インタビュー

食道の良性疾患の診断―内視鏡検査をはじめさまざまな検査がある

食道の良性疾患の診断―内視鏡検査をはじめさまざまな検査がある
柏木 秀幸 先生

富士市立中央病院 院長、東京慈恵会医科大学 客員教授

柏木 秀幸 先生

この記事の最終更新は2015年11月23日です。

なぜ胸焼けやつかえが起こるのか? 癌以外に原因となる病気は?」では、胃食道逆流症食道アカラシア食道裂孔ヘルニアなどの食道の良性疾患についてご説明しました。このような食道の良性疾患が疑われる場合でも、最初に行われるのは、癌のような悪性疾患の鑑別です。実際には、同時に進められます。この記事では、これらの病気の診断について引き続き、富士市立中央病院院長・東京慈恵会医科大学客員教授の柏木秀幸先生にうかがいました。

最近では、食道、胃の症状に対し行われる検査としては内視鏡検査が多くなってきました。特に内視鏡を含めた画像診断の進歩は著しく、非常に詳細な画像が得られるようになっています。内視鏡検査では、肉眼では診断困難な病変や粘膜の変化も指摘できるようになりました。食道癌や胃癌の診断には内視鏡検査が必須ですが、形態だけでなく組織学的検査も可能となります。一方、良性疾患では逆流性食道炎食道裂孔ヘルニアの診断に内視鏡検査が用いられます。他の良性疾患である食道憩室や食道粘膜下腫瘍の鑑別も行うことができます。また、食道粘膜の炎症の有無と炎症の度合い(胃酸によるただれ具合)を診断することができます。

逆流性食道炎の炎症の重症度を内視鏡検査で分類する方法としては「ロサンゼルス分類」があります。我が国では、グレード N、M、A、B、C、Dの6段階に修正されえた分類が用いられています。グレードNは正常に分類されるものです。そして、食道粘膜が白濁するだけの微小変化型のMから、食道ビランの長軸方向の長さや水平方向の広がりより、軽症のA、B、重症のC、Dに分類しています。

内視鏡検査は食道裂孔ヘルニアの診断にも有用で、特に滑脱型に関しては軽症例も含め、診断することができます。一方、食道アカラシアなどの食道運動障害の診断は内視鏡検査では難しく、異常なしと診断されることが少なくありません。進行例では、食道内に残渣が認められることから食道アカラシアが疑われて、次の食道造影検査に進むことがあります。

食道や胃などの消化管の検査としては内視鏡検査が普及してきましたが、胃が完全に縦隔内へ入り込んだ複合型の食道裂孔ヘルニアや初期のアカラシアでは内視鏡検査のみでは、診断が困難なことがあります。そのようなときに、食道・胃の造影検査(バリウム撮影)が行われます。

バリウム検査は胃の検診などにも用いられますが、白いバリウムを飲んでいただき、食道や胃のレントゲン撮影を行います。食道裂孔ヘルニアの有無や程度、そして種類がわかります。さらに、食道裂孔ヘルニアなどにより下部食道括約筋(LES)に支障が生じており、検査中に仰向けになったときに胃から食道へバリウムの逆流が観察された場合には、胃食道逆流の可能性が高いと判断されます。内視鏡検査のような食道炎の重症度の診断には不向きですが、狭窄などの診断には有用です。

通常、バリウムが食道下端に達するとLESが開いて、バリウムに急速に胃の中へ押し出されます。しかし、食道アカラシアでは食道下端が狭く開くことはありません。造影剤が食道に停滞しますが、癌などに見られる硬さや不整がみられないことが特徴的で、この病気の診断には非常に有用な検査です。食道憩室や食道粘膜下腫瘍の診断にも有用な検査です。

レントゲン検査の中でも、コンピュータ断層撮影(CT検査)は、癌などの腫瘍性疾患の有無の診断のために行われることがあります。癌以外に食道の粘膜下腫瘍や食道憩室の診断にも用いられます。大きな食道裂孔ヘルニアや進行したアカラシアを診断することができますが、この場合には他の疾患の除外診断が目的として行われます。

内視鏡検査にて逆流性食道炎が認められる場合には、胃食道逆流症の診断は容易ですが、食道炎が認められない場合があります。また、治療方針を決める上でも、胃から食道へ胃液がどの程度逆流しているかを確認することがありますが、酸逆流の有無を見るために、食道内のpHの推移を記録する24時間食道内pHモニタリング検査が行われます。経鼻的にカテーテルを食道へ挿入し、24時間記録装置に接続して、1日の変化を記録します。記録装置は小型化が進み、携帯可能で、食事や症状と食道内pHの動きとの関係を記録、解析することができます。特殊な検査のために行える施設が限られますが、胃食道逆流の酸逆流の重症度を客観的に評価することができます。

近年では、pHだけでなく、食道内のインピーダンス(電気抵抗)の変化を測定することにより、液体や気体(ガス)の逆流が生じているのかも同時に検査することができるようになりました。その結果、逆流症状の見られる胃食道逆流症の機序に、低酸や非酸の逆流が関与していることが分かってきました。この新しい24時間食道内多チャンネルインピーダンス・pH測定検査では、食道内インピーダンスの動きとともにpHの測定を行いますので、逆流しているものが胃酸であるのかどうかについても判定できます。日本では、ごく一部にしか普及していない特殊な検査ですが、「非びらん性逆流症」に対しても適確な診断を行うことできますので、病状にあった治療を行うことが可能となっています。

食道の動きを見るために、食道内の圧の動きを測定する内圧検査が行われます。特に食道アカラシアを含め、食道運動機能障害の診断に用いられていますが、専門性の高い検査であるため、一部の限られた施設でのみ行われています。食道内圧検査は、欧米を中心に普及していますが、最近では、圧の測定チャンネルが従来の6-8チャンネルから36-40チャンネルと増え、細かい圧測定と解析を行うことが可能な高解像度食道運動機能検査(ハイリゾリューションマノメトリー)が行われるようになってきてきました。この器械の登場により詳細な食道運動機能障害の診断ができるようになり、新しい食道運動障害の分類(シカゴ分類)も登場してきました。

検査は、鼻から細長い管を食道に入れておき、検査機器につけられている圧センサーによって嚥下(飲み込むこと)中の食道内の圧の連続する動きを調べます。食道アカラシアでは、食道体部の蠕動がなくなり、下部食道活約部の弛緩が見られません。健常者の食道では、食物や水分の摂取により食道上部に発生した収縮波は、口側から胃側へ移動します。ところが、食道アカラシアやびまん性食道痙攣では収縮波が伝播せず、各部位でかってに収縮波が発生します。高齢者の場合は、食道の蠕動性の収縮波高が弱くなり、消失することもあります。胃食道逆流症で蠕動運動の低下があると、逆流症が重症化します。また、胃食道逆流症の患者では、蠕動の低下が認められますが、原因とも結果とも考えられています。ハイリゾリューションマノメトリーは特殊な検査であり、都内では東京慈恵会医科大学病院や日本医科大学附属病院などで行われています。

次の記事からは、胃食道逆流症、食道アカラシア、食道裂孔ヘルニアのそれぞれについて、より詳しくご説明します。

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