概要
空気は鼻や口から気管支という管を通って肺に運ばれます。気管支は気管から枝分かれして、肺の中に空気を運ぶ通路の役割を担っています。何らかの原因で、気管支の内腔が異常に広がってしまい、慢性の咳や痰など呼吸器症状がみられる病気をひとまとめにして気管支拡張症といいます。一般人口における気管支拡張症の頻度については不明ながら、男性よりも女性に多いとされています。
原因となる結核、びまん性汎細気管支炎や重篤な小児期の肺感染症は、抗菌薬の普及や少量マクロライド療法、小児へのワクチン接種によって、その頻度は減少しました。しかしながら、CTの普及や非結核性抗酸菌症の増加も影響しているかもしれませんが、近年は気管支拡張症の発症頻度の増加が指摘されるようになり、再び世界的に注目され重要な病気と位置付けられています。
原因
生まれつきの異常や幼小児期の肺炎、繰り返す肺感染などにより、気管支の構造が改変、破壊されることにより起こります。気管支拡張症の原因となる病気には、肺結核、非結核性抗酸菌症、一般細菌やウイルスの肺炎、肺炎感染症などの感染症を繰り返すことが特徴の原発性免疫不全症候群(PID)、先天性の気管支壁の異常、異物を排除するための線毛運動という機能が障害された先天性の病気(Kartagener症候群)、膠原病などがありますが、原因が特定できないこともあります。
また、本症に合併しやすい病気として、緑膿菌などによる慢性気道感染症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、アレルギー性肺アスペルギルス症、炎症性腸疾患、アミロイドーシスなどがあります。逆に気管支拡張症がきっかけでこれらの原因となる病気が明らかになることも珍しくありません。
気管支が拡張すると、気管支の壊れた部分に細菌やカビが増殖(慢性気道感染)して炎症を起こし、気管支が壊れることにより気管支拡張が進行します。さらに、増殖した細菌やカビはそのほかの肺の中にも広がり、肺炎を起こせば肺・気管支の破壊が進行することがあります。そうなれば、より肺の機能も低下することになります。
症状
気管支拡張症の症状として多いのは、咳や痰です。また急に咳・痰の量が増えたり、粘度が増したり、膿のような痰が出てきたり、息苦しさ、倦怠感などが増加する“増悪”状態が生じることがあります。また、肺炎も起こしやすいです。気管支拡張が起こっている部位は、炎症に伴って血管が増え血管の壁が弱くなっているために、血痰や喀血(血を吐くこと)もよくみられます。時に大量の喀血を起こすこともあります。気道の感染を繰り返すことで肺や気道の構造が破壊され、気管支拡張がさらに進行すると考えられています。
検査・診断
胸部X線検査やCTで気管支拡張の有無を診断可能です。少し専門的な説明になりますが、高分解能CT(High-resolution CT、HRCT)において気管支に並んで走行する肺動脈という血管よりも気管支の内径が拡大しているかどうかで判断を行います。
また、慢性気道感染が疑われる場合は原因菌を調べるために痰の培養検査を行います。血痰や喀血が多いときは、血管の状況を確認するために足の付け根の動脈から細い管を入れて気管支にいく血管を分かりやすくする血管造影検査を行うことがあります。
慢性副鼻腔炎に慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症が合併した病気をまとめて副鼻腔気管支症候群と呼びますが、その部分症として気管支拡張症が発見されることもあります。
治療
気管支拡張症自体を治療することはできませんが、リハビリテーションや器具、薬剤を用いて喀痰の排出を促します。また、マクロライド系の抗菌薬を通常投与するより少ない量で長期的な内服治療を行う場合もあります。増悪時には適切な抗菌薬を使って感染をコントロールします。
血痰や喀血が見られたときには出血を止める薬の投与を行いますが、大量に喀血したり喀血が止まらなかったりするときは、気管支鏡で出血部位の確認や血管撮影を行って、カテーテルから血管を詰めて出血を止める処置を行います。このような治療で症状がよくならない場合は、拡張した気管支や肺を手術によって外科的に切除することもあります。
予防
気管支拡張症の患者は、増悪や肺炎によって症状が悪化したり、病気自体が進行したりするため、かぜなどの感染に注意するとよいでしょう。
また、痰はためずにしっかり出すようにして気管支炎や肺炎を起こさないように注意が必要です。病気の経過については、気管支拡張の状況や感染の合併を繰り返しているかなどにより異なります。また、感染を予防するために肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種も重要です。
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