概要
肺アスペルギルス症とは、環境中に幅広く存在するアスペルギルスと呼ばれる真菌(カビ)によって引き起こされる肺の病気です。
アスペルギルスは、空気中や土壌、水中などに広く存在する真菌の1つです。空気中に漂うアスペルギルスの胞子を吸い込むことで肺に感染し、発症すると咳や痰、血痰(痰に血が混じる)、発熱、体重減少などの症状が現れます。
アスペルギルスはありふれた真菌のため、日常生活で誰もがその胞子を吸い込んでいますが、通常は健康な人では病気になりません。しかし、体の免疫機能が著しく低下している人や肺に病気のある人では、肺アスペルギルス症が生じる可能性が高くなります。このように普段は病気の原因とならない真菌などが、体の免疫機能が落ちたときに起こす感染症を日和見感染症といいます。
病型として、“慢性肺アスペルギルス症”、“アレルギー性気管支肺アスペルギルス症”、“侵襲性肺アスペルギルス症”の3種類があります。これらの病型が重複するケースもあります。
治療は抗真菌薬を用いた薬物療法が中心となります。症状が強い場合や薬の効果が不十分な場合には、手術などの治療を行うこともあります。
原因
肺アスペルギルス症は、空気中のアスペルギルスの胞子を吸い込むことが原因で発症します。肺アスペルギルス症には3つの病型があり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
慢性肺アスペルギルス症
慢性肺アスペルギルス症は、肺結核、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症などの肺疾患がある人に発症しやすい病気です。これらの病気は肺の内部に空洞をつくり、肺の構造を変化させます。そうして異変が生じた部位に、アスペルギルスの胞子が入り込むことで慢性肺アスペルギルス症を発症します。長期間にわたってゆっくりと進行するのが特徴です。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
アスペルギルスに対してアレルギー反応を起こすことが原因で発症します。気管支喘息の持病がある人に発症することが多いのが特徴です。環境中のアスペルギルスの胞子を吸い込むことで肺や気管支にアレルギー反応が生じ、呼吸器の症状を引き起こします。
侵襲性肺アスペルギルス症
免疫機能が著しく低下している場合に発症しやすい病気です。具体的には免疫抑制作用のある抗がん薬を投与している人、骨髄移植によって免疫が抑制されている状態の人などが挙げられます。比較的病気の進行が速いため、無治療のまま時間が経過すると呼吸困難など命に関わる状態になることがあります。
症状
肺アスペルギルス症では、呼吸器の症状が主体となります。たとえば、咳や痰、血痰、喘鳴(呼吸の際にゼーゼーという音が聴こえる)、胸の痛み、息苦しさなどです。
急激な経過で呼吸困難に至ることもあります。その一方で慢性的に病気が進行して徐々に呼吸障害が悪化していくこともあります。また、発熱や全身のだるさ、食欲不振などの全身症状がみられることもあります。
検査・診断
肺に生じている病変を調べるために、胸部X線検査、肺CT検査などの画像検査が行われます。アスペルギルスに感染していることを確かめるために、血液検査でアスペルギルス抗原やアスペルギルス沈降抗体を調べることもあります。
また、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症が疑われる場合は、採血で得た血液を用いてアスペルギルスに対するアレルギー検査が行われます。
治療
肺アスペルギルス症の治療は病型によって異なります。
慢性肺アスペルギルス症と侵襲性肺アスペルギルス症では、アスペルギルスに効果のある抗真菌薬を内服または注射で投与します。主に使用される薬は、ボリコナゾール、イトラコナゾール、カスポファンギン、アムホテリシンB、ミカファンギンナトリウムなどの抗真菌薬です。特に侵襲性肺アスペルギルス症は進行が速いため、診断の確定を待たずに治療を開始することがあります。
肺の病変部位を切除することで治癒が望める場合や、薬の効果が不十分な場合は病変を取り除く手術が行われることもあります。
一方、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は、アスペルギルスへのアレルギー反応が原因となって起こるため、ステロイドを用いてアレルギー反応を抑える治療を行います。また、ステロイドの効果が不十分な場合には抗真菌薬も合わせて使用します。症状が進行して肺の組織が破壊されたり、気管支が拡張して戻らなくなったりした場合は、肺に酸素を補給する酸素療法が行われます。
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