インタビュー

胃食道逆流症とは―胸焼けと呑酸

胃食道逆流症とは―胸焼けと呑酸
柏木 秀幸 先生

富士市立中央病院 院長、東京慈恵会医科大学 客員教授

柏木 秀幸 先生

この記事の最終更新は2015年11月24日です。

食事から生命維持のエネルギーを獲得するうえで、食道は食べ物を胃に送る重要な役割を果たしています。同時に、食物を胃に送り込んだ後に、胃との接合部にあたる下部食道括約部(LES)がしっかり閉じて、胃液や胃の内容物が食道へ逆流しないようにする働きもしています。このLESの機能の調子が悪くなると、胃液や胃の内容物が食道へ逆流するようになり、食道粘膜に炎症が起こります。これを胃食道逆流症といいます。

この記事では、富士市立中央病院院長・東京慈恵会医科大学客員教授の柏木秀幸先生に、胃食道逆流症とはどのような病気なのかについて解説していただきます。

我々が食べ物を飲み込むと、食道を通って胃へ送られます。食物が胃へ送られた後は、胃との結合部にあたる下部食道括約筋(LES)がしっかり閉じて、胃液や胃の内容物が食道へ逆流しないようにしています。LESの働きが弱まると、胃から食道への逆流(GER・胃食道逆流現象)が生じますが、慢性的な胃食道逆流により生じる異常を、胃食道逆流症(GERD)と呼びます。胃食道逆流症の患者さんでは食道炎や食道症状が見られます。

胃食道逆流症

 

胃食道逆流症の主な症状は、胸やけや呑酸などの逆流症状です。胸焼けとは前胸部の中央が焼ける感じです。一方、呑酸とは酸っぱい水が口の中へ上がってくる感じです。また、胸痛やつかえ(嚥下困難)などの症状を呈することもあります。また、胃の内容物や胃液が食道へ逆流するため、喘鳴(ぜんめい:呼吸の際にゼイゼイといった音がする状態)や、特に夜間にむせこむような咳が出現します。特に高齢者では、肺炎などの原因ともなります。

胃酸による食道粘膜の傷害は、食道にビランや潰瘍を生じます。重症例では出血や狭窄といった合併症を生じることがあります。また、機序としては酸だけでなく、十二指腸液の逆流の関与も考えられていますが、食道粘膜が円柱上皮へ移行してバレット上皮やバレット食道となり、癌の発生母地となることがあります。

一方、食道炎がないにも関わらず、逆流症状を呈することがあるのですが、このような状態を非ビラン性の逆流症と呼びます。というのは、食道炎がなくても胃食道逆流症を生じていることがあるからです。その原因としては逆流の軽症例、逆流する胃液酸度の低い例、そして食道の感覚が敏感な状態(食道過敏)が関係しています。

また、一部には逆流がないにもかかわらず似た症状を呈することがあります。胃酸逆流による胃食道逆流症の治療には、酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が有用です。胃切除後の患者さんでは、十二指腸液の逆流が重要となりますが、胃が完全にある場合、その多くの場合の原因は胃酸とペプシンによるものです。ペプシンの活性化には酸が必要なので、胃酸をコントロールできるかどうかがポイントとなります。

食道炎を伴わない胃食道逆流症に対してはPPI投与による反応を見ることも行われますが、鑑別が難しい場合には24時間の逆流モニタリング検査が必要です。食道炎を伴わない胃食道逆流症は軽症と考えられがちですが、実際には酸以外の逆流や逆流以外の原因も関与している患者さんが含まれています。そのため、PPIが有効な患者さんの割合は、逆流性食道炎例よりも低くなります。

胃食道逆流症の重症化としては、逆流する消化液の性状とともに、食道裂孔ヘルニアの存在が重要です。一方、消化液の性状としては、胃液の酸度が関係します。従来、日本人は、ヘリコバクター感染により胃粘膜の萎縮が生じやすく、年をとるとともに胃液酸度が低下してきました。そのため、逆流性食道炎の重症例が少なかったのですが、ヘリコバクター感染率の低下があり、逆流性食道炎が増加してきています。食道裂孔ヘルニアの存在は、胃食道逆流症の重症化や再発に重要で、手術適応を考慮する上でも重要な因子となっています。

次の記事「胃食道逆流症の手術治療」では、手術を中心に胃食道逆流症の治療についてご説明します。

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