概要
慢性胃炎とは、長期間にわたり胃炎が続いている状態のことです。慢性胃炎にはヘリコバクター・ピロリ菌の感染がかかわっていると考えられています。ピロリ菌が胃の中に棲みついてしまうことで少しずつ胃粘膜を痛めつけて、何十年にもわたって徐々に炎症が広がっていくことで起こります。
胃炎には、暴飲暴食や薬剤などの影響で起こる急性胃炎もありますが、急性胃炎の場合は一度治癒すれば胃の粘膜はきれいに治ります。しかし慢性胃炎は治療をしても、正常な胃粘膜に戻ることは期待できません。
ピロリ菌に感染すると好中球やリンパ球といった白血球を動員して排除しようとして炎症が起こります。またピロリ菌自体が毒素を出すことで、直接胃粘膜を痛めつけることも証明されています。痛めつけられた胃粘膜は萎縮性胃炎という状態となり、きれいなピンク色だった粘膜は色あせ、粘膜の下を走る血管まで透けて見えるようになります。胃の粘膜は再生を試みますが、胃の中にはピロリ菌が存在しています。このような状態で粘膜を再生すると正常な胃の上皮ではなく大腸や小腸の粘膜に似た上皮が形成されてしまいます。この状態は、腸上皮化生と呼ばれ、腸上皮化生の粘膜からは胃がんが発生しやすくなります。そのため、慢性胃炎、とくに腸上皮化生を伴うものは前がん病変として注意が必要です。
原因
原因はピロリ菌の持続感染によるものと考えられていますが、どのようにピロリ菌に感染するのかは、まだはっきり解明されていません。しかし、多くの場合は、免疫機能が発達していない幼少期に感染すると考えられており、大人になってからの感染はほとんどないといわれています。これには衛生状況が大きく関わっており、戦後すぐの衛生環境がまだ整っていないころに幼少期を過ごした60代以上の方の感染状況は約60~70%と高率なのに対し、現代の10代の感染状況は10%以下と低率です。
ピロリ菌感染経路としては日常的に接する母親からの感染が多いと考えられており、口移しでの栄養補給など濃厚な接触が原因となりえます。また保育所や幼稚園といった多くの子どもが集まる場所で嘔吐物などに触れてしまうことも、原因の一つと考えられています。ただし、日本の衛生環境の高さからはピロリ菌の感染率は今後も低下していくものと考えられます。
症状
慢性胃炎の症状としては上腹部不快感、上腹部痛、食欲不振などさまざまです。近年では症状がなくても、検診や人間ドッグなどで行うスクリーニングとしての上部消化管内視鏡で指摘されることが多くなってきています。
検査・診断
上部消化管造影検査(バリウム検査)や上部消化管内視鏡検査がおこなわれます。内視鏡検査で炎症の程度や広がり、萎縮の程度、腸上皮化生の有無を診断します。特に重要なのは胃がんの合併で、肉眼的に癌が疑われる場合は組織を採取して(生検)、病理検査にて詳しく調べます。
また、ピロリ菌の検査としては内視鏡で組織を採取し、菌が持つ酵素であるウレアーゼを調べる迅速ウレアーゼ試験や病理検査で直接ピロリ菌を確認する検査があります。内視鏡を使わない検査としては尿素呼気試験、尿検査や血液検査で測定できる尿中あるいは血中ピロリ菌抗体、便検査で測定できる便中ピロリ抗原があり、いずれも比較的簡単に調べることができます。
治療
原因であるピロリ菌の除菌が推奨されます。以前はピロリ菌の除菌は胃潰瘍などの一部の病気に限定されていましたが、2013年より慢性胃炎に対しても保険適応となっています。除菌療法はプロトンポンプ阻害薬と2種類の抗生物質を組み合わせて1週間内服します。以前はこの治療法で90%以上の成功率でしたが、最近では耐性菌の出現があり除菌成功率がやや下がってきています(2015年発売された新規のプロトンポンプ阻害薬であるボノプラザンの登場で、除菌率はまた90%以上となっています)。除菌に失敗した場合は、薬の種類を変更して二次治療を試みます。
ただし、ピロリ菌の除菌により逆流性食道炎などの悪化が見られることがあるため、ほかの基礎疾患を有している方に対しては注意が必要です。
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