概要
脊髄性筋萎縮症とは、体幹、腕、脚などの運動をつかさどる脊髄の細胞に異常が生じることで徐々に筋力の低下と筋肉の萎縮が生じる病気です。脊髄性筋萎縮症の発症率は出生2万人に対して1人前後、有病率は10万人あたり1〜2人とされるまれな病気であり、国の指定難病に定められています(2026年時点)。性別による発症率の差について、男女差はありません。
脊髄性筋萎縮症の8割以上は2歳未満で発症しますが、成人期以降に発症することもあります。発症する時期と症状の重さによって0型からIV型の5つのタイプに分けられ、一般に発症する年齢が遅いほど進行はゆるやかになる傾向があるといわれています。
これまで脊髄性筋萎縮症には病気の進行を止める治療法はなく、重症化する病型では人工呼吸器による管理などが主に行われてきました。しかし2017年以降、“ヌシネルセン”、“オナセムノゲン アベパルボベク”、“リスジプラム”といった病気の進行を抑える治療薬が相次いで登場し、診療の現場で用いられています(2026年時点)。
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種類
脊髄性筋萎縮症は、発症の時期と、座ったり歩いたりなどの運動機能がどの程度低下しているかに基づいた重症度の順に0型からIV型に分類されています。各病型の代表的な症状については後述します。
0型
0型は、お腹の中にいる胎児のうちから発症する最重症の型です。多くの場合、生まれたときから人工呼吸器による管理が必要とされます。
I型
I型は乳児期(生後6か月ごろまで)に発症する重症の型です。支えなしに座ることが難しく、哺乳や飲み込み、呼吸にかかわる筋肉も弱くなります。ウェルドニッヒ・ホフマン病とも呼ばれています。
II型
II型は生後1歳6か月ごろまでに発症する型です。支えなしで座ることはできますが、自分の力で立ったり歩いたりすることはできません。デュボビッツ病とも呼ばれます。
III型
III型は1歳6か月以降に発症し、いったんは歩けるようになりますが、次第に転びやすくなったり立てなくなったりする型です。クーゲルベルグ・ウェランダー病とも呼ばれます。
IV型
IV型は成人期以降に発症し、長い時間をかけてゆっくりと運動機能が低下していく比較的軽症な型です。発症年齢が遅いほど、症状が進行するスピードも遅いと考えられています。
原因
脊髄性筋萎縮症の主な原因は、“運動神経細胞生存遺伝子(SMN1遺伝子)”という遺伝子が生まれつき存在しない(欠失)、あるいは変化(変異)しているためだと考えられています。SMN1遺伝子は、運動をつかさどる脊髄の神経細胞(運動神経細胞)が生き続けるために欠かせない“SMNタンパク質”をつくるための設計図です。この遺伝子がはたらかずSMNタンパク質が不足し、運動神経細胞が変性することで発症します。
SMN1遺伝子は常染色体上に存在しており、親から子へ受け継がれるのが特徴です。遺伝形式の多くは“常染色体潜性遺伝(常染色体劣性遺伝)”であることが分かっており、父親と母親双方からSMN1遺伝子の変化が子に受け継がれると発症します。ですが、IV型はSMN1遺伝子に関係なく発症するケースも多いとされており、その原因は明確には解明されていません。
また、SMN1遺伝子の近くには、よく似たはたらきをもつ“SMN2遺伝子”があり、正常なSMNタンパク質をわずかながらつくっています。このSMN2遺伝子の数(コピー数)が多い人ほど不足するSMNタンパク質を補うことができるため、症状も軽くなる傾向があると報告されています。
症状
脊髄性筋萎縮症では、型によって症状の程度や進み方が異なります。ここでは代表的な症状を病型ごとに解説します。現在は治療薬が発達し、治療により症状は軽くなります。ここでは治療を受けなかった場合の症状を述べます。
0型
0型では、生まれた時点から自力では呼吸ができず、股関節、膝関節、腕の関節の動きの制限(関節拘縮)がみられます。運動機能を獲得することは難しいといわれています。最重症型では、手足の末端の血液の循環が悪いという特徴を示します。
I型
I型を発症すると運動の発育が停止し、体を動かすことができなくなります。筋肉はその緊張が失われて、体がやわらかい状態の赤ちゃん(フロッピーインファント)となります。お座りができないため寝たきりの状態となり、呼吸や飲み込みにかかわる筋肉も衰えていき、哺乳困難や誤嚥、呼吸障害を起こすことが特徴です。
II型
II型は、体幹や腕、脚の筋力が弱く、筋肉が萎縮していくことで、支えなしで立ったり歩いたりできません。さらに、成長していくにつれて関節拘縮や、背骨が曲がる“脊柱側弯”といった変化がみられるようになります。
III型
III型では、正常に運動の機能が発達して歩くことができるようになるものの、成長につれて徐々に筋力の低下が進んでいきます。そのため、転びやすい、立てない、歩けない、手が上がらないといった運動機能の低下が目立つようになります。思春期以前に歩けなくなり車椅子となった場合には、脊柱側弯が生じます。
IV型
IV型では、長い経過をかけて手や肩、太ももなどの筋肉の萎縮や筋力低下が進行し、運動機能が低下していきます。
運動神経細胞の変性によって、I型・II型では舌の細かいふるえが、II型・III型・IV型では手指のふるえがみられます。
検査・診断
脊髄性筋萎縮症の診断には、筋力の低下や筋肉の萎縮、筋緊張低下、手や舌のふるえ、腱反射*の消失などさまざまな身体的症状を確認するほか、次のような検査が必要になります。
*腱反射:腱の部分をゴムハンマーでたたく刺激を与えると、無意識のうちに筋肉が反応し、関節で動く現象。
