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乳がんの乳房全摘術が選択される基準とは? ~乳房温存術と比較したメリット・デメリット~

乳がんの乳房全摘術が選択される基準とは? ~乳房温存術と比較したメリット・デメリット~
相良 安昭 先生

社会医療法人博愛会 相良病院 院長

相良 安昭 先生

目次
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乳がんの治療には、手術や放射線治療、薬物治療があります。手術では一般的に、乳房全体(皮膚や乳頭、乳輪)を切除する“乳房全摘術(乳房切除術)”と、がんが生じている周辺のみを切除し、できる限り乳房を残す“乳房温存術(乳房部分切除術)”の2種類から選択されます。なかでも乳房全摘術を選択した場合は、乳房を失う喪失感が生活の質(QOL)低下につながることもあるため、患者と医師で十分に話をして納得した状態で手術に臨むことが重要です。

本記事では、乳がんの乳房切除術の内容から術後の生活までを詳しく解説します。

乳がんの手術は、乳房内の乳がんと(わき)の下のリンパ節に対して行われ(詳しくは『乳がんの手術』の記事を参照)、乳房全体(乳腺や乳頭・乳輪、皮膚)を切除する手術方法が乳房全摘術(乳房切除術)です。なお、乳がんが胸の筋肉(大胸筋など)に浸潤(しんじゅん)している場合のみ、筋肉を切除することもありますが、このような手術は減ってきています。

乳房全摘術にはメリットとデメリットがあり、乳房温存術と比較すると以下のとおりです。

乳房全摘術のメリット・デメリット

術前の画像検査で得られた乳がんの位置や大きさなどの情報をもとに、本人の希望に沿いながら乳房全摘か温存かを決定します。そのため、手術の際は医師とよく相談することが大切です。

ただし、以下のような場合は温存術の適応ではないため、一般的に全摘術がすすめられます。

①複数のしこり(腫瘍)が乳房の離れた位置にある場合

②がんが広範囲に広がっている場合

③以下のような理由から温存乳房への放射線治療が行えない場合

  • 過去に乳房や胸郭へ放射線治療を受けたことがある人
  • 膠原病(こうげんびょう)を合併している人
  • 放射線治療をする際の体位が取れない人
  • 妊娠中で出産まで放射線治療を待つことが難しい人

※ ただし、高齢者の場合には放射線治療を省略することもあります。

④乳房部分切除術後に乳房に大きな変形が見込まれる場合

⑤本人が乳房温存術を希望しない場合

なお、遺伝性乳がんが判明している場合には、乳房温存術後の局所再発リスクや予防的乳房切除術の選択肢などを担当医や遺伝カウンセラーと話し合って手術方法を決定します。

早期乳がんに対する乳房温存術と乳房全摘術は、術後の生存率に差がないことが多くの臨床研究により明らかとなっています。そのため、適応があれば乳房温存術が第一選択となりますが、前述のように、がんの広がりが大きいと予想される場合や、放射線療法を受けることができない場合などには、乳房全摘術を行う必要があるので注意しましょう。

乳房温存術を行った場合には、温存した乳房(乳腺)に局所再発する可能性がありますが、乳房全摘術後でも皮膚やリンパなどの局所に再発することもあります。そのため、術後の治療は体内に残っている可能性があるミクロレベルのがん細胞を死滅させることを目的としています。

治療では主に放射線療法や薬物療法が行われ、これによって乳房やリンパ節、皮膚などの局所再発や遠隔臓器(肺や肝臓、骨など)への転移・再発の可能性が減少するといいます。術後治療や画像診断は年々進歩しており、手術後の局所再発率は減少し、また完治する可能性も高くなってきているため、術後も、医師の指示にしたがって治療を受けるようにしましょう。

乳房全摘術では、がんの進行具合によって乳頭・乳輪や乳房のふくらみなどを切除するため、乳房周辺の見た目が変わることがあるほか、元々胸が大きかった人が乳房を全摘すると、左右のバランスに偏りが生じることもあります。

