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喀血の治療法−カテーテルで行う「気管支動脈塞栓術(BAE)」について詳しく解説

喀血の治療法−カテーテルで行う「気管支動脈塞栓術(BAE)」について詳しく解説
石川 秀雄 先生

医療法人えいしん会 理事長・病院長 医療法人えいしん会 岸和田リハビリテーション病院 喀血・肺...

石川 秀雄 先生

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喀血かっけつとは、肺や気管支から出血が起こることで、口から血液を吐き出すことを指します。喀血を引き起こす原因疾患はいくつかありますが、ほとんどの場合で「気管支動脈塞栓術(BAE)」というカテーテル治療が適応となります。

今回は、これまでに気管支動脈塞栓術を3000例以上実施されてきた、岸和田リハビリテーション病院 喀血・肺循環センターのセンター長である石川秀雄先生に、気管支動脈塞栓術(BAE)について解説していただきます。

喀血に対する根本的な治療法

根本的な治療法は、気管支動脈塞栓術と外科手術

喀血の根本的な治療法には、気管支動脈塞栓術(bronchial artery embolization:以下BAE)と外科手術があり、主に行われているのはBAEです。

BAEとは、カテーテル(医療用の細い管)を血管内に挿入し、喀血を引き起こしている気管支動脈を塞栓物質で詰める治療法です(詳しい治療法については後述で詳しく解説します)。

喀血に対する応急処置的な治療法

急性期で大量の喀血が起きていたり、呼吸不全をきたしていたりする場合には、一刻を争うため、先述した治療を行う前に応急処置的な治療を行うことがあります。

気管支にシリコンを詰める気管支充填術

緊急的な治療のひとつに、気管支充填じゅうてん術があります。気管支充填術とは、シリコン製の詰め物を気管支に留置する治療法です。

しかし、気管支充填術を行っても詰めたシリコンを吐き出してしまったり、術後に閉塞性肺炎を起こしてしまったりすることもあることから、BAEがすぐにできない場合の橋渡しのような治療法といえます。

気管支ブロッカーバルーンによる分離肺換気

呼吸不全をきたしている場合には、気管支ブロッカーバルーンを用いた分離肺換気を行うことがあります。これは、気管支鏡*を使いながら、気管支ブロッカーバルーンという器具を喀血が起きている側の気管支に挿入することで、正常な肺へ血液が流入することを防ぐ処置です。

*気管支鏡…気管支を観察するための小型カメラ

気管支動脈塞栓術(BAE)の方法

気管支動脈塞栓術(BAE)の様子
気管支動脈塞栓術(BAE)の様子

塞栓物質を使って気管支動脈をふさぐ

喀血を引き起こす原因疾患はいくつかありますが、ほとんどの喀血は気管支動脈と肺動脈が異常吻合いじょうふんごうする(シャントが形成される)ことによって起こります。

通常、気管支動脈と肺動脈は離れて位置していますが、何らかの病気(気管支拡張症など)によって、もしくは原因不明で気管支動脈と肺動脈がくっついてしまうことがあります。

すると低圧系(約20mmHg)の肺動脈に、高圧系(約120mmHg)の気管支動脈の圧力がかかってしまうため、その圧力に耐えきれずに肺動脈が破裂してしまうことで喀血が生じます。

そのようなメカニズムによって生じる喀血に対し、気管支動脈を塞栓物質で詰めて減圧し、高い圧力が肺動脈へかかることを防ぐ目的で、BAEが行われます。

しかし実際には、気管支動脈以外の内胸動脈や下横隔動脈などが喀血を引き起こしていたり、胸膜癒着がある場合には、肋間ろっかん動脈が癒着部分を通じて肺へと侵入し、肺動脈と異常吻合することで喀血を引き起こしていたりすることが多くあります。

このようなケースに対しては、気管支動脈だけではなく、喀血を引き起こしているその他の血管を塞栓します。

喀血・肺循環センターのカテ室
喀血・肺循環センターのカテ室

BAEではどのような塞栓物質を使用する?金属コイルを使った「ssBACE」について

BAEで用いる塞栓物質には、我が国ではゼラチンスポンジを使用する病院が多いですが、当院では金属コイルを使用しています。

金属コイルは、ゼラチンスポンジに比べて材料費が高いという欠点はあるものの、ゼラチンスポンジには1〜2週間で溶けてしまうという致命的ともいえる欠陥があり、基本的には一時的な止血処置に過ぎません。また、どこに飛んでいくか分からないというリスクもあり、BAEによるもっとも深刻な合併症である脊髄虚血による下半身麻痺が起こる恐れがあります。

一方、金属コイルは永久塞栓物質であり、我々はこれにより根治的な塞栓を目指しております。意図した場所にしっかりと留置できるという安全性の高さからも、金属コイルを使用しています。

