概要
うっ滞性乳腺炎とは、乳腺の中に母乳がたまることによって乳房の腫れや痛み、火照った感じなどの症状が起こる病気です。授乳期に生じる乳腺炎の中でも初めて出産を経験した人に多くみられます。授乳開始初期から認められ、4~6週以内に発症する傾向があります。
乳房の中には、母乳を分泌する乳腺組織と、その周りを埋める脂肪組織があります。乳腺組織は、複数の小葉と乳管から成る腺葉が集まって構成されている組織です。母乳は小葉で作られた後、乳管を通って乳頭へと集められ、体の外に出ていきます。しかし乳管が何らかの原因で詰まったり、乳頭の形状に異常があってうまく母乳を排出できなかったりすると、乳腺の中に母乳がたまり、うっ滞性乳腺炎が生じます。
乳腺炎の主な種類としては、うっ滞性乳腺炎や化膿性乳腺炎があります。化膿性乳腺炎は、うっ滞性乳腺炎の後、細菌感染が起こることで発症する乳腺炎です。重症化すると乳腺に膿がたまる“乳腺膿瘍”の原因にもなります。うっ滞性乳腺炎が生じたら、化膿性乳腺炎に発展する前に医療機関を受診し、治療を開始することが大切です。
原因
うっ滞性乳腺炎は、出産後に母乳が乳腺の中にたまることによって生じます。母乳が乳腺の中にたまる原因は人によって異なりますが、主に母乳の通り道となる乳管の開きが不十分な場合や、赤ちゃんが母乳を吸う力が弱い場合、乳管が詰まったり乳頭の形状に異常があったりして授乳が難しい場合などが挙げられます。
また、乳頭が乳房の内側に引き込まれた状態を指す“陥没乳頭”があると、うっ滞性乳腺炎をはじめとする乳腺炎が起こりやすくなる場合があります。陥没乳頭の主な原因としては、乳房が発達する時期における乳管の成長の遅れや、乳頭を支える組織の未発達、線維の癒着などが挙げられます。
症状
うっ滞性乳腺炎の初期症状としては、乳房の一部分に赤みや硬結(硬くしこった部分)が生じてきます。症状が進むと乳房全体に赤みが広がり、腫れや痛みの症状はひどくなります。人によっては乳房が火照ったように感じられたり、しこりが触れたり、腋の下にも腫れや痛みを感じたりします。授乳の際にも痛みを生じますが、授乳を控えるとさらに乳腺の中に母乳がたまりやすくなり、症状が悪化する可能性があります。このような症状が24時間以上続く場合は化膿性乳腺炎に発展する可能性があるため、医師や助産師に相談しましょう。
検査・診断
うっ滞性乳腺炎は皮膚の赤み、硬結などの診察所見から診断します。全身所見としては微熱を認めることもあります。うっ滞した乳汁に細菌感染を起こすと、38度以上の発熱や、血液検査で白血球数や炎症の程度を示すCRP値の上昇を認めます。
治療
症状が乳房の一部分のみで軽度の場合には、健康的な生活習慣と乳房のケアによって改善が期待できます。具体的には、バランスの取れた食事と十分な休養を心がけるほか、乳房を温めてマッサージしながら積極的に授乳を行う、授乳だけで母乳が余る場合には搾乳を行うといったケアが挙げられます。乳房のマッサージには乳管を広げ、母乳が出やすくなる効果が期待できます。
痛みが強い場合には、氷嚢や保冷剤、冷湿布などを使って乳房を冷やすことで、痛みや腫れが落ち着く場合があります。一時的に消炎鎮痛薬を使用することもあります。
また、うっ滞性乳腺炎は細菌感染を起こして化膿性乳腺炎に発展する恐れがあるため、授乳後は乳頭や乳輪をよく拭いて、清潔を保つようにするとよいでしょう。すでに化膿性乳腺炎になっている可能性がある場合は、抗菌薬の処方も検討されます。
予防
うっ滞性乳腺炎を予防するためには、乳頭の状態を清潔に保つことが大切です。乳頭についた乳垢を取り除いたり、乳頭を消毒したりするように心がけましょう。また人によっては乳頭の形状が扁平または陥没するなどして、赤ちゃんが母乳を飲みにくいこともあります。赤ちゃんの授乳の状況や乳房の状態などについて気になることがあれば、医師や助産師など医療従事者に相談してみましょう。
そのほか、妊娠中から正しい授乳方法を学ぶなど知識を身につけておくことも大切です。うっ滞性乳腺炎を繰り返す場合は、乳房マッサージを専門的に行っている助産院に相談してみるとよいでしょう。
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