インタビュー

逆流性食道炎(胃食道逆流症)とは―患者数が増加の一途をたどる現代病

逆流性食道炎(胃食道逆流症)とは―患者数が増加の一途をたどる現代病
樋口 和秀 先生

大阪医科薬科大学 名誉教授

樋口 和秀 先生

この記事の最終更新は2016年01月12日です。

逆流性食道炎胃食道逆流症)は、食生活が欧米化する現代において、患者数が増えている病気のひとつです。食道裂孔ヘルニアに伴い悪化することもあり、年配の方は注意が必要となります。逆流性食道炎(胃食道逆流症)とはどのような病気で、どのような治療法があるのでしょうか。大阪医科大学附属病院消化器内科教授の樋口和秀先生にお話頂きました。

逆流性食道炎は胃から胃酸が逆流することにより、胸やけ、げっぷ、のどの違和感などの症状を呈し、食道部分に炎症を起こす病気です。

逆流性食道炎が起こるメカニズム(素材提供:PIXTA、加工:メディカルノート)

逆流性食道炎はかつての病名であり、最近はもう少し大きい概念で胃食道逆流症という疾患概念に変わってきました。両者の違いは、逆流性食道炎が食道にびらんがあるものを指すのに対し、胃食道逆流症はびらんがあるものも、非びらん性のものも(症状だけの方たちのこと)含むという点です。つまり、胃食道逆流症はびらんがあるないに関わらず一つの病名として定義されています。

最近、かつてと比較すると逆流性食道炎の患者さんの数は増えてきています。それには、食生活の欧米化が深く関係していると考えられています。欧米の食生活は、多少食道の下端部の筋肉を弛緩させる働きをもたらします。その結果胃の内容物が逆流しやすくなると考えられています。

1985年頃は、逆流性食道炎はお年寄りの疾患というイメージが強かったものの、現代においては若い方も十分なりうる病気です。

逆流性食道炎を発症すると胸やけ、げっぷ、のどの違和感などを生じます。胃の内容物および胃酸が食道へ逆戻り=逆流してしまうことで、食道粘膜が炎症を起こしたり、上記の不快感を覚えたりします。

また、逆流性食道炎の患者さんがよく併発している病気に、食道裂肛ヘルニアというものがあります。それもECジャンクション(胃粘膜と食道粘膜の境界)を広げるひとつの物理的な原因です。逆流性食道炎の患者さんの負担を少しでも減らす方法として、外科的な手術は従来から存在しましたが、手術に関しては逆流性食道炎の方のうちでも食道裂肛ヘルニアがひどい人に限っておこないます。

 

基本的な逆流性食道炎の治療は、胃酸を抑えることが第一となります。そのため治療法は薬物が第一選択となります。逆流性食道炎の治療で一番よく使われるのがプロトンポンプ阻害薬(PPI)というお薬です。プロトンポンプ阻害薬は胃酸分泌を抑制する働きを持ち、胃酸分泌を止めることによって胃酸の逆流を抑え、食道の不快感や炎症を治します。

プロトンポンプ阻害薬が登場したことで、逆流性食道炎の治療は一気に改善しました。

かつて逆流性食道炎という病気ではなかなか手術に踏み切れない方も多かったといわれています。なぜならプロトンポンプ阻害薬を服用している患者さんは、それだけで胃腸の容態がよくなるため、手術の必要性を感じないからです。

しかし、プロトンポンプ阻害薬などの薬物治療だと、逆流性食道炎の患者さんは薬を一生飲み続けなければいけなくなります。逆流性食道炎に一度なってしまうと、生涯にわたってずっと胃酸の逆流が発生します。それゆえに、軽症であったとしても、逆流性食道炎の患者さんは一生お薬を飲み続けなければいけない運命になってしまいます。当然、これは患者さんの負担が大きい治療法です。

また、お年寄りで若干背中が曲がっている方などは、プロトンポンプ阻害薬で胃酸そのものは抑制できますが、姿勢の問題があるため、食後ちょっとうつむいただけで食べ物が逆流してきてしまいます。これは非常に腹圧がかかっているために起こります。

現代は生活習慣の変化や労働体系の変革が影響し、都会においては腰が曲がっている方は少ないといわれているものの、そのような方は物理的に胃酸が上がるため、逆流性食道炎になる確率が通常の方よりも高いといわれています。ちなみに、前述した食道裂肛ヘルニアはお年寄りになればなるほど広がっていく傾向があります。そのため、歳を取るほど逆流性食道炎がひどくなるということです。

これを治療しようと思った場合、プロトンポンプ阻害剤だけでは無理があり、食道を物理的にものが上がってこない程度の狭さにしてあげる必要があります。このような経緯から、より手軽に侵襲の少ない治療はないのか、ということで内視鏡治療が考案されてきました。

内視鏡下手術の利点は、よく効くことです。これが成功すれば、それ以降はプロトンポンプ阻害薬を飲む必要がなくなります。

例えば25歳前後の若い方が逆流性食道炎を発症したら、死ぬまで約60年間永遠に薬を飲まなければいけません。それは大変すぎることが理解できるでしょう。ずっとプロトンポンプ阻害薬を飲み続けたことで、何も副作用や合併症が起きないという保証もありません。

内視鏡治療において、最初は欧米でそれに関係するデバイス(装置)が考え出されてきました。それは第一に、内視鏡下に針と糸を出してきて縫う方法(内視鏡的縫縮術)です。

そしてもうひとつ、食道を狭くする方法があります。ECジャンクションのところをラジオ波で焼き、わざとやけど状態を起こして、瘢痕収縮させる方法(ラジオ波焼灼術)です。

その他には、ECジャンクションのところに体に害がないもの(シリコンやコラーゲンのような素材)を入れて膨らませることにより、内部を狭くする方法などがありました。

このなかで日本に入ってきた術式は、縫うタイプのもの(内視鏡的縫縮術)です。この術式は、保険適応にもなりました。2005年、この手術が日本で初めて導入されるというときから私もこの手術を行っており、日本で初めの症例も自身で行っております。

しかし、縫う技術はやがて逆流性食道炎から肥満の手術へとデバイスを変えていきました。結果的に、逆流性食道炎用のデバイスは売り出されなくなり、肥満用のデバイスのみが売り出されることとなりました。

  • 大阪医科薬科大学 名誉教授

    樋口 和秀 先生

    大阪市立大学医学部を卒業後、大阪市立大学内科主任教授を経て、2010年より大阪医科大学附属病院副院長、2015年からは大阪医科大学三島南病院 院長補佐を務める。その後、2022年からは大阪医科薬科大学にて名誉教授として在籍。逆流性食道炎など一般的な消化器疾患の治療に携わる傍ら、「泳ぐ内視鏡」と呼ばれるカプセル型内視鏡を開発した、内視鏡検査のパイオニア。医学を超えて企業との連携を行うことで、消化器内科分野でさらなる低侵襲な検査を確立するために尽力している。

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