金属コイルによるBAEを、我々は「ssBACE」と名付けております。ssBACEには、これまでエビデンス(医学的根拠)がないという問題がありましたが、我々は2017年にssBACEの長期成績論文を出しました。協力施設である国立病院機構東京病院からも、エビデンスが報告されています。

なお、海外ではPVAという塞栓物質が主流ですが、我が国では保険適応になっておりません。また永久塞栓物質のひとつとして、医療用瞬間接着剤であるNBCAが国内外の施設の一部で使用されていますが、一般的に重篤じゅうとくな合併症が多いとされています。

喀血・肺循環センターにおけるBAEで使用している金属コイル
喀血・肺循環センターにおけるBAEで使用している金属コイル

具体的な治療の流れ

BAEを行う前に、まずは外来でCTアンギオ(造影CT検査)を行い、喀血を引き起こしている血管を特定します。この検査結果をもとに治療計画を立て、BAEの実施日を決定します。当院では多くの場合、2回の入院に分けてBAEを行います。

1回は右大腿動脈(太ももの付け根の動脈)からアプローチして大動脈領域の血管を治療し、もう1回は左または右橈骨動脈*(手首の動脈)からアプローチして鎖骨下動脈〜腋下動脈領域の血管を治療します。

BAEではまず、大腿動脈または橈骨動脈からカテーテルを血管内に挿入し、治療部位まで到達させます。

カテーテルが治療部位に到達したら、その部分にマイクロワイヤーを詰めていきます。そのあと、マイクロワイヤーを詰めた場所までマイクロカテーテルを進めていき、マイクロカテーテルの先端から金属コイルを出して留置し、治療完了です。

*喀血を引き起こしている病変の位置に応じて、左右の橈骨動脈を両方同時に穿刺する場合もあります。

治療の流れ

治療時間

治療する血管の数は患者さんによって大きく異なるため、それに応じて治療時間も異なります。治療箇所が1箇所の場合は、30分以内に終了することもありますが、治療箇所が多い患者さんでは、3時間ほどかかることもあります。平均すると、1回の治療時間は約1時間半程度です。

気管支動脈塞栓術(BAE)の適応

約40ccの喀血がみられたときはBAEの実施をすすめる

BAEの適応に明確な基準はありませんが、当院では窒息リスクがあると考えられる40ccくらい(コップ約5分の1)の喀血が生じたらBAEを実施するようにしています。

これよりも少量の喀血の場合には、止血剤の点滴または内服で抑制できるケースが多いのでコスト・ベネフィットに配慮し、経過をみるのが通例です。

ただし少量喀血であっても、冠動脈や頚動脈にステントが入っていて抗血小板剤の服用が必要不可欠だったり、人工弁置換術後や心房細動などで抗凝固剤を服用する必要があったりなどの、出血リスクが高い患者さんには、安心してこれらの薬剤を服用できるようBAEを実施させて頂く場合もあります。

肺がんや肺動静脈奇形などはBAEが適応にならない

BAEは、喀血に対して有効な治療法です。しかし、喀血の原因が先述の気管支動脈と肺動脈の異常吻合によるものではない場合は、BAEが適応になりません。

たとえば肺がんによる喀血は、腫瘍そのものからの出血で生じるため、BAEを実施すると栄養血管(腫瘍に栄養を送っている血管)が詰まるため、腫瘍が壊死してしまいます。肝臓がんなどでは腫瘍が壊死しても問題ないのですが、肺がんの場合には壊死すると腫瘍が破裂し、大出血をきたす恐れがあります。

また、肺動静脈奇形は気管支動脈と肺動脈の異常吻合ではなく、肺動脈と肺静脈の異常吻合が原因のため、気管支動脈でなく肺動脈を詰めるPAE(肺動脈塞栓術)が適応になります。PAEは当院でも実施しております。

気管支動脈塞栓術(BAE)に伴う痛みはある?

カテーテル穿刺部に軽い痛みや、胸に鈍痛があることも

BAEは局所麻酔で行いますが、カテーテル挿入時に穿刺部に軽い痛みを感じます。また、治療中は一時的に血流が途絶えるため、胸部などに鈍痛が生じることもあります。通常、鈍痛は治療が終了すれば消失しますが、患者さんによっては数日間痛みが持続する方もいらっしゃいます。

基本的に、BAEで我慢できないほどの強い痛みが生じることはありません。強い痛みが生じた場合には、後ほどご説明する縦隔血腫やまれですが大動脈解離などの合併症が考えられます。

