インタビュー

摂食嚥下障害とは

摂食嚥下障害とは
戸原 玄 先生

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーショ...

戸原 玄 先生

この記事の最終更新は2016年04月23日です。

摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)とは、口から食べたり飲んだりすることに障害があることをいいます。社会全体の高齢化が進む中で、摂食嚥下に対する関心が高まっています。東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 老化制御学系口腔老化制御学講座 高齢者歯科学分野 准教授の戸原玄先生にお話をうかがいました。

特に、のどぼとけを持ち上げる舌骨上筋(ぜっこつじょうきん)という筋肉は嚥下に大きく関わっています。最近の研究報告でも、舌の筋肉や舌骨上筋が加齢で落ちてくるというデータが出ています。

嚥下と開口の際の筋肉の動き

何も病気がない方でも、たとえば以前よりもちょっとむせるようになった、ちょっと喉に何かが引っかかる感じがするといったことから、嚥下機能の低下が始まることがあります。そのことだけでは直ちに悪影響はないのですが、そのために食事の量が減ったりすると、今度は筋力も低下してさらに状態を悪化させることがありえます。

他にはパーキンソン病などの神経疾患がきっかけとなることも比較的多く見られます。

また、直接的には関係がないように思われますが、たとえば骨折で入院したご高齢の方が入院中に肺炎を起こして、その後食べられなくなるということがあります。つまり、入院で安静にしている間に急に弱って、廃用(使わないでいることで体の機能が衰えること)が進んでしまうのです。入院して帰ってきたら歩けなくなったなどという話はよく耳にするところですが、そういったことのひとつとして摂食嚥下障害が起こることもあるのです。

また、ご高齢の方の場合には認知症の影響もあります。アルツハイマー型認知症などが進むと体の筋肉も落ちてしまいますので、そのため嚥下も悪くなるということがあります。

しかし、多少歯が悪くて噛めないとしても、それは食事に気をつけることである程度カバーすることができます。嚥下障害が多少進んだ症例の場合は、歯の状態にあまりこだわらず、どうすれば栄養が摂れるか、痩せないようにしていくにはどうすればよいかということを考えることがとても大事です。

たとえば、体の状態が悪い方から普通の方まで幅がある中で、普通の方の場合は歯が悪ければごく普通に治療をすればいいのですが、患者さんの状態が非常に悪い場合には、歯にこだわって普通の食事をしようとすると栄養状態が下がってしまいます。したがって、状態が悪ければ悪いほど、普通の食事をとれるようにすることよりも、何とかして栄養をとっていただかなくてはなりません。

その方の体状態がどの程度悪いのかによって、「普通の食事」にこだわるかどうかが変わってきますし、そのバリエーションはさまざまです。

たとえば意識障害や体がまったく動かせないなどの理由で嚥下が本当に悪くなっている方は別として、それ以外では口や喉に問題があってむせる方もいます。また口や喉はそれほど状態が悪くなくても、姿勢が悪くてむせるという方もいます。あるいはその方の状況に合わない物を食べているということもありますし、要介護の方の場合は食事の方法がよろしくないということもあります。

嚥下障害が「ある・ない」ではなく、その方の嚥下障害を引き起こしているのはどこなのかを見ていくと、改善の方法はいろいろと考えられます。たとえば、ベッドの上でのけぞるような姿勢になっているとうまく飲み込めないので、頭の後ろに枕をあてがうだけでむせなくなることがあります。そのようなちょっとしたことから改善できることは少なくありません。

私が過去に担当した患者さんの例で、退院後ミキサー食になったという90代の女性がいました。元々入院前は普通の食事をしていたので様子を見てほしいということで往診したところ、年齢相応に耳も遠くなっておられるし、歩き方も少しおぼつかないながら、その年齢としては普通といえる状態でした。

お話をうかがったところ、気管支拡張症で入院されて約2週間絶食の後、食事を再開するときに炒飯が出て、その炒飯でむせてからミキサー食(普通の食事または軟らかい食事をミキサーにかけたもの)になったというのです。

まずはおかゆなどを食べて、体を慣らしていくというようなことをしないまま、結局普通の食事できなくなっているケースが意外に多いのです。

病院などで嚥下機能の評価ができるようになってきているのは悪いことではありませんが、少し誤嚥(ごえん・食物や唾液が誤って気管に入ること)があるとすぐに胃ろう(腹部に入口を作り、栄養分などを胃に直接送りこむこと)をつくるようなケースもあります。

うまく食べられなさそうであれば、まず少し食事に気を使って工夫をしてみる。それでだめなら嚥下機能の検査をするという順序があってしかるべきだと考えます。それをせずにいきなり検査をするというのは、手順が抜けているのではないでしょうか。

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  • 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長

    戸原 玄 先生

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