概要
慢性副鼻腔炎とは、鼻の周りにある"副鼻腔"と呼ばれる空間に炎症が起こり、鼻づまりや鼻水、頭や顔周囲の痛みなどの症状が12週間以上続く状態を指します。
副鼻腔とは、鼻の内部(鼻腔)の奥に広がる空洞のことであり、鼻腔と細い管でつながっています。人の顔面には4つの副鼻腔があり、それぞれ上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞、前頭洞と呼ばれます。
かぜやアレルギーをきっかけにこれらの空洞に炎症が起こることを副鼻腔炎といい、ドロっとした鼻水や鼻づまり、頭痛や頬・鼻など顔周囲の痛み、匂いが分からない嗅覚障害などさまざまな症状が現れます。
発症から4週間以内のものを"急性副鼻腔炎"、炎症が長引いて12週間以上続くものを"慢性副鼻腔炎"といいます。過去には俗称として慢性副鼻腔炎や副鼻腔炎そのものを蓄膿症と呼んでいましたが、正式な医学用語としては使用されていません。
治療では、鼻水の吸引や機器を使って霧状の薬液を鼻から吸い込むネブライザー療法、抗菌薬などを用いた薬物療法、鼻腔と副鼻腔の通り道を広げる手術などが行われます。
また近年は原因不明の"好酸球性鼻副鼻腔炎"という慢性副鼻腔炎の存在が明らかになり、国の難病指定を受けています。好酸球性副鼻腔炎は鼻の穴の中に鼻ポリープ(鼻茸:はなたけ)と呼ばれるできものが生じやすく、治療をしても再発しやすいことが特徴です。

図:副鼻腔と鼻腔
素材提供:PIXTA
原因
慢性副鼻腔炎は、副鼻腔にできた炎症が12週間以上長く続いた状態を指します。急性副鼻腔炎が治らなかったり、感染を繰り返したりして粘膜の炎症が長期化することが主な原因です。
急性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎は、主にかぜによるウイルス感染に続く細菌感染をきっかけに発症します。感染症などにより鼻腔や副鼻腔に炎症が生じると、鼻の粘膜の腫れや鼻水などの分泌物が増加します。炎症が続くと、副鼻腔から鼻の内部へ分泌物を排出する自然口という経路が塞がりやすくなり、副鼻腔に膿や鼻水が溜まります。その結果、頬やおでこの痛み、鼻の奥の痛み、頭痛、頭が重いなどの症状が現れます。通常、適切に治療を開始すれば数日~1か月で症状は改善します。
慢性副鼻腔炎
慢性副鼻腔炎は急性副鼻腔炎が慢性化*したもので、多くは細菌感染によるものとされています。そのほか、むし歯や歯周病といった歯の病気、真菌(カビ)、アレルギーなども原因となります。なお、発症原因がはっきりと分かっていない好酸球性副鼻腔炎のような慢性副鼻腔炎も存在します。
*慢性化:病気や症状が長期間持続する状態。
症状
慢性副鼻腔炎の主な症状は、長期にわたる鼻づまりや粘り気のある黄色い鼻水です。また、嗅覚の低下により匂いを感じにくくなったり、自身の鼻の中に異臭を感じたりすることもあります。顔周囲の痛みのほか、頭が重い感じや体のだるさなどの全身症状が現れることもあります。喉から鼻水が流れてくる"後鼻漏"も特徴的な症状の1つです。症状が長期化すると、鼻の穴の中に鼻ポリープ(鼻茸)と呼ばれるできものが生じる場合もあります。
検査・診断
慢性副鼻腔炎の診断では、鼻の中の状態や鼻のはたらきを調べるさまざまな検査が行われます。また、炎症の程度を調べる血液検査やアレルギー検査なども実施されることがあります。
鼻腔内視鏡検査
この検査では、"ファイバースコープ"と呼ばれる細長い管状のカメラを鼻の穴に挿入し、鼻水の状態や鼻ポリープの有無などを確認します。
鼻腔通気度検査
鼻の通りや鼻づまりの程度を客観的に評価する検査です。
画像検査
鼻のX線検査やCT・MRI検査などの画像検査を行い、鼻の内部の状態や形状を詳細に確認します。これにより、炎症の部位や程度、広がりなどが分かるほか、鼻の構造的な異常の有無も確認できます。
嗅覚検査
においを感じる能力を評価する検査です。主に、複数の香りを嗅いで判別する基準嗅覚検査や、薬液を注射して匂いを感じるまでの時間を測定する静脈性嗅覚検査が行われます。
細菌培養検査
感染症の原因となる細菌を特定するための検査です。
組織検査
鼻ポリープの一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。特に好酸球性副鼻腔炎の場合、鼻ポリープ中の好酸球の数が多くなることが特徴的です。
治療
慢性副鼻腔炎の治療では、症状の改善を目指す保存的治療と外科的治療が行われます。通常、保存的治療から開始し、効果が不十分な場合に手術による外科的治療が検討されます。また、むし歯や歯周病が原因の場合は、歯科治療が必要となることがあります。
保存的治療
保存的治療は、手術を行わずに症状の改善を目指す治療法です。主に以下の方法があります。
ネブライザー療法
霧状の薬剤を鼻から吸引し、直接炎症部位に届けることで効果的に症状を改善します。
薬物療法
薬物療法では、抗菌薬、抗アレルギー薬、ステロイドの内服薬や点鼻薬を使用します。これらを適切に組み合わせることで、鼻づまりや鼻水などの症状を緩和し、副鼻腔の炎症を抑制します。ただし、抗菌薬を服用しても改善が見られない場合は、手術などの外科的治療が検討されます。
副鼻腔の膿吸引・洗浄
副鼻腔に溜まった膿や炎症性物質を除去し、副鼻腔の環境を改善します。
外科的治療
外科的治療は、内視鏡*を用いて行われます。鼻の穴から内視鏡を挿入し、鼻ポリープや副鼻腔に溜まった膿を取り除きます。また、複数に分かれている副鼻腔の壁を統一して1つの空洞にする手術や、副鼻腔炎を起こしやすい鼻の構造を改善するため、鼻の出入り口を広げる手術なども行われます。
*内視鏡:細長い管状の医療機器。鼻の穴から直接挿入して、光で照らしながら鼻の中を観察し検査や治療を行うことができる。
予防
慢性副鼻腔炎の予防には、風邪の予防が重要です。手洗いやマスク着用を心がけ、バランスのよい食事と規則正しい生活を維持し免疫の低下を防ぎましょう。風邪や鼻炎になった場合は早めに対処し、症状が長引く場合は速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
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