遺伝学的検査
脊髄性筋萎縮症では、原因となるSMN1遺伝子の欠失や変異の有無を調べる遺伝学的検査が確定診断に用いられます。血液検査で行うのが一般的です。同時に、SMN2遺伝子のコピー数も調べ、症状の見通しや治療方針の判断に役立てられます。
筋電図検査
筋肉に電極を取り付け、筋肉の運動を観察する検査です。遺伝学的検査で変化がなかった場合に実施します。
脊髄性筋萎縮症では筋力の低下や筋肉の萎縮が生じますが、その原因が脊髄なのか、筋肉そのものなのかを調べるための検査とされています。
血液検査、画像検査
そのほか、脊髄性筋萎縮症と似た症状を引き起こすような内科や整形外科領域の病気との鑑別をするため、血液検査やX線・CT・MRIなどによる画像検査を行うことがあります。
新生児マススクリーニング
近年は、症状が現れる前に病気を見つける取り組みとして、新生児を対象とした検査(新生児マススクリーニング)が広がってきています。この検査は、生後4〜6日ごろに赤ちゃんのかかとなどからごく少量の血液を採って行うため、大きな負担がなく、発症する前に病気の可能性を調べることができます。検査の結果、陽性(脊髄性筋萎縮症の疑い)となった場合には、先に述べた遺伝学的検査による確定診断を至急、受けてください。症状が現れる前に治療を始められると、症状が出てから治療を始めた場合よりも、よい経過を取ります。発症予防や軽症化につながるため、新生児マススクリーニングの意義は大きいと考えられています。検査費用などについては、各自治体に確認しましょう。
治療
脊髄性筋萎縮症の治療では、はたらきや使い方の異なる3種類の薬が用いられています(2026年時点)。運動機能への治療効果の判定としての定期的な評価、特に運動機能評価は重要です。また、薬物療法とともに症状に応じたリハビリテーションやケアも重要です。
病気の進行を抑える治療薬
2026年時点では、ヌシネルセン、オナセムノゲン アベパルボベク、リスジプラムと呼ばれる薬が治療の選択肢となります。どの薬が適しているかは患者によって異なり、症状や年齢、遺伝学的検査の結果などを踏まえて医師が判断します。
ヌシネルセン
ヌシネルセンは、SMN2遺伝子にはたらきかけてSMNタンパク質を増やす薬です。定期的に髄液の中(髄腔内)に注射で投与します。髄腔内への注射に伴って、発熱や頭痛、背中の痛み、嘔吐などがみられることがあり、投与後は医師や看護師から指示があるまで安静にすることが必要です。2025年から高用量(従来の2~4倍以上の成分)の注射が投与可能となりました。
オナセムノゲン アベパルボベク
オナセムノゲン アベパルボベクは、不足しているSMN1遺伝子のはたらきを補う遺伝子治療薬で、点滴あるいは髄腔内への注射による投与が1回のみ行われます。当初は2歳未満が対象で点滴のみでしたが、2026年には2歳以上の患者には髄腔内投与が可能になりました。点滴投与では、患者の体重が軽いほど、投与量が少ないために副作用は少なく、生後1か月までの新生児期での投与では安全性が高いことが分かっています。2歳以上対象の髄腔内投与は薬剤の成分が少なくて済むために安全性が高いです。まれですが点滴投与における重大な副作用として、急性肝不全と血栓性微小血管症などが生じる可能性があり、定期的に血液検査が行われます。
リスジプラム
リスジプラムは、SMN2遺伝子にはたらきかけてSMNタンパク質を増やす薬で、脊髄性筋萎縮症では初めての飲み薬です。1日1回自宅で服用します。副作用として、発疹などの皮膚の変化やかぜ、便秘・下痢、口内炎のような症状(口腔内潰瘍)がみられることがあるため、気になる症状が現れた場合は医師や薬剤師に相談しましょう。ドライシロップを薬局で液体として処方され冷蔵保存が必要でしたが、2025年から錠剤が処方されるようになり、患者と家族の負担が軽減されました。
これらの薬は、発症からの期間が短いほど有効性が高いことから、早期の診断と治療が重要と考えられています。
症状に応じたケアとリハビリテーション
いずれの型においても適切なケアや薬剤の有効性の評価、リハビリテーションが重要です。重症型のI型では、ものを飲み込む筋肉が低下するため鼻などから胃に管を通して栄養を補給する“経管栄養”が必要になります。また、誤嚥しやすく肺炎などを繰り返すため、それらに対する迅速で適切な治療も必要です。さらに、自力で呼吸をすることができなくなるため、人工呼吸器の装着がほぼ必須となります。II型においても、夜間の睡眠時に鼻マスクによる人工呼吸管理が必要となることが多いです。II型では座位を取ることが多いため、成長期に脊柱側弯などの変形が進むことが多く、コルセットの装着が必要です。脊柱変形の進行によっては脊柱固定術が必要となります。
一方、III型とIV型では、治療の中心はそれぞれの筋力の状態に合わせてさらなる症状の悪化を防ぎ、運動量低下による関節の拘縮を防ぐためのリハビリテーションとなります。
予防
脊髄性筋萎縮症は遺伝子の病気であるにもかかわらず、発症前に治療をすることで発症を抑えられることが分かってきました。そのため、この病気はできるだけ早い段階で診断をすることが大切です。運動発達が遅れている赤ちゃん、体のやわらかい赤ちゃんは、小児神経専門の医師に相談するようにしましょう。
脊髄性筋萎縮症のあるきょうだいがいる場合には、出生前に遺伝学的検査を行い、出生後すぐに治療を行うことで脊髄性筋萎縮症の発症を抑えることも可能となってきました。遺伝に関する相談は臨床遺伝専門医にするとよいでしょう。
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