しかし、失った乳房については、乳房全摘術後の乳房再建によって取り戻すこともできるほか(後述)、乳がん手術後専用のブラジャーを使うのもよいでしょう。乳がん手術後専用のブラジャーには、パッドで洋服の見た目や術部を保護してくれるような役割があります。

手術で腋のリンパ節を切除した場合は、腕が上がりにくいなどの合併症が起こることがあります。しかし、術後腕や肩のリハビリテーションを行うことにより、時間の経過とともに軽快していくことが一般的です。

そのほか、リンパ節切除をした場合、手術した側の腕にむくみ(浮腫(ふしゅ))が起こることがあります。ただし、乳房を全摘しても腋のリンパ節を切除していない場合には、肩や腕の動きに影響はなく、浮腫が生じる可能性も少ないため、通常は術後のリハビリテーションは不要であるといいます。

乳房全摘術を行った直後には胸や腕の違和感、しびれなどを感じ、生活するうえで支障をきたすこともありますが、これらの症状は時間の経過とともに軽減します。また、手術の傷あとは一般的に週〜月単位で治っていくとされています。

しかし、筋力や関節の可動域を改善するためには、定期的なリハビリテーション運動が大切です。リハビリでは、胸や肩を動かす運動などを行いますが、詳細な内容は術後の経過日数によって異なります。

乳房再建とは、乳房全摘術で失った乳房に対して新たに乳房を作ることです。再建のタイミングは、切除手術と同時の場合(一次再建)や、手術後一定期間が経ってから行う場合(二次再建)などとさまざまにあり、患者によって異なります。

一次再建を予定している場合には、乳房全摘術で乳頭・乳輪や皮膚をなるべく温存し、できるだけ傷を小さくする方法も増えてきています。なお、乳房再建によって乳がんの再発や、再発の診断に影響が出ることはないと報告されています。

患者の組織(自家組織)を使用する方法とインプラント(シリコンなど)を使用する方法の2種類があります。

自家組織のメリットは、再建した乳房に自然な質感があることや、一度安定すればずっと安定していることなどが挙げられます。一方インプラントのメリットは、自家組織と比較して手術の体への侵襲が少ないこと、ほかの部位にメスが入らないことなどが挙げられます。

乳房再建は、手術の内容や病院によって保険が適用できない場合があるので注意が必要です。再建する場合は、タイミングや保険適用についてなど考慮する問題が多いので、担当医とよく相談する必要があります。

乳がんの手術には、乳房全摘術(乳房切除術)と乳房温存術(乳房部分切除術)があります。乳房を残したい、再建したいなどの希望がある場合は、それぞれのメリットやデメリットをしっかり理解し、納得して治療が受けられるよう担当医と相談をすることが大切です。

また、乳房全摘術を受ける場合は、乳房を失うことによる喪失感や自尊心の低下から生活の質(QOL)が下がってしまうこともありますが、乳房再建術を受けることで乳房を取り戻すこともできます。納得した治療を受けるためにも、自身が受ける手術について理解した上で、不安や疑問がある場合は、医師や看護師に相談をして、十分に説明を受けるとよいでしょう。

参考文献

  1. がん情報サービスウェブサイト.乳がん(閲覧日:2020年12月16日)
  2. 日本赤十字社 姫路赤十字病院ウェブサイト.乳腺外科 手術に関して(閲覧日:2020年12月16日)
  3. 国立がん研究センター東病院ウェブサイト.乳がんの手術について(閲覧日:2020年12月16日)
  4. 日本乳癌学会事務局ウェブサイト.患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版(閲覧日:2020年12月16日)
  5. 東邦大学医療センターウェブサイト.大森病院 乳腺・内分泌外科 よくあるご質問(閲覧日:2020年12月16日)
  6. 平成29年度 がん研究会 有明病院 病院指標(閲覧日:2020年12月16日)
  7. 乳がん 受診から診断、治療、経過観察への流れ.国立研究開発法人国立がん研究センター.2020年7月(閲覧日:2020年12月16日)
  8. 香川大学医学部附属病院 形成外科・美容外科ウェブサイト.診療案内(閲覧日:2020年12月16日)
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