概要
筋緊張低下とは、筋肉の張り(筋緊張)が弱い状態を指します。筋緊張は、筋肉を指でつまんだときの硬さ、関節をぶらぶらと揺らしたときの振れ具合、関節を伸ばしたときの可動域で評価されます。筋緊張が低下した場合、筋肉がマシュマロのように柔らかい、手がだらりと垂れ下がる、カエル足のように足がベタっと床につくなど、特徴的な症状が見られます。
原因には神経や筋肉の異常、中枢神経障害などが考えられ、大人に発症することもありますが、多くは新生児や幼児に発症します。代表的な病気として挙げられるDuchenne/Becker型(デユシャンヌ/ベッカー型)筋ジストロフィー(DMD/BMD)は男児の3,500人に1人、福山型筋ジストロフィー(福山型先天性筋ジストロフィー:FCMD)は10万人に1〜2人(日本人の88人に1人が保因者)、脊髄性筋萎縮症(SMA)は10万人に1人の割合で起こるといわれています。筋緊張低下によってQOL(生活の質)の低下を招きますが、原因によっては命に関わる場合もあります。
原因
筋緊張が低下する原因として、1)筋力そのものが低下する筋肉の病気、2)筋肉につながる神経もしくは神経筋接合部の異常による病気、3)筋の緊張をつかさどる中枢神経系の異常による病気が考えられます。
神経の異常
神経の異常によるものとして、脊髄性筋萎縮症とシャルコー・マリー・トゥース病があります。脊髄性筋萎縮症は、第5染色体にあるSMN遺伝子の劣性(潜性)変異によって引き起こされる病気で、子どもに発症するI型(重症型)、II型(中間型)、III型(軽症型)と、大人に発症するIV型に分類されます。シャルコー・マリー・トゥース病も主に遺伝子異常によるものですが、原因となる遺伝子異常や発症のメカニズムについてはまだはっきりと分かっていません。
筋肉の異常
筋肉の異常によるものには、Duchenne/Becker型(デユシャンヌ/ベッカー型)筋ジストロフィー(DMD/BMD)、福山型筋ジストロフィー、先天性筋強直性ジストロフィー、先天性ミオパチー、糖原病II型(ポンペ病)、ミトコンドリア病があります。これらの病気は、遺伝子変異や骨格筋の構造異常などによって生じ、多くは生まれつき発症しますが、糖原病II型とミトコンドリア病は成人に発症することもあります。
中枢神経障害
脳にある中枢神経が障害されることで筋緊張低下が起こる場合もあり、原因として新生児期の核黄疸による脳性麻痺、ダウン症、脳外傷、急性脳症、先天性大脳白質形成不全症があります。
脳性麻痺とは受精から生後4週間までの間に、何らかの原因で受けた脳の損傷によって引き起こされる運動機能の障害を指す症候群のことです。
急性脳症は、ウイルスなどの病原体の感染をきっかけとして発症します。原因となる病原体の中ではインフルエンザウイルス、ヒトヘルペスウイルス6、ロタウイルスが特に多いとされています。
そのほか
そのほか、神経・筋接合部の異常や自己免疫疾患に合併する筋力低下によって引き起こされる(重症)筋無力症、染色体や遺伝子の異常によって起こるダウン症候群やプラダー・ウィリ症候群、エーラス・ダンロス症候群も筋緊張低下の原因に挙げられます。
症状
筋緊張が低下した場合、筋肉の収縮を認めにくいために筋肉を触ったときに柔らかく、その感触はマシュマロのようだと表現されます。また、赤ちゃんでは手足がだらりと垂れ下がる、カエル足のように足がベタっと床につく、首がすわりにくい、ミルクを飲む力が弱い、泣き声が弱い、腋を抱きかかえたときに肩が脱臼するなども筋緊張低下の代表的な症状です。
筋緊張低下には筋力低下を伴うことが多く、全身の筋力が低下する場合が多いですが、手足などの末梢部分の筋力が低下する場合もあります。原因疾患によっては筋委縮(筋肉が痩せ細る)、関節拘縮(関節の可動域が狭い)、呼吸障害、発育・発達の遅れ、知的障害、けいれん、意識障害などの症状を伴うこともあります。また、DMDでは腓腹筋の仮性肥大(ふくはらぎが異常に大きくなる)と呼ばれる症状が現れることで気付かれることもあります。
検査・診断
筋緊張低下に特徴的な症状があるかを視診や触診、動作から確認します。その後に筋電図検査を行うことが多く、脊髄性筋萎縮症やシャルコー・マリー・トゥース病など遺伝子が原因で発症する病気が考えられる場合には遺伝子検査を行います。
そのほかの検査として、血液検査、神経伝導検査、筋MRI検査、頭部CT検査、頭部MRI検査、心エコー検査、呼吸機能検査、脳波検査、筋生検、神経生検などがあります。必要に応じてこのような検査を行い、どのような病気が原因であるかを調べます。
たとえば脊髄性筋萎縮症では、診察の後に血液検査、神経伝達検査、筋電図検査、筋MRI検査などを行い、これらの検査でより疑わしいと判断した場合に遺伝子検査を行います。脳の中枢神経障害や損傷が疑われる場合には、頭部CT検査や頭部MRI検査、脳波検査などで脳の状態を詳しく調べます。
治療
筋緊張低下の原因となる病気のほとんどが国の難病に指定されています。遺伝子異常を有するDMDやSMAなどは治療法が確立されていますが、難病では病気そのものを治す根本治療が確立されていないことも少なくありません。治療法が確立されていない病気の場合には症状を軽減させる対症療法が中心となります。
筋緊張低下や筋力低下、関節拘縮などの筋・関節症状に対してはリハビリテーションを行い、状態によっては装具や車いすの使用も検討します。薬を用いた薬物療法や手術で症状の改善を図ることもあります。
また、呼吸不全や哺乳・嚥下困難といった命に関わる症状がある場合には、気管内挿管や経管栄養などの処置が必要になることもあります。
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