概要
先天性ミオパチーとは、生まれつき筋組織に異常があり、全身の筋肉に筋力低下が生じる病気です。ミオパチーは筋疾患を指し、日本では筋ジストロフィーを除く全ての筋疾患をこの名称で呼びます。
多くの場合、生後間もなく、あるいは幼少期から、筋力が弱い、体が軟らかい(筋緊張低下)などの症状がみられます。特に幼少期には、首のすわりやお座り、歩行の獲得が遅れるなどの運動発達の遅れから、症状に気付くことが多いといわれています。
この病気の進行はゆっくりですが、年齢とともに症状が徐々に悪化する傾向があります。筋力低下以外にも、呼吸器や心臓の機能に影響を及ぼすことがあり、また関節が固くなり動かなくなる拘縮や背骨が左右に曲がる側弯症などの合併症を伴うこともあります。
また、成人になってから症状が現れる成人型の先天性ミオパチーも存在します。成人型では小児期に軽度の筋力低下があっても気付かれず、成人後に突然、力が入りにくい、転びやすい、疲れやすいなどの症状が現れたことをきっかけに、病気が発見されるケースがあります。
日本における先天性ミオパチーの患者数は1,000〜3,000人程度と推定されています。現在のところ、この病気を治す根治療法は確立されておらず、リハビリテーションによる筋力維持や呼吸機能のサポートといった、症状の進行を抑える対症療法が中心に行われています。また、病気の発症メカニズムの解明や新たな治療法の研究も進められており、将来的な治療の進展が期待されています。
種類
先天性ミオパチーには筋組織を顕微鏡で観察した際の所見に応じて、複数の病型が存在します。ただし、中には現状分類ができない先天性ミオパチーもあります。
先天性ミオパチーの主な病型は以下のとおりです。
- ネマリンミオパチー
- セントラルコア病
- ミニコア病
- ミオチュブラーミオパチー
- 中心核病
- 先天性筋線維タイプ不均等症
- 全タイプ1線維ミオパチー
- 分類不能な先天性ミオパチー
原因
先天性ミオパチーの原因は、主に特定の遺伝子変異にあると考えられています。これらの遺伝子は、筋肉の構造や機能に重要なタンパク質の生成に関与しています。遺伝子の変異により、これらのタンパク質が正常に作られなかったり、機能が低下したりすることで、筋肉の発達や機能に問題が生じ、先天性ミオパチーが引き起こされると考えられています。
遺伝子変異の種類は、先天性ミオパチーの病型によって異なります。たとえば、ネマリンミオパチーではACTA1やNEBといった遺伝子の変異が、セントラルコア病ではRYR1遺伝子の変異が関連していることが分かっています。
遺伝子変異には、親から受け継ぐ場合と、受精卵や胎児の発育過程で突然変異として生じる場合があります。後者の場合、両親が変異遺伝子を持っていなくても、子どもに先天性ミオパチーが発症することがあります。
遺伝子検査により、一部の患者では原因となる遺伝子変異を特定できますが、全ての症例で原因が明らかになるわけではありません。同じ病型でも複数の遺伝子が関与している可能性があり、原因特定が難しい場合もあります。
先天性ミオパチーの遺伝的背景には未解明の部分が多く残されています。今後の研究により、新たな原因遺伝子の発見や病気のメカニズムの解明が進むことで、より正確な診断や効果的な治療法の開発につながることが期待されています。
症状
先天性ミオパチーは、全身の筋力低下が起こる病気です。その結果、以下のようなさまざまな症状を引き起こします。これらの症状は病型によって異なり、重症度にも個人差があります。
筋力低下と筋緊張低下
筋力低下と筋緊張低下は先天性ミオパチーに共通してみられる主な症状です。新生児期や乳幼児期から、筋力の弱さと体の軟らかさが特徴的にみられます。全身を支える筋力が弱いため、首のすわり、お座り、歩行開始などの運動発達が遅れることがあります。歩行開始後も、転びやすい、階段の上り下りに苦労する、走れない、ジャンプができない、疲れやすいといった症状がみられます。大人になってから症状が明らかになる成人型もあります。