岸和田リハビリテーション病院の大部屋
岸和田リハビリテーション病院の大部屋

気管支動脈塞栓術(BAE)に伴う合併症

縦隔血腫、脳梗塞、大動脈解離、脊髄虚血など

BAEでは主に以下のような合併症が起こることがあります。

  • 縦隔血腫
  • 脳梗塞
  • 大動脈解離
  • 脊髄虚血

など

縦隔血腫

縦隔じゅうかく血腫とは、気管支動脈が破裂して出血することで、縦隔(左右の肺を隔てている場所)が内出血する状態を指します。気管支動脈が破裂した場合には、破裂した場所の手前を金属コイルで詰める処置を行うことで、縦隔血腫を制御することが可能です。

脳梗塞

橈骨動脈アプローチでBAEを行う際、カテーテル操作に伴ってできた血栓(血の塊)が脳の血管(椎骨動脈)へ飛ぶと、脳梗塞が起こることがあります。

中でも起こりやすいのが、小脳で起こる小脳梗塞です。小脳梗塞で麻痺などは生じず、めまい・嘔吐・しゃべりにくいなどの症状がでますが、1週間ほどで改善し、後遺症が残ることはほとんどありません。

また、これまで大脳の梗塞により後遺症として麻痺を残された方はお1人もいらっしゃいませんが、視野が狭くなった方がお1人だけいらっしゃいます。

またBAEに伴って脳梗塞が生じることはまれで、私自身がこれまで(2019年1月まで)脳梗塞を経験した症例は、6例(全約3000症例中)だけです。さまざまな対策によりこの2年半は皆無です。

大動脈解離

まれではありますが、BAEに伴い大動脈の内膜が裂けてしまう大動脈解離が起こることがあります。この場合は、心臓血管外科医によって大動脈解離の治療を行います。ただし、過去に4例の大動脈解離が発生した中で、安静のみで手術をせずに経過をみたあと当院で残る治療を受けられた方が3名、手術を要した方はお1人のみです。なお、手術を要した方はもともと腹部大動脈瘤があり、大動脈壁が脆弱ぜいじゃくであったと考えられます。

脊髄虚血

BAEで気管支動脈や肋間動脈を塞栓する際、誤って脊髄に血液を供給している「前脊椎動脈」を詰めてしまうことがあります。すると、脊髄虚血が生じて下半身麻痺を起こす恐れがあります。

しかし、金属コイルを用いたBAEで脊髄虚血が起こる可能性は極めて低く、私自身も脊髄虚血の合併症を経験したことはありません。

気管支動脈塞栓術(BAE)の術後の注意点

石川秀雄先生

日常生活の制限はまったくない

退院後は、自由に過ごしていただいて問題ありません。体を激しく動かしたことによって、留置した金属コイルがずれたり緩んだりすることはなく、日常生活の制限はまったくありません。

喀血の患者さんの中には、「また突然喀血が起きたらどうしよう…」という不安から、治療後も必要以上に安静状態を保ってしまう場合があります。そのような患者さんに対して、これからは安心して過ごしてほしいという思いを込めて、「全力疾走をしても大丈夫なので、安心して過ごしてください」とお伝えするようにしています。

再喀血が起こることはある?

再喀血のメカニズム

再喀血のメカニズム

一部の患者さんで、BAE後に再喀血が起こることがあります。術後1年で約10%、術後2年で約14%の方にみられます1)

再喀血が起こるメカニズムは、主に次の4つです。

  1. 治療箇所の再開通
  2. 喀血を引き起こす血管が新しく発生
  3. 治療箇所の近くから側副血行路そくふくけっこうろが発生
  4. まったく別の血管から側副血行路が発生

メカニズム

この4つの中でもっとも頻度が高い原因が、治療箇所の再開通です2)。BAEでは、金属コイルだけによって血管が塞栓されるのではなく、金属コイルの隙間に血栓(血のかたまり)ができることによって、完全に血管が塞栓されます。治療箇所の再開通は、この血栓が溶けてしまうことによって起こります。

そのため当院では現在、血栓による塞栓に依存しない新たな金属コイルの前向き臨床試験を実施しています。この新しいコイルが再開通による再喀血を減らすことを実証できれば、国際的に大きなインパクトを与えるものと期待されます。

【参考】

1)Ishikawa H, Hara M, Ryuge M, Takafuji J, Youmoto M, Akira M, Nagasaka Y,

Kabata D, Yamamoto K, Shintani A. Efficacy and safety of super selective bronchial artery coil embolisation for haemoptysis: a single-centre retrospective observational study. BMJ Open. 2017 Feb 17;7(2):e014805.

https://bmjopen.bmj.com/content/bmjopen/7/2/e014805.full.pdf

2) Ryuge M, Hara M, Hiroe T, Omachi N, Minomo S, Kitaguchi K, Youmoto M, Asakura

N, Sakata Y, Ishikawa H.Mechanisms of recurrent haemoptysis after super-selective bronchialartery coil embolisation: a single-centre retrospectiveobservational study. Eur Radiol. 2019 Feb;29(2):707-715.

https://rdcu.be/4UrN

 

※こちらの論文は自由にダウンロード可能です。