概要
筋無力症とは、筋肉を動かす神経から筋肉への興奮伝達障害(信号を伝える働きの障害)により、筋力低下(力が入らない)や易疲労感(疲れやすい)が症状として現れる疾患の総称です。主に 以下の3つの疾患があります。
若年性重症筋無力症
小児期に発症する重症筋無力症です。眼筋型が多く、成人に比べて症状が軽く、全身型へ移行することが少ないという特徴があります。アセチルコリンの受容体に対する抗体(抗ACh受容体抗体)が陽性になる割合が成人に比べて少ないことも知られています。
新生児一過性型筋無力症
重症筋無力症の母親から生まれたお子さんに認められる一過性の筋無力症です。
母親の抗ACh受容体抗体が胎児に移行することにより、一時的に筋無力症の症状を呈しますが、多くの場合自然に軽快します。
先天性筋無力症候群
神経筋接合部の異常により筋無力症を生じる遺伝性の疾患です。
乳児期に筋緊張の低下により発症し、徐々に全身の筋肉低下を認めます。
小児期の筋無力症の特徴として眼筋型が多い、抗ACh受容体抗体陽性率が低い、女児に多い(70%)、胸腺腫の合併率が低いことが挙げられます。
原因
神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体に対する抗体(抗ACh受容体抗体)や他の抗体による自己免疫疾患です。先天性筋無力症候群は遺伝性の疾患です。
症状
筋無力症の症状は部位、重要度、検査所見に応じて 眼筋型、全身型、潜在性全身型、球型、クリーゼに分けられます。休息により症状が改善するため、朝は症状が軽く、夕方に悪化する日内変動があることが知られています。
眼筋型
小児でもっとも多いタイプです。眼の周りの筋肉(外眼筋)の麻痺が生じ、眼瞼下垂・斜視・複視(ものが二重に見える)・眼球運動障害が生じます。片方の眼から発症しますが、経過中に両眼に進行することがあります。
全身型
四肢の骨格筋、頸部の筋肉の脱力、易疲労感が生じます。四肢の脱力は近位筋(体幹に近い筋肉)が中心になります。
潜在性全身型
眼筋型の症状のみで、四肢の筋肉の誘発筋電図で減衰現象を呈する型をいいます。小児の重症筋無力症の50%がこの型です。
球型
舌、口の中の筋力が低下し、構音障害(鼻声や声がれ、発音がうまくできない)、嚥下障害(ものが飲み込みにくい)、咀嚼障害(ものが噛みにくい)、呼吸障害などが生じます。
クリーゼ
感染、外傷、ストレスなどをきっかけに、急激な呼吸筋麻痺が起こり、人工呼吸器による管理が必要になることがあります。
検査・診断
特徴的な日内変動のある筋力低下を認めた場合に、筋無力症を疑います。
血液検査
自己抗体の検査としてアセチルコリン受容体抗体(抗ACh受容体抗体)、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体を行います。若年性重症筋無力症の抗ACh受容体抗体の陽性率は低く、5歳未満で50.3%、5歳以上10歳未満では48.1%です。
塩酸エドロホニウム静注テスト
短時間作用型のコリンエステラーゼ阻害薬である塩酸エドロホニウムを静脈注射し、筋力低下の改善をみます。
誘発筋電図検査
鼻筋・僧帽筋・手内在筋などを反復電気刺激し、減衰(漸減現象:waning)がみられます。
治療
内科的治療
免疫抑制療法として高容量の副腎皮質ステロイドが全身型や重症の眼筋型に用いられます。軽症な重症筋無力症の場合、抗コリンエステラーゼ阻害薬のみで軽快することもあります。副腎皮質ステロイドで症状の改善がみられない場合、γグロブリン大量療法、血漿交換、またその他の免疫抑制薬を用います。
外科的治療
小児では、年長児で薬物療法に反応が乏しい症例に限り胸腺摘出を行うこともあります。
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