呼吸障害
呼吸に必要な筋肉の弱さから、呼吸不全を引き起こすことがあります。特に夜間に症状が悪化し、睡眠の質が低下したり、息苦しさを感じたりすることがあります。重症例では人工呼吸器が必要になる場合もあります。
心臓の病気
心臓を動かす筋肉の機能低下により心臓の収縮力が弱まり、循環器系に影響を及ぼして心筋症や不整脈などの病気を発症することがあります。
関節拘縮と側弯症
筋力低下により、関節の拘縮が起こり、手足など影響を受けた部位の動きが制限されます。また、脊柱(背骨)を支える筋力が弱いために脊柱が変形して曲がる側弯症を発症し、姿勢の維持が困難になることがあります。
顔面筋の影響
顔面筋の筋力低下により、表情が乏しくなることがあります。また、高口蓋(上顎の内側が通常より窪む状態)や眼瞼下垂(まぶたが下がる)といった症状もみられることがあります。
哺乳障害や摂食障害
口や喉の筋肉の弱さにより、哺乳障害や摂食障害が生じることがあります。新生児期では、母乳やミルクを十分に飲むことができず、体重低下につながる可能性があります。成長後も、食べ物を噛んだり飲み込んだりする力が弱いため、むせやすくなったり、食事に時間がかかったりすることがあります。これらの問題により十分な栄養摂取が困難な場合には、経管栄養などの特別な栄養管理が必要になる場合があります。
知的障害やてんかん
一部の病型では、知的障害やてんかんを伴うことがあります。
検査・診断
検査では、血液検査、筋電図検査、画像検査が行われます。これらの検査から先天性ミオパチーの可能性が高いと判断された場合、筋生検あるいは遺伝子検査を行い、確定診断となります。
血液検査
血液を採取し、筋肉に多く含まれる酵素である血清クレアチンキナーゼの値を調べます。筋肉の損傷がある場合にはこの値が上昇します。
筋電図検査
筋肉が収縮する際に発される微弱な電気を計測し、記録する検査です。筋肉や神経に異常がないかを調べます。
画像検査
MRI検査が有用で、先天性ミオパチーでは骨格筋の萎縮などがみられることがあります。
筋生検
筋組織の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査です。先天性ミオパチーの場合、筋組織の形状に問題があるかを確認します。
遺伝子検査
先天性ミオパチーの原因となる遺伝子変異を特定する検査です。
治療
先天性ミオパチーを根本的に治す方法は現在ありません(2024年11月時点)。そのため、症状の進行を抑える対症療法を行い、患者の生活の質をできる限り改善することが重要です。
リハビリテーション
筋力維持と関節の柔軟性保持のため運動療法を行います。これにより日常生活動作の能力向上が期待されます。呼吸筋の弱さを補うため、呼吸訓練や補助装置を使用することがあります。突然の呼吸困難に備え、日頃から呼吸リハビリテーションを実施し、痰の排出を容易にするなどの工夫も大切です。側弯症がある場合は、姿勢を支える装具を使用します。そのほか、下肢に歩行支援機器を装着した歩行訓練が行われることもあります。
栄養管理
体重維持や栄養状態の改善も重要です。嚥下困難がある場合、経管栄養や胃ろう造設が必要な場合もあります。経管栄養は鼻から胃へチューブを通して栄養を摂取する方法で、胃ろう造設は腹部から直接胃へチューブを通す手術です。
薬物療法
心臓の病気がある場合、心臓の負担を軽減する薬物療法を行います。
手術
側弯症で背骨のカーブが強く装具による治療が困難な場合、背骨をボルトで固定して矯正する手術を検討します。
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