしこりは知られていますが、一方で胸や乳房に痛みなどを感じると乳がんではないかと心配する方がいます。では、胸や乳房で痛みを感じる場合は乳がんの可能性があるのでしょうか。
通常、乳がんができたことによって胸(乳房)に痛みを感じることはありません。
乳がんの主な症状は、乳房に生じるしこり(腫瘤)、血性分泌(乳頭から茶色い分泌物が出ること)、皮膚症状、乳頭びらん(ただれ)などです。そのため一般的に乳房に痛みを感じるほとんどの場合は、炎症や女性ホルモンの影響によるものが考えられます。
乳房に強い痛みや腫れがある場合には乳がん以外の病気が考えられます。あわてずに乳腺外科または産科・婦人科で相談しましょう。
乳腺症とは年齢的な変化によって生じる乳腺の状態であり、病気ではありません。両方の乳房に痛みを感じたり、触ると全体的に硬く感じたりします。
30〜40歳代の閉経頃の女性に生じ、女性ホルモンが影響するので、月経前に強くなって月経後は軽快するなど症状には波があります。痛みに対して鎮痛剤を処方することはありますが、治療の必要はありません。
産後に母乳が乳腺に溜まって生じる急性うっ滞性乳腺炎は搾乳によって軽快しますが、細菌感染が加わって急性化膿性乳腺炎になると抗生物質による治療が必要になり、場合によっては切開して膿を出すこともあります。また、これらの急性の乳腺炎とは違って慢性の乳腺炎は出産とは関係なく生じて炎症が慢性化し、時々治りにくい状態になることもあります。どちらも乳房の痛みや腫れが症状です。
前述のとおり、乳がんでは痛みなどの自覚症状が起こることはありません。乳がんの早期発見のためには定期的な乳がん検診に加えて、定期的に自分で触診することが非常に重要です。
がん検診には、市区町村が公共事業として行う対策型と医療機関・検診機関などが任意で行う任意型の2種類があります。乳がんの対策型検診は40歳以上の女性を対象に2年に1度のマンモグラフィーによる検査を行います。一方、任意型検診は人間ドックなど個人が希望して受ける検診のことで、こちらでもマンモグラフィーによる検査が基本です。マンモグラフィーでは触れることができない早期のがんも発見できます。なお、対策型検診に関する詳しい内容については、検診を受ける医療機関に問い合わせをする、もしくは厚生労働省のHP(がん検診)を参照するとよいでしょう。
しかし、検診を受けているからといって安心しないように注意しましょう。マンモグラフィーでは発見しにくい乳がんや、一部ですが急速に大きくなる乳がんもあるので、定期的に自己触診することは大切です。
セルフチェックは月1回行うようにしましょう。閉経前の方は月経が終わって乳房が張っていないときを選んだ方がよいとされています。定期的に自分の体に関心を持って、以前と違うところはないか自分で触診することを習慣にしましょう。もし変化に気づいた際はあわてずに乳腺外科を受診するようにしましょう。
まず鏡の前で両腕を上げた状態と下ろした状態で、以下のようなことがないか観察します。
など
しこりの確認は、仰向けに寝て行います。
左の乳房を調べる際には、左手を頭の下に入れて、右手の指をそろえて伸ばして平手で、左乳房の内側から胸の中央部に向かって強めに押しながら滑らせて、次に乳房の外側の部分を外から内に向かって押します。右の乳房を調べる場合には、左右の手を反対にして同様に行います。乳房をつまむと乳腺自体を固く触れるので、つままずに平手で少し強めに押すことが大切です。
起き上がった状態で、指を揃えて伸ばし、反対側の腋の下に入れて、しこりがあるかどうかを確認します。
乳首から血液の混ざった分泌物が出ていないか、下着に血液が付いていたりしないかを調べます。白色や黄色の分泌物が少量出ることは問題ありません。
繰り返しとなりますが乳がんで胸や乳房に痛みを生じることはほとんどなく、目立った症状はありません。そのため日頃から自分の乳房に関心を持ち、乳房を意識して生活することが大切です。この生活習慣を“ブレストアウェアネス”といい、乳がんの早期発見に非常に重要です。乳がんは早期発見によってほとんどの方が治る病気です。早期発見のためのブレストアウェアネスを実践し、40歳になったら定期的にマンモグラフィー検診を受けることを心がけましょう。
東京医科大学 乳腺科 主任教授
東京医科大学 乳腺科 主任教授
日本外科学会 指導医・外科専門医・外科認定医日本乳癌学会 乳腺専門医・乳腺認定医日本消化器外科学会 消化器外科指導医・消化器外科専門医・消化器外科認定医・消化器がん外科治療認定医日本乳がん検診精度管理中央機構 検診マンモグラフィ読影認定医師
東京医科大学乳腺科にて主任教授を務める。多様性に富んだ「乳がん」の治療を専門とし、患者さん一人ひとりの病状と希望を正確に把握した上で、それに適した治療を提供することを信条としている。一人でも多くの患者さんを救うべく、トリプルネガティブ乳がんのサブタイプ化などを研究テーマとし、乳がん治療を前進させるために日々尽力